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士官学校編
ルイス教官のしらない一面と魔法薬の作り方
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「今日は高等魔法学校の講師に来ていただいたのでしばらくの間、上級飲み薬の作り方を教えていただく」
ルイス教官の隣に立った見知らぬご婦人は高等魔法学校の人らしい。
紹介が終わると、ルイス教官は少し離れて椅子に座って授業を見守る体勢になった。
紫がかったグレーの髪のふくよかな女性は優しげに微笑むと
「ただいまご紹介いただきましたリタ・エリアです、あちらでは魔法薬の専門で教鞭をとっておりますわ」
そう言ってルイス教官の方を一瞬見たかと思うと、
「なぜ、わたくしが呼ばれたのかということから説明が必要になるかと思うのですが、じゅう…3年? 4年くらい前かしらね、ルイス君がわたくしの所に直談判しに来ましてね」
ルイス君……
「先生、授業以外のことは」
「まあまあ、熱意ある生徒の話は大事な話ですよ」
そっと手で制すると、立ち上がろうとしていたルイス教官は諦めて座り、膝の皿が砕けんばかりに指でタップしていた。
「魔法薬の作り方を習いたいのですが、個人的にお願いするにはいくら必要でしょうか! って
目をキラキラさせながら士官学校の制服を着た男の子が来ていうものですから、
どこまで作れるの? と聞いたの、そうしたら4級の飲み薬までは作れます!
なんていうから魔力回復飲み薬の2級と5級の飲み薬も作ってらっしゃいな、
そうしたら授業1回、銀貨5枚で個人的に授業をしましょうって返事したの、そしたらすごく嬉しそうに帰っていって」
リタ先生がルイス教官を見ると、みんなが一斉にルイス教官を見た。
すごくバツの悪そうな顔をして帰りたそうにして頭をバリバリとかきむしっていた。
「それから何日か、1ヶ月は経たないくらいだったから20日くらいかしらね、音沙汰なくて諦めたのかな? と思ってたらアーグロヘーラ大迷宮まで遠征に行ってました! っていうのよ、そんな危険を犯してまでわたくしの授業受けたいのね、って思ったらうれしくってうれしくって、で、それから教官になって何年かに1回、優秀な生徒が来たんです、授業お願いしてもいいですか、ってくるようになったのよ、ルイス君こう見えてすごく生徒思いじゃない?」
リタ先生のルイス教官はいかに生徒思いで、なんとか生き残らせるために個人で
カリキュラムにない魔法薬の作り方なんて教えているという。
個人で、という所には一言いいたいのだけれども。
それからしばらくもお喋りは止まらない。
リタ先生はすごくしゃべるタイプのおばちゃんだった。
「今年も聞く所によると優秀なんですってね? あたくし楽しみで楽しみでいつもはなかなか優秀なのがいるからっていうんだけど、今年は優秀で面白いなんていうものだからものすごく早く来ちゃって」
「あなたかしら? それともあなたかしら?」
リタ先生は好奇心と喜色の目で私とイレーネの前に立った。
面倒な予感を感じ取った私はイレーネを指さしたが、イレーネも同じ予感を感じたらしく私を指さしていた。
「まあ、お友達思いね! あ、そうそう! みんなに自己紹介してもらわなきゃ!」
リタ先生の勢いは止まらない。
「まずはわたくしから、リタ・エリア、ファラスから遙か西の国、リボーサという国の出なんですけどね
知ってます? 昔は陸続きの長い国だったらしいのですけど、800年前に真ん中が魔族に沈められちゃって1つの国の中で
陸側と海側って言われるうちの海側にうちがあるのよ、で兄が3人と姉が1人に妹が2人、弟が1人いるんだけど、
家督次ぐ話になった時に」
そういうと胸を張って手を当て、偉そうな雰囲気で声を低くして言った。
「お前に家督を継がせると本と飲み薬の材料で家が傾く、早急に出て研究者にでもなるがいい、なんていうの、ひどい話じゃない? まあ、なるまでのお金は出してもらったんだけどね。
あ、でもここにいる子達はみんな似たような境遇よね、じゃあ、貴方から自己紹介してちょうだい」
そういって1人ずつ自己紹介をさせ、1人1人の自己紹介に口を挟みながら聞き終わって満足気に頷くと
「では講義は明日から本格的に始めますからね、集合はここではなくいつも調合をしている所に来てくださいね」
というと同時に鐘が鳴った。
ぽかんとする我々を残して優雅に講義室から出ていくと、室内に静寂が訪れた。
「あぁ、そうか、昼か」
最初に動くことを思い出したのはペドロだった。
生命力を吸い取られた亡者のように動き始め、戸惑いながら昼食を取るためにそれぞれ食堂に向かった。
「なんかすごかったね」
イレーネにそう言われて頷くしかなかった。
すべての言葉を置き去りにして印象だけを残していったリタ先生。
明日からついていけるだろうか、と不安感しかなかった。
午後の実技もなんだかふわっとしたまま過ごしてしまい、ヴィク教官にどやされた。
──次の日──
「さて、今日の飲み薬作成講義ですけど、ルイス君にお願いされたとおりに9級のものを作ります、これは骨折、内臓、切断の修復に効きますが、欠損をもとに戻す効果はないので、
手足が切断された場合は切断した先の手足が必要になりますよ。
野獣や魔獣に食べられた、なんてケースで内臓が一部でも食べられている場合は使っても無駄になりますからそれも注意するのよ」
骨折、と聞いてつい、ペドロをみてしまった。
ペドロは思い出したのか、折れた箇所をなでて真剣な表情でリタ先生の話しを聞いていた。
「材料はルイス君が手配したから配りますね」
そう言って1人ずつ呼んでは材料を手渡しした。
前も使ったピリーコが10粒に魔石が10個、小瓶と森の主の時に切り取った森の主の角の欠片だ。
いつもの作業なので慣れたもので五徳に鍋を乗せて火を使おうとすると
「はいそこ、勝手にやらないのー」
と、注意されてしまったので、そっと手を引っ込めた。
「まず、五徳に鍋を乗せましょう、いつもと一緒よね、いつもは6級までは気にしなくていいんだけど
7級からは作る時に魔力の伸びを良くするのと清潔にするために鍋の内側を火で焼くのよ」
そう言って鍋の中で火を踊らせ金属の鍋を消毒した。
「はい!熱いうちに水を鍋いっぱいにいれるのよ
もう中の水は温かくなってきているから沸騰する前にピリーコを全部潰していれて頂戴」
優雅な手付きでものすごい勢いでピリーコを潰して入れていった。
鍋の中でピリーコを潰しながら質問してみる。
「すみません、沸騰前ということは氷塊とか使って温度下げてはだめなんでしょうか」
「だめではないのだけど、ちょっと雑味がでちゃうからあまりやらないほうがいいんだけど、それも経験ね、いいでしょう!沸騰する前に氷塊でちょっと温度下げちゃって」
言われるがままにこぶし大の氷塊を入れ、鍋の中で手を洗うように両手をこすり合わせてピリーコの実をぐちゃぐちゃに潰して水に溶かした。
「沸騰したら女神の手の蜜、この小瓶ね、1滴ずつ溶けるのを確認しながら少しずつ追加していくのよ、一気に入れるとピリーコが凝固して魔力の融解効果が悪くなってしまいますからね、あ、そうそう女神の手っていうのは山に生える花なんですけどね、薬の材料に使えるのは雲の上に生えたものだけなの、こう、白くて女神様の手の様な白くて優しい感じがする綺麗な花なのよ」
話が逸れていく間にも鍋の中では作成途中の飲み薬がぐつぐつと煮えている。
「すこしこうして煮立たせてから火を止めて森の主の角の欠片を優しく鍋底に沈めて」
そう言って火を消すと、ゆっくりと森の主の角の欠片を沈めた。
「こうしてしばらく待つと角が溶けて白く濁るから溶け切った所で沸騰させないくらいの弱い火をつけるのよ」
そろそろ全部まとめて入れたくなってきた。
「後は魔石を溶かすだけだからもうすこし頑張ってね、魔石を溶かす時は魔力を込めたかき混ぜ棒でゆっくり回しながら1つずつ溶かしいれていくのよ」
優雅にくるくると優しくかき混ぜながら魔石を1つ、飛沫が経たないように入れた。
真似をしてかき混ぜながら入れてみてもかき混ぜ棒が魔石にぶつかるしそのせいで飛沫が立つので上品さというものの習得難易度の高さが伺い知れた。
1つずつ魔石を入れていくと、少しずつ赤く色づいていき、真っ赤になった所で1人ずつに声を掛け、その色で完成です、その色を忘れないで、と言っていた。
「そのまま飲んだりかけたりすると9級飲み薬として効くけど、薄める時はちゃんと水で薄めるのよ」
飲み薬を瓶に入れ、コルクで蓋をして完成となる。
鍋一つで4本の9級飲み薬になるのだが、常温での保管は季節にもよるが1ヶ月~2ヶ月、
おがくずや使っていない布を敷き詰めた木箱で凍える風で凍らせて保管すれば1年は大丈夫とのことなので
街へ出て木箱とおがくずをもらってくるまでそれぞれ、名札を付けた飲み薬瓶をルイス教官が預かってもらった。
その日の午後の模擬戦をなんとかこなし、飲み薬作成講座3日目、すでに作った9級の飲み薬の復習を行い、頭より手のほうが優秀なのはさすがルイス君の教え子ね、と嬉しそうに言われ、
4日目以降は、材料が手に入らないので座学で10級、11級の失われた欠損が元に戻る飲み薬の作り方を学んだ。
材料は手に入らないわけではないが恐ろしく高価な物なので、メモをしておけば覚えておく必要は無いと言われた。
それよりもノートを取っておく必要があるのは高級になればなるほど、材料の加熱と投入タイミングがシビアになっていくということで、
「本当は難易度の高い飲み薬の作り方はやって見せたいんだけど材料は高いし貴重だし、魔法学校でも材料が集まった時は全校生徒を集めて講堂で遠目から見るのがせいぜいなの」
ということで、楽しくないといえば楽しくない解説を聞いて、ただノートを取って暗記し、リタ先生の好きな飲み薬や好きな花や好きな素材の話しに脱線しつつ飲み薬講義が5日目まで続き、リタ先生の講義が終わった。
リタ先生は1人1人に軽くハグをして
「あなた方が高等魔法学校に来ていたらいい薬師になっていたかもしれないと思うと、もったいないと思ってしまいますね。
特にカオルちゃんは飲み込みも早くて魔力もあって面白くて優秀なのがいるというルイス君の評価も納得ですね、そもそもここの子達は魔力が多すぎるのです」
白熱したリタ先生による5級の飲み薬なんて
3年生になりたての生徒が気軽に作れるようなものじゃないんだ、
という話しを楽しそうに話していたのを聞き流して9級はいつ作るはずだったものなのかな、ということに思いを馳せた。
ルイス教官の隣に立った見知らぬご婦人は高等魔法学校の人らしい。
紹介が終わると、ルイス教官は少し離れて椅子に座って授業を見守る体勢になった。
紫がかったグレーの髪のふくよかな女性は優しげに微笑むと
「ただいまご紹介いただきましたリタ・エリアです、あちらでは魔法薬の専門で教鞭をとっておりますわ」
そう言ってルイス教官の方を一瞬見たかと思うと、
「なぜ、わたくしが呼ばれたのかということから説明が必要になるかと思うのですが、じゅう…3年? 4年くらい前かしらね、ルイス君がわたくしの所に直談判しに来ましてね」
ルイス君……
「先生、授業以外のことは」
「まあまあ、熱意ある生徒の話は大事な話ですよ」
そっと手で制すると、立ち上がろうとしていたルイス教官は諦めて座り、膝の皿が砕けんばかりに指でタップしていた。
「魔法薬の作り方を習いたいのですが、個人的にお願いするにはいくら必要でしょうか! って
目をキラキラさせながら士官学校の制服を着た男の子が来ていうものですから、
どこまで作れるの? と聞いたの、そうしたら4級の飲み薬までは作れます!
なんていうから魔力回復飲み薬の2級と5級の飲み薬も作ってらっしゃいな、
そうしたら授業1回、銀貨5枚で個人的に授業をしましょうって返事したの、そしたらすごく嬉しそうに帰っていって」
リタ先生がルイス教官を見ると、みんなが一斉にルイス教官を見た。
すごくバツの悪そうな顔をして帰りたそうにして頭をバリバリとかきむしっていた。
「それから何日か、1ヶ月は経たないくらいだったから20日くらいかしらね、音沙汰なくて諦めたのかな? と思ってたらアーグロヘーラ大迷宮まで遠征に行ってました! っていうのよ、そんな危険を犯してまでわたくしの授業受けたいのね、って思ったらうれしくってうれしくって、で、それから教官になって何年かに1回、優秀な生徒が来たんです、授業お願いしてもいいですか、ってくるようになったのよ、ルイス君こう見えてすごく生徒思いじゃない?」
リタ先生のルイス教官はいかに生徒思いで、なんとか生き残らせるために個人で
カリキュラムにない魔法薬の作り方なんて教えているという。
個人で、という所には一言いいたいのだけれども。
それからしばらくもお喋りは止まらない。
リタ先生はすごくしゃべるタイプのおばちゃんだった。
「今年も聞く所によると優秀なんですってね? あたくし楽しみで楽しみでいつもはなかなか優秀なのがいるからっていうんだけど、今年は優秀で面白いなんていうものだからものすごく早く来ちゃって」
「あなたかしら? それともあなたかしら?」
リタ先生は好奇心と喜色の目で私とイレーネの前に立った。
面倒な予感を感じ取った私はイレーネを指さしたが、イレーネも同じ予感を感じたらしく私を指さしていた。
「まあ、お友達思いね! あ、そうそう! みんなに自己紹介してもらわなきゃ!」
リタ先生の勢いは止まらない。
「まずはわたくしから、リタ・エリア、ファラスから遙か西の国、リボーサという国の出なんですけどね
知ってます? 昔は陸続きの長い国だったらしいのですけど、800年前に真ん中が魔族に沈められちゃって1つの国の中で
陸側と海側って言われるうちの海側にうちがあるのよ、で兄が3人と姉が1人に妹が2人、弟が1人いるんだけど、
家督次ぐ話になった時に」
そういうと胸を張って手を当て、偉そうな雰囲気で声を低くして言った。
「お前に家督を継がせると本と飲み薬の材料で家が傾く、早急に出て研究者にでもなるがいい、なんていうの、ひどい話じゃない? まあ、なるまでのお金は出してもらったんだけどね。
あ、でもここにいる子達はみんな似たような境遇よね、じゃあ、貴方から自己紹介してちょうだい」
そういって1人ずつ自己紹介をさせ、1人1人の自己紹介に口を挟みながら聞き終わって満足気に頷くと
「では講義は明日から本格的に始めますからね、集合はここではなくいつも調合をしている所に来てくださいね」
というと同時に鐘が鳴った。
ぽかんとする我々を残して優雅に講義室から出ていくと、室内に静寂が訪れた。
「あぁ、そうか、昼か」
最初に動くことを思い出したのはペドロだった。
生命力を吸い取られた亡者のように動き始め、戸惑いながら昼食を取るためにそれぞれ食堂に向かった。
「なんかすごかったね」
イレーネにそう言われて頷くしかなかった。
すべての言葉を置き去りにして印象だけを残していったリタ先生。
明日からついていけるだろうか、と不安感しかなかった。
午後の実技もなんだかふわっとしたまま過ごしてしまい、ヴィク教官にどやされた。
──次の日──
「さて、今日の飲み薬作成講義ですけど、ルイス君にお願いされたとおりに9級のものを作ります、これは骨折、内臓、切断の修復に効きますが、欠損をもとに戻す効果はないので、
手足が切断された場合は切断した先の手足が必要になりますよ。
野獣や魔獣に食べられた、なんてケースで内臓が一部でも食べられている場合は使っても無駄になりますからそれも注意するのよ」
骨折、と聞いてつい、ペドロをみてしまった。
ペドロは思い出したのか、折れた箇所をなでて真剣な表情でリタ先生の話しを聞いていた。
「材料はルイス君が手配したから配りますね」
そう言って1人ずつ呼んでは材料を手渡しした。
前も使ったピリーコが10粒に魔石が10個、小瓶と森の主の時に切り取った森の主の角の欠片だ。
いつもの作業なので慣れたもので五徳に鍋を乗せて火を使おうとすると
「はいそこ、勝手にやらないのー」
と、注意されてしまったので、そっと手を引っ込めた。
「まず、五徳に鍋を乗せましょう、いつもと一緒よね、いつもは6級までは気にしなくていいんだけど
7級からは作る時に魔力の伸びを良くするのと清潔にするために鍋の内側を火で焼くのよ」
そう言って鍋の中で火を踊らせ金属の鍋を消毒した。
「はい!熱いうちに水を鍋いっぱいにいれるのよ
もう中の水は温かくなってきているから沸騰する前にピリーコを全部潰していれて頂戴」
優雅な手付きでものすごい勢いでピリーコを潰して入れていった。
鍋の中でピリーコを潰しながら質問してみる。
「すみません、沸騰前ということは氷塊とか使って温度下げてはだめなんでしょうか」
「だめではないのだけど、ちょっと雑味がでちゃうからあまりやらないほうがいいんだけど、それも経験ね、いいでしょう!沸騰する前に氷塊でちょっと温度下げちゃって」
言われるがままにこぶし大の氷塊を入れ、鍋の中で手を洗うように両手をこすり合わせてピリーコの実をぐちゃぐちゃに潰して水に溶かした。
「沸騰したら女神の手の蜜、この小瓶ね、1滴ずつ溶けるのを確認しながら少しずつ追加していくのよ、一気に入れるとピリーコが凝固して魔力の融解効果が悪くなってしまいますからね、あ、そうそう女神の手っていうのは山に生える花なんですけどね、薬の材料に使えるのは雲の上に生えたものだけなの、こう、白くて女神様の手の様な白くて優しい感じがする綺麗な花なのよ」
話が逸れていく間にも鍋の中では作成途中の飲み薬がぐつぐつと煮えている。
「すこしこうして煮立たせてから火を止めて森の主の角の欠片を優しく鍋底に沈めて」
そう言って火を消すと、ゆっくりと森の主の角の欠片を沈めた。
「こうしてしばらく待つと角が溶けて白く濁るから溶け切った所で沸騰させないくらいの弱い火をつけるのよ」
そろそろ全部まとめて入れたくなってきた。
「後は魔石を溶かすだけだからもうすこし頑張ってね、魔石を溶かす時は魔力を込めたかき混ぜ棒でゆっくり回しながら1つずつ溶かしいれていくのよ」
優雅にくるくると優しくかき混ぜながら魔石を1つ、飛沫が経たないように入れた。
真似をしてかき混ぜながら入れてみてもかき混ぜ棒が魔石にぶつかるしそのせいで飛沫が立つので上品さというものの習得難易度の高さが伺い知れた。
1つずつ魔石を入れていくと、少しずつ赤く色づいていき、真っ赤になった所で1人ずつに声を掛け、その色で完成です、その色を忘れないで、と言っていた。
「そのまま飲んだりかけたりすると9級飲み薬として効くけど、薄める時はちゃんと水で薄めるのよ」
飲み薬を瓶に入れ、コルクで蓋をして完成となる。
鍋一つで4本の9級飲み薬になるのだが、常温での保管は季節にもよるが1ヶ月~2ヶ月、
おがくずや使っていない布を敷き詰めた木箱で凍える風で凍らせて保管すれば1年は大丈夫とのことなので
街へ出て木箱とおがくずをもらってくるまでそれぞれ、名札を付けた飲み薬瓶をルイス教官が預かってもらった。
その日の午後の模擬戦をなんとかこなし、飲み薬作成講座3日目、すでに作った9級の飲み薬の復習を行い、頭より手のほうが優秀なのはさすがルイス君の教え子ね、と嬉しそうに言われ、
4日目以降は、材料が手に入らないので座学で10級、11級の失われた欠損が元に戻る飲み薬の作り方を学んだ。
材料は手に入らないわけではないが恐ろしく高価な物なので、メモをしておけば覚えておく必要は無いと言われた。
それよりもノートを取っておく必要があるのは高級になればなるほど、材料の加熱と投入タイミングがシビアになっていくということで、
「本当は難易度の高い飲み薬の作り方はやって見せたいんだけど材料は高いし貴重だし、魔法学校でも材料が集まった時は全校生徒を集めて講堂で遠目から見るのがせいぜいなの」
ということで、楽しくないといえば楽しくない解説を聞いて、ただノートを取って暗記し、リタ先生の好きな飲み薬や好きな花や好きな素材の話しに脱線しつつ飲み薬講義が5日目まで続き、リタ先生の講義が終わった。
リタ先生は1人1人に軽くハグをして
「あなた方が高等魔法学校に来ていたらいい薬師になっていたかもしれないと思うと、もったいないと思ってしまいますね。
特にカオルちゃんは飲み込みも早くて魔力もあって面白くて優秀なのがいるというルイス君の評価も納得ですね、そもそもここの子達は魔力が多すぎるのです」
白熱したリタ先生による5級の飲み薬なんて
3年生になりたての生徒が気軽に作れるようなものじゃないんだ、
という話しを楽しそうに話していたのを聞き流して9級はいつ作るはずだったものなのかな、ということに思いを馳せた。
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