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「ここがお前たちを尋問する部屋だ。別に殺傷能力がある器具があるからと言って拷問部屋という訳ではないぞ。しっかり口を割ればこれを使うこともないからな、正直に話しているかはこちらの判定眼持ちの者が見極めるから嘘などつくのは言語道断だ。では私はこの魔道具を調べに行くとする」

 拷問器具は置いてあるが隊長が言うには拷問部屋ではない。しかし正直に口を割らなければこの殺傷能力ありの器具で拷問が行われるらしい。つまり正直に話せば拷問部屋では無い訳で嘘をつけば確実な拷問部屋となるという訳だ。
 普通なら拷問は口を割らせるまで殺さない程度に虐げるものだとばかり思っていたが、ここでは殺してしまってもいいらしい。殺してしまっては本末転倒ではないのかと疑問符を頭に浮かばせる少年だが、今更そのような常識を突っ込んでも意味はない。

「それでは一人ずつこちらへ来てもらいますよ。ではそこの少年から」

 よぼよぼのいかにも老いぼれという老人が二人に手招きをする。そして少年はされるがままにしてそちらへ歩みだした。
 少年が自発的に歩いている訳ではない。老人が手招きをする度に足が踏み出される。そう少年は完全に老人の手駒として操られているのだ。
 少年は直感的にヤバイと恐怖を募らせた。

 少年が部屋へ入ると頑丈な扉が閉められ狭い個室に二人きりとなった。そして老人が椅子に座り込むと、少年も自然と椅子に腰を掛けた。

「それでだが、お主の名前と出身地から聞くとしようか」

 低い声で目を細めながら老人は話を切り出した。少年は日本で警察に事情聴取など受けたこともないので緊張し、完全に老人を恐怖していた。

「えー、な、名前は篠崎ハルヤ。出身地は遠い所です」

 流石にこの世界で日本なんて存在する筈もないと分かっているので言葉を濁しながらハルヤは答えた。だが別に日本はここから遠い存在な筈で、間違っていることはない。

 しかし老人は疑念を浮かべた表情でハルヤを見ている。それにビクビク震えていると、

「名前はシノザキか? ハルヤという苗字は初めて聞いたが……」

「いやハルヤが名前で苗字がシノザキです」

 そう答えるとようやく納得したという表情を浮かべ、

「お主、イースタの産まれじゃの。通りで珍しい名前だと感じる訳だ。イースタだけは苗字と名前が逆になり、不思議な名前の奴が多いのよな」

 老人は物珍しい物を見るように嬉々となり、いろいろと質問攻めとなる。

「それでお主はイースタの産まれで間違いないの?」

「は、はい」

 反射的にそう答えてしまったが後になってハルヤは気づいた。自分はイースタの生まれではないことに。しかしもう手遅れ、老人は怪訝な目でこちらを見つめていた。
 
「お主、イースタの産まれじゃないの。正直に話さんか!」

 自分が勝手にイースタ産まれと勘違いしたくせに嘘を吐いたなと怒鳴り散らす。そんな老人を見てハルヤはどこの老人も変わらないもんだなと思ってしまった。
 そしてハルヤは言いにくそうに顔を俯け、

「はい。俺は日本産まれです」

 こうなったらもう言い逃れは出来ない、そう感じてハルヤは正直に答えた。
 ハルヤは老人が何処の国か分からず戸惑っているのではと思い、俯けていた顔を上げた。
 しかしそこにあったのは見当違いの老人の表情だった。それは何処か歓喜に満ちたような。

「に、日本じゃと。ま、まさか、あの伝説の」

 その言葉にハルヤは首を傾げた。日本が伝説の国、つまりこの世界には最低でも一人、ハルヤ以外に日本人がいるという事になる。

「だが、まだ信じないぞ。そうやって言い逃れしようとしているだけかもしれんからな。だが、一つわしの願いを叶えてくれたら信じない事もないぞ」

「願いとは……?」

「わしを日本に連れて行ってくれ。伝説の国に行けたらどれほど幸せなことか」

 その願いを叶える事は不可能だ。まずこの世界の事すら分からないのに、日本に帰るなんて事はまず不可能、それが可能なら今すぐ日本に帰っている事だ。
 だが今はそれが不可能。つまりは、

「今は、といよりこれからもそれは無理だと思います。その願いだけは聞くことが出来ません」

「そうか……」

 ハルヤは老人が、悲しそうな顔をするのかと思っていたが、それとは見当違いの表情をする老人に困惑する。

「それは良かった」

「へ?」

「うむ、良かった、良かった。お主が嘘を付いていないことはよーく分かったわい」

「へっ? でも願い叶えられていない……」

「いいんじゃよ。逆に日本に行けると言い出したら逆にしばいておったわい。日本から来た勇者たちは皆揃って日本には戻れないと言うらしい。つまりお主も勇者の可能性が、いやお主は勇者なのじゃろう?」

 突然の手のひら返しにハルヤはよけいに困惑する。

 老人は判定眼である程度は分かっていたが分かったうえでハルヤにカマをかけたのだ。何とも嫌らしい老人である。それもこれも全ては年の功だ。

「日本産まれの勇者はの、大抵強力なスキル、武器を持っているものだ。しかしお主にはそれが見当たらんのう」

「それなら多分、隊長が持っていった、鉛筆だと思いますよ。日本ではそんな凄い物ではなかったんですがこの世界では神器級の武器と言われまして、それであの男とも喧嘩になったんですよ」

 ハルヤの話を聞いて老人はふむふむと頷く。そして、バンと机を叩くと、

「お主らは二人とも開放してやる。だが、一つわしの願いをきいてもらうぞ」

「日本に行くわ無理ですからね」

「分かったとるわい。願いはお主にこの王国騎士を努めてもらう事じゃ。どうじゃ悪いことは言わん、ここで働くつもりはないかえ?」

 ハルヤは目を見開いて驚愕する。
 こんな好条件の中で断る理由などある筈もない。いずれ金銭に困るだろうとは思っていたがこれなら困ることはないだろう。

「はい、働きます! よろしお願いします!」

「ははは、元気がええの。やっぱ若いのはええのぉ」


 こうしてハルヤは国家衛兵の騎士として働く事となった。
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