はるけき世界の英雄譚

白澤建吾

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レジスタンス編

ボーデュレア

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 砂漠の手前、草原に作られた集落であるボーデュレアには常夜灯として篝火を炊くことはない。
 集落としては大きくないので治安がいいことと、木が高額なので木はそのまま燃やすことが理由としては大きい。

 ボーデュレアの街では酒場兼宿屋の1階に人の上半身が見えるくらいの大きさの窓が開けられている建物がいくつかあり、素泊まりをするだけの宿に止まった人や、酒場から出てきた酔っ払いがランタンを持って歩き、通りかかる男達にその窓から顔を出した女性が声をかける。

宿と飲み屋といかがわしい店が併設されている場合、他の街では薄暗い街角や明るい場所で花を見せつけるようにして客を取るのだが、ボーデュレアでは篝火やイ・ヘロの魔道具なんかの灯りを置かずに暇そうにしている花が客になりそうな男に声をかける。
 店のなかをわざと明るくして逆行で嬢の顔が見えづらいようにする。
 すると確認するためには近くに寄っていかなくてはいけないし、好みであればお近づきになりたくなるというのも人情だろう。

 土地の広さに限界があり、働き手も多くない。
 いくらでも入れ替えられる都会と違って使い捨てにはできないために、嬢と数人の男が窓越し話しをして気に入られた者だけが明るい所で嬢の顔を拝むことができる。

 ボーデュレアで働く者は新天地を求めてバドーリャから来たはいいが、ファラスではよそ者と馴染めず、エルカルカピースでは需要が少ないティセロスは遠すぎるがバドーリャにはもう帰れない、そんな事情がある者たちが多い。
 こういう店で働く嬢は旅人からは、彫りが深く手足の長い褐色で健康的な彼女らはランタンの光がよく映え大変蠱惑的なんだそうだ。

「おにいさん達今日ここ来たの? お嬢さんたちと一緒にお食事なんてしてかない? 今日は暇でさ、サービスするよ。2階使うなら2人までにしてね、おにいさんでもお嬢さんでもいいけど」
 気だるげに窓枠に寄りかかったほっそりとした手足の女性に声をかけられた。
 なんとなく話しを聞いてみたくなって4人で近寄ってみる。
「あたしマリア、よろしくね」
 窓枠に胸を乗せて寄りかかって気だるげに握手を求め、ロペスとルディが答えると私達の方をみてほれほれと手を揺らしてくるのでしょうがなく握手をした。
 
 握手をしながらマリアの胸につい目が行ってしまったのを振り払って食事について聞いてみる。
「今ついたばっかりだしお腹空いてるんだ。なんか美味しいものある?」
「あるある、うちの料理はちょっと値が張るけど美味しいよ。なんたって魔法の氷室があるからね」
「ねえ、カオル。すごい胸!」
 イレーネが私の袖を引っ張って興奮して囁いた。

「ちゃんとしたものが食べられるならいいんじゃないかな」
 ロペスがまとめみんなが同意したところでマリアがそっちの表側から入ってねいう言葉に従って、建物の向かって左側のドアから酒場に入った。
 売春宿に併設されている酒場なんてどんな怪しい酒場かと思ったらちゃんとした明るい、普通の酒場だった。
 屋外はまったく灯りがないのに屋内はイ・ヘロの魔道具に照らされ目が眩む様な明るさだった。

「いらーっしゃーい、こっちこっち」
 踊り子の様な衣装のマリアが手招きをして呼ぶ。

 ロペスがこなれたように少し手を上げて答え、招かれたテーブルに向かう。
 ささ、座って座って、とマリアに促されてイレーネと私が座り、向かいにルディとロペスとマリアが座った。
 座るんだ、と驚いているとイレーネもルディも驚いているので私が知らないだけではないらしい。
 ロペスはまんざらでもなさそうなので放っておくことにする。

「晩ごはんなら羊肉と赤タタンプと豆のスープとパンが美味しいよ。あとは」
「じゃあ、それ」
 なんだかんだまたお腹が空いてしまったので間髪を入れずに注文をする。

「あとは羊が入ったから羊のスパイス焼きのフルーツソースがけと、飲むなら冷えたエールがあるよ。冷えてないものあるけど、飲むなら別料金だけど冷えてたほうが絶対おいしい」
「飲みたいなぁ……」
 イレーネがぽそっと呟いた。
 酔うと身体がうまく操れなくなるイレーネならではの悩みだ。
「今日は酔いつぶれたらお姫様抱っこで連れて帰ってあげるから飲んでもいいよ」
 ずっと我慢してきてまだ我慢しろ、というのも可哀想なので、そうイレーネに囁くと、眉間に皺を寄せてしばらく考え込んで唸り声を漏らしてから
「じゃあ、飲む」
 苦々しいやら嬉しいやら複雑な表情を浮かべて注文に追加した。
「じゃあ、待っててね」
 と、言い残してマリアが店の主人に注文を伝えに行くと、そのまま奥からエールが入ったジョッキを5つ持ってきてテーブルにドン! と置いた。

「はい! おまちどう! 1杯目はサービスだよ!」
 やったー! と全員で一気に飲み干す。
 1日歩いてきた体に冷えたエールが沁みるー、と全員飲み干した所でマリアが囁いた。
「で、この中に魔法使いの人いるよね、協力してほしいんだけど」
 思わずみんなハッとしてマリアの顔を見ると嬉しそうに微笑み、私の顔を見て言った。
「やっぱりあなたかな?」
 なんのことですかね、と恍けようとした時
「だって、さっきお姫様抱っこで連れて買えるって言ってたじゃない」
「私がただ彼女を担いで帰れるだけの力があるってだけの話ですよ」
「ふぅん……、別に偉そうにしてるファラスから来てるなんとかに告げ口しようとかそういうことじゃなくて……警戒させちゃってごめんね」
「ことと次第によってはここにいる全員がただじゃすまんぞ」
 ロペスが小声で言ってにらみつけ、私はあちゃーと心の中で頭を抱えた。
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