1 / 3
1
しおりを挟む
のどかな草原に一人場違いな格好で少年が屹立していた。年は十代そこらで身長も平均、体つきはどうかと言われると少し細目かもしれない。
少年は辺りを見回すと、見知らぬ光景に、目を見開き、子供が何かを初めて知った時のように驚愕した。
少年は夢かと思ったのか自らの頬をつねったり、叩いたりしてみたが、夢は覚めることなくむしろ明確にハッキリとした視界に変わっていった。
「どこ、ここ?」
一人で呟いてみるが誰も答えてくれない。少し心細い気持ちになった。一人立ちとはこんなにも心細く不安でいっぱいになるのだとこの時初めて知った。
少年は挙動不審になり、あちらこちらを見渡す。そこには日本ではあり得ない光景があった。
見たこともない生物、生物じゃないと言われれば生物じゃないかもしれないかも知れないが、生物というのもなきにしもあらず。端的に言うと緑色をした液体の塊が動いていたのだ。そう、ファンタジー世界では様式日と言っていいほどお馴染みのスライムである。
少年は何か良い策はないかと考えるがこの緊迫した状況下では出る策も出ない。そして意味もなくポケットやら何やらをむさくり、何かが手に触れた。少年は迷いなくそれを取り出す。
そこにあったのは日本ではよく見た長細い気で真っ黒な鉛が包まれた筆記用具、そう鉛筆。
「何でだよ、こんなの何処に使い道があるんだ! もっと役に立ちそうなものはないのかよ、一体俺は日本で何をやってたんだ」
スライムが目の前にいることで慌てているのか、少年はポケットから出てきた鉛筆に怒り、こめかみに血管を浮かばせた。怒りと同時に、未知の生物が近づいて来ていることに恐怖を覚える。
スライムなんてものは雑魚キャラとしか扱って来なかった少年だが、ここは自分の操作するキャラが戦ってくれる事はなく、自分で戦わなければならない。つまりここでは雑魚も強敵に変わり、現実の死を間近にしている感覚に襲われる。
少年は躍起になり、鉛筆を投げ捨てた。
────刹那
鉛筆は唸りをあげるように猛スピードでスライムへと突進する。まるで少年の手から弾丸が撃ち放たれたかのように。
鉛筆は風を切り裂くような轟音とともに、鉛が突き出た尖っている先の部分でスライムを貫いた。
「え!? あの鉛筆が? この何の変哲もない、ノートに文字を書くことしか出来ない鉛筆が……? てかあの威力は何だったんだ? 俺にあんな力はない筈だし、野球とかそういう投擲系のスポーツは経験がないし、まさか潜在能力的なやつ?」
少年は調子に乗り、その場に落ちていた木の枝を掴み取り、ダーツのように手首で投げ飛ばす。
しかしその枝は彼の期待など簡単に裏切るようにして、数センチ程飛んでいったかと思うと急激に威力が抜け落ち、パタリとその場に落ちた。
「んんー? 何でなんだ、やっぱり鉛筆じゃないと駄目なのか? 確かに鉛筆なんてものはポケットに入れた覚えはないし、ここに入っていたということはそれなりの理由がある筈だしな」
少年は液体の塊が唯の液体になった場所へと歩み寄り、鉛筆を拾う。
そして少年は鉛筆の隅から隅まで見渡す。しかしどれだけ入念に見たところでその場にある鉛筆はそこらのとなんら変わらない唯の鉛筆だった。
「何でなんだ? やっぱり唯の鉛筆だ。いや、もしかして…」
──これはラノベなどでよくあるユニークスキルというやつでは?
そんな思考が少年の脳裏を駆け巡った。
鉛筆と少年の間にだけ成り立つユニークスキル、たしかにありえなくもない話だ。なんせこの見知らぬ世界から現実離れしているから。
少年は鉛筆を掴む。そして空中に空書きしてみた。
空中に黒黒とした文字が浮かび上がる。まさか鉛筆で空中に文字を書けてしまう時代が来るとは思ってもみなかったというように少年は目を見開き、驚愕する。
少年は面白半分で空中に文字を書き始めた。
「こうして、こう書いて跳ねてこうっ」
少年が空中に書いた文字は『火炎』。なぜ火炎を書いたかというと、唯少年の中二心が刺激され何かしら書いてみたら具現化出来るのではと思っただけに過ぎない。
その予想は的中だった。
火炎という文字はゆらゆらと原型を留めなくなり、そして『ブウォッ!』という音共に炎が巻き起こった。
草原に炎が移り、次第に広がっていく。
「や、やばい。自分でまいた種だけど俺死にそうっ! そ、そうだ!」
少年は咄嗟に鉛筆で文字を書き始める。
『水』
しかし水だけでは草原に広がった炎は消せなかった。なぜかって、『水』から出た水はコップ一杯程度だからだ。
『水流』
文字から川の流れ程の水量が湧き出す。
──これなら。
文字が巻き起こした事態をなんとか文字で収拾をつけた。
「はぁこのスキルは使い勝手はいいけど迂闊に使うもんじゃないな」
そう呟いたのも束の間、背後から誰かが声をかけてきた。
「お前、その魔道具はなんなんだ!」
少年は辺りを見回すと、見知らぬ光景に、目を見開き、子供が何かを初めて知った時のように驚愕した。
少年は夢かと思ったのか自らの頬をつねったり、叩いたりしてみたが、夢は覚めることなくむしろ明確にハッキリとした視界に変わっていった。
「どこ、ここ?」
一人で呟いてみるが誰も答えてくれない。少し心細い気持ちになった。一人立ちとはこんなにも心細く不安でいっぱいになるのだとこの時初めて知った。
少年は挙動不審になり、あちらこちらを見渡す。そこには日本ではあり得ない光景があった。
見たこともない生物、生物じゃないと言われれば生物じゃないかもしれないかも知れないが、生物というのもなきにしもあらず。端的に言うと緑色をした液体の塊が動いていたのだ。そう、ファンタジー世界では様式日と言っていいほどお馴染みのスライムである。
少年は何か良い策はないかと考えるがこの緊迫した状況下では出る策も出ない。そして意味もなくポケットやら何やらをむさくり、何かが手に触れた。少年は迷いなくそれを取り出す。
そこにあったのは日本ではよく見た長細い気で真っ黒な鉛が包まれた筆記用具、そう鉛筆。
「何でだよ、こんなの何処に使い道があるんだ! もっと役に立ちそうなものはないのかよ、一体俺は日本で何をやってたんだ」
スライムが目の前にいることで慌てているのか、少年はポケットから出てきた鉛筆に怒り、こめかみに血管を浮かばせた。怒りと同時に、未知の生物が近づいて来ていることに恐怖を覚える。
スライムなんてものは雑魚キャラとしか扱って来なかった少年だが、ここは自分の操作するキャラが戦ってくれる事はなく、自分で戦わなければならない。つまりここでは雑魚も強敵に変わり、現実の死を間近にしている感覚に襲われる。
少年は躍起になり、鉛筆を投げ捨てた。
────刹那
鉛筆は唸りをあげるように猛スピードでスライムへと突進する。まるで少年の手から弾丸が撃ち放たれたかのように。
鉛筆は風を切り裂くような轟音とともに、鉛が突き出た尖っている先の部分でスライムを貫いた。
「え!? あの鉛筆が? この何の変哲もない、ノートに文字を書くことしか出来ない鉛筆が……? てかあの威力は何だったんだ? 俺にあんな力はない筈だし、野球とかそういう投擲系のスポーツは経験がないし、まさか潜在能力的なやつ?」
少年は調子に乗り、その場に落ちていた木の枝を掴み取り、ダーツのように手首で投げ飛ばす。
しかしその枝は彼の期待など簡単に裏切るようにして、数センチ程飛んでいったかと思うと急激に威力が抜け落ち、パタリとその場に落ちた。
「んんー? 何でなんだ、やっぱり鉛筆じゃないと駄目なのか? 確かに鉛筆なんてものはポケットに入れた覚えはないし、ここに入っていたということはそれなりの理由がある筈だしな」
少年は液体の塊が唯の液体になった場所へと歩み寄り、鉛筆を拾う。
そして少年は鉛筆の隅から隅まで見渡す。しかしどれだけ入念に見たところでその場にある鉛筆はそこらのとなんら変わらない唯の鉛筆だった。
「何でなんだ? やっぱり唯の鉛筆だ。いや、もしかして…」
──これはラノベなどでよくあるユニークスキルというやつでは?
そんな思考が少年の脳裏を駆け巡った。
鉛筆と少年の間にだけ成り立つユニークスキル、たしかにありえなくもない話だ。なんせこの見知らぬ世界から現実離れしているから。
少年は鉛筆を掴む。そして空中に空書きしてみた。
空中に黒黒とした文字が浮かび上がる。まさか鉛筆で空中に文字を書けてしまう時代が来るとは思ってもみなかったというように少年は目を見開き、驚愕する。
少年は面白半分で空中に文字を書き始めた。
「こうして、こう書いて跳ねてこうっ」
少年が空中に書いた文字は『火炎』。なぜ火炎を書いたかというと、唯少年の中二心が刺激され何かしら書いてみたら具現化出来るのではと思っただけに過ぎない。
その予想は的中だった。
火炎という文字はゆらゆらと原型を留めなくなり、そして『ブウォッ!』という音共に炎が巻き起こった。
草原に炎が移り、次第に広がっていく。
「や、やばい。自分でまいた種だけど俺死にそうっ! そ、そうだ!」
少年は咄嗟に鉛筆で文字を書き始める。
『水』
しかし水だけでは草原に広がった炎は消せなかった。なぜかって、『水』から出た水はコップ一杯程度だからだ。
『水流』
文字から川の流れ程の水量が湧き出す。
──これなら。
文字が巻き起こした事態をなんとか文字で収拾をつけた。
「はぁこのスキルは使い勝手はいいけど迂闊に使うもんじゃないな」
そう呟いたのも束の間、背後から誰かが声をかけてきた。
「お前、その魔道具はなんなんだ!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる