KICK BACK

早く4ね

文字の大きさ
上 下
1 / 1

 、

しおりを挟む
「歌を聴きながら曲は作れないけど、歌を聴きながら文字を書くことは出来るんですよね」

 とあるテレビ番組でアーティストがそう言っていた記憶が蘇る。

「創作の才能があるかどうか見極める方法はクオリティは加味せず、"完成させられるかどうか"かである」

 どこかのサイトで誰かがそう呟いていた記憶が蘇る。

「盗用であると公言したこの瞬間、盗用はオマージュに姿を変える。盗用とオマージュの境界線は曖昧に在るようで、実は何処にも存在しない。逆もまた然りである。オマージュは全て盗用になり得る危うさを持つ。」

 世界で1番好きなアーティストがそう記していた記憶が蘇る。

「あーーーーー」

 風邪薬を数十錠適当に右手に出して、一気にスポーツドリンクで飲み干す。

「つまり中身がどうであれオチをつけられる人間が創作家になれて未完ばかりの自分はミカンみたく酸っぱい????」

 俺はこの脳内から流れる景色を存分に表現したいのに、どうにも出来ない。その辛さは鏡に向かって「お前は誰だ」と永遠に言い続けるくらいの大きさであった。

「空想が出来ない」

 俺が書く文章には必ず現実が絡みついている。これは既存の物で既存の物を作る様なもので、一生自分自身を体現することが不可能である事を意味する。つまり

「つまりー……現実と空想をかき混ぜてフィクションと謳ってしまえばいい???」

 俺は23年間何をしてきた?薬漬けになって腕を切って過呼吸になって自殺未遂をしての結論がこれか?

 こんな現実は嫌だなぁ?嫌なら書き換えてしまえばいい。頭の中でなら人を殺そうが罪を犯そうがなんら問題ない。

「起承転結の承」

 並行世界の俺は散歩でもしようと考えて外に出た。歩きタバコをしながら鼻歌を歌っている。

「努力、未来、ふんふふん~」

 フラフラした体をなんとか保ち、自販機にタバコを押し付け火を消す。震える手でポケットに入れてきた小銭を適当に全部投入していく。140円の炭酸水を選ぶ。ああ、俺もこの炭酸水の様に透明で弾ける人生を歩めたらーー

「ガコンッ!ピロリピロリピロリピロリピロリピロリピロリピロリピロリピロリ」

 この自販機にはルーレットがあったのか。どうせ当たらないのに何故こんな機能を自動販売会社は付けたのだろう。馬鹿だなぁ。

「4 4 4 3」

「ほら外れた!」

 積もりに積もった苦痛を吐き出すかのように自販機を蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。

「落ち着こう
「kick back」の意味・「kick back」とは
「kick back」は英語のスラングで、リラックスする、くつろぐという意味を持つフレーズである。また、仕事や学校などの日常生活から一時的に離れて、自由な時間を楽しむというニュアンスも含まれている。」

「つまり俺は現実と空想を一旦捨てたのか」

「当たり!」

 通行人が首を真反対に回転させて俺を指さす。目が気持ち悪いな。目が気持ち悪いな。目が気持ち悪いな。大事なことなので3回言いました。

「死ね!」

 俺は俺の汚れを洗い流そうとコインランドリーに入る。人1人居ない、がら空きの廃れた場所。

「今日はラッキーデイ!」

 人は居なければ居ないほど幸福である。話が変わるけど、グダグダとあれが欲しい、これが欲しいと呟いてないで俺にしか出せない味を出せよ。

「1675187345時間の洗濯を開始します」

 ササッと設定してドラムの中に入り、体育座りみたいな体勢になる。かったるい油汚れもこれでバイバイ。

「ガタゴトガタンゴトンガタゴトトトトガタンゴトンガタガタガタゴ」

 全部がぐるぐるとルーレットの様に回る!輪廻転生しそうなぐらいだ!

「最近ラッキーな事が良く起こるんだよねぇ」

 知らぬ女の胸の中で俺はそう言っていた。この人がマイハニー?顔はぐちゃぐちゃに塗りつぶされて思い描けない。

「そうなんだ。……なんか忘れてなぁい?」

 女の声が聞こえる。

「誰だ、誰だこの女は!?」

「なんか忘れてる」

 頭の中にひたすら呼びかけてくる。何が?俺は何を忘れてる?お前は誰だ?

「ちょっと待て」

 俺は目を開き洗濯機のドアを無理やり蹴飛ばして出る。全部洗い流されていた。流さなくて良い物も、流して欲しい物も。

「なんか忘れてる」

 俺は脳内で女と復唱して眼球をギョロギョロと動かす。

「何だこの地獄は」

 頭からつま先まで、ゆりかごから墓場まで、全部ハッピーで埋め尽くしてくれよ。腹が空きすぎて吐きそうな人生だ。

「幸せってなんだっけ!!!」

 笑ってひたすら外を走りながら俺は叫ぶ。ただ幸せになりたい、楽して生きていたいだけなのに。貴方の心臓をこの手に掴みたい。

「良い子だけが迎える天国なんてつまらないでしょ?」

 老婆が腕を掴みそう言う。

「分かりきったこと言ってんじゃねえよババア!!!俺はなんか忘れてるんだ!!!」

 振りほどいて腹を蹴り飛ばす。するとまるでチェンソーで切り刻んだかの如く血が溢れ出る。

「アハハ!」

 何もかも消し去りたい。努力なんてしたくない。未来なんて見たくもない。美しい星なんて無い。老婆の血が雨となり景色をどんどんどす黒い赤に染めていく。

「誰かこの醜い俺を貶せ!笑え!殺すぞ!」

 立ち止まって息を整え、通行人共に呼びかけても1人も反応しない。俺以外全員傘をさして血の雨を凌いでいる。ズルい。

「その傘をくれよ!寄越せ!」

 たまたま目の前に通りかかった女を蹴飛ばして奪い取る。けれどもう遅かった。袖が、肘が、腹が、頭が、全部全部真っ赤になっている。

 「なんか忘れてる」

 呟いた途端、人達が全員、俺の方を向いて指をさして笑い出す。

「アハハ!そう!それでいい!全部笑ってくれ!全部奪ってくれ!俺は俺が要らない!」

 脳の信号から快楽が流れ込み、ハッピーで埋め尽くされる。全部欲しい。全部要らない。ただ虚しい。

「気持ち悪い」

 さっきの女の声が聴こえる。俺を見下して笑っている。ゾクゾクとして一瞬にして鳥肌が全身に立つ。ハッピー、ラッキー。ハッピーラッキー。ハッピーラッキー……!

「なんかすごい良い感じ」

 今が幸せならいっか。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...