はるけき世界の英雄譚

白澤建吾

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士官学校編

遠征とお仕事

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「お金がないんです! 仕事がしたいんです!」

 イレーネの悲痛な心からの叫びが講義室に響き渡った。

「お、おう、そうだな」

 ルイス教官があまりの勢いに怯んだ。

「日帰りでは稼げる仕事がないので遠征したいのです。」私が横で補足した。

「あー、そういうことねー。毎年何人かいるわな」そう言って髪の毛をわしわしと搔きむしった。

「いくつか条件はあるのだが、許可は可能だ。」


「まず第一にカリキュラムが終わっていること。これはギリギリ合格かな
 あと、当たり前の話だが十分な戦闘能力があること、これは合格
 個の生存確率を上げるためにパーティを組むこと、当ては?」

「カオルとロペスと行きます!」

「前衛もいて後衛もいて、万能型のおばけもいて、まあいいか。」

「いつもいつもひどいですよ!」私が抗議の声を上げると鼻で笑って無視した。

「手続きはやっとくからいける日程は後で知らせる」そう言って手をひらひらさせて追い払われた。


「これで冬を超えられる」

 イレーネがほっとしたように息を吐いた。

 仕事が成功すると思っているようだがまだ早くはないかな? とは思っても口には出すまい。

「遠征するなら何が必要なのかな? わかる?」イレーネに聞くと
 イレーネもよくわかっていなそうだったのでロペスに聞いてみる。

「着替えはできたら、水は魔法で出すとして、あとは食料だね。
 保存食を買い込んでいく必要がある。予定日数+3日分はほしいかな?」

「行く前から結構かかるね。」手持ちで足りるだろうか。

「あとは現地でウサギとかイノシシとか狩れたらいいな。」

 なんて希望的観測。


 それからしばらくして1週間の外出が認められた。

 出発日の前日、つまり今日。

 食料の買い出しのついでにどんな仕事があるかハンター協会に見に行く。

 そもそも仕事が残っていないということだってあり得るのだ。

 いままで簡単な仕事しかしてこなかったので張り出された内容をみても具体的にイメージができないので
 張り出された仕事をぽかーんとみているイレーネを放っておいて
 受付のおねいさんにおすすめを聞いてみることにする。

「すみません、1週間で帰ってこられる内容でなるべく稼げるものはありますか」

 もう少し聞き方もあったかもしれない。

「はい、少々お待ちください。
 士官学校の学生さんですね、では魔力は扱える段階にあるということでよいですか?」

 にっこりと微笑んで対応してくれるおねいさん。

「はい! 魔力おばけと言われたので大丈夫です!」元気に答えると受付のおねいさんは
 若干ひきつった微笑みでおすすめを探してくれた。

「1週間ですと、3、4つ消化したほうがよさそうですね。

 薬草の収集、これは乾燥させてから持ってきた方が軽くなるしいいですよ。

 あとは魔力の無いハンターでは討伐が難しい魔物の討伐を梯子しながら移動して
 ダンジョンに潜って希少素材を回収できたらなんとか、という所でしょうか」

 移動に片道2日、ダンジョン3日、帰りに2日、ずいぶんと強行軍だが稼ぐためには仕方がない。

 日程をメモに書きながら考えた。


「と、いうスケジュールになりました。」

 メモを見せて説明した。

 ロペスはふむ、と考えおそらく、と前置きして
「このスケジュールは魔力を持たないハンターを基準にしている。
 だからこの日程よりは楽になるだろう。」

 その分稼げればいいが。

 スケジュール確認と仕事の受託を済ませ食料品の買い出しをする。

 買い出しと言っても必要なものはハンター協会の近くで全部揃ってしまう。

 固く焼き固めたパンに干し肉、あとは塩をいれる小瓶を買い、塩は食堂からいただいてしまいたい。

 意外と高いので。

 海が近くにあれば自力で作れそうなのに。

 これは中々いいアイディアなのではなかろうか。

 魔法で塩精製して売るのだ。

「塩は食堂からもらえないかな」会心のアイディアを確認すると
「えーだめだと思うよ、怒られたらいやだしおとなしく買おう?」とイレーネに却下されてしまった。

 色々買ったおかげで飲みにいく余裕がなくなってしまった。

 イレーネも私も稼いだ金はほとんど酒代に消えている気がする。

 このままではダメなハンターになってしまう。

 ほどほどに飲む、と私は心に誓った。


 だらだらと話しながら寮に帰ってきた。

 明日の朝に練兵場の裏で待ち合わせしてから出発することにした。


 次はこちらでの保護者の様なお世話係のエリーにも話を通しておく。

 夕飯の準備をしてきてくれた時に明日からのスケジュールを伝える。

「すみません、急ですが明日から1週間ほどイレーネとロペスと3人で稼ぎにいくので空けます。」

「あら、たった三人でいく許可がでるなんて今年は優秀ですね。」

「詳しいですね」

「神殿に勤めていると毎年冬を超えるために遠征した候補生の訃報も多いですからね。
 毎年のこととはいえ心が痛みます。」

「無事に帰ってきます。」

「はい、どうかご無事でお戻りくださいね」

 朝晩だけとはいえ数か月の付き合いになるしエリーを悲しませないようにしたい。

 悲しんでくれるだろうか。

 悲しんでくれると思いたい。
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