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第1章 弟子の魔法使いは魔法学校を受験する(普通科だけど)

第3話 門番と再会(弟子はテンプレを後悔した)。

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 テンプレは、まだ俺を見放していなかった!
 無駄に大きな屋敷の門の前で、俺は立ち止まる。往生際が悪いを思われるかもしれないが、これは自分の意思ではない。

「申し訳ありませんが、招待状はお持ちですか? あとお名前と身分証明書のご提示もお願いできますでしょうか?」

 止めてくるのは、門で見張る警備員の人。名家の為に招待状と名前の確認は普通かもしれないが、身分証明書は明らかに疑っている証拠。嬉しい誤算である!

「学生証でも大丈夫ですか?」
「拝見します」

 警戒しているのは、子供でも見ない顔だからだろう。見た目なんて冬用のジャンバーにスーツ代りの学生制服だ。こういう家におもてなすの場合、大半は親戚か家柄も立派な者達だけの筈。親父達の性格から決して差別的な意味はないと思うが、自然とそうなっているといったところだろう。

「龍崎刃様ですか……招待状のお名前と違うようですが?」
「代理で来ました。どうしても当主に会って話したいことがあったので、新年の挨拶ついでに初めて招待に応じました」
「……!」

 ……あ、遠回しに招待に応じてやった。みたいな上からのセリフになってしまった。
 警備の男の人の目に力が込もったのは分かる。だが、やはりこんな家の門を任せられている人だ。微かに強まった目力も収まり、確認した学生証と招待状を返してきた。
 問題ないのだと判断して、一礼して通ろうとしたが、何故かその前に警備の人の腕が立ち塞がった。

「……大変済みませんが、旦那様にも確認を取りたいので、此処でお待ち頂けないでしょうか?」
「招待状の確認は済んだのでは?」
「申し訳ありませんが、例え代理でも初めての方をそのままお通しするのは、警備の立場として少々難しいのです」
 
 遠回しに『アンタは信用出来ないから、確認が終わるまで此処で待っていろ』って言っているように聞こえる。まぁ、服装や身分も怪しい人間が代理だから疑っても仕方ないと思うが……ジィちゃんも名家の人間なんの忘れてない。もしかして龍崎家ってそんなに知られてないのかな?

「話をしたらすぐ帰りますよ?」
「でしたら尚のこと」

 素直に通してくれそうにない……か。
 不満はあるが、警備の人も心配なんだと分かるけど、仮に俺の事が伝わった場合、相手側親父が俺を家に通してくれるかどうか。
 向こうからしたら、ロクに期待にも応えなかった親不孝な愚息でしかない。会いたいと思うなら招待状にも俺の名前を書いてあるが、毎年の招待状には、険悪で疎遠となっているジィちゃんの名前しかない。それが答えだろう。

「それとも、この件が旦那様に伝わると……何か困ることがあるとでも?」
「いや……そういうわけじゃ……」

 返答し難いが、どっちにしてもこのままでは通してくれない。
 割と分の悪い賭けになるが、大人しく警備の人に任せて伝えてもらうことにしよう。……最悪それで門前払いされたのなら、ジィちゃんだって許してくれる筈。後日何か言われても向こうが会うのを拒否したのだからと、言い訳が立つ。

 ……と、少々この展開に感謝している。その時だった。

「む、何をしている武藤」
「あ、石木さん!」

 門の隅にある小さなドアから同じ警備服の中年男性が一人出て来て、武藤という俺の相手をしている男性に声を掛けたが……ゲっ。

「何をしているのかと訊いている。お客様じゃないのか?」
「そ、それ石木さん。見覚えがなくて、しかも代理とのことで、念のために一度旦那様にも確認をと思い……」
「代理? どの方の?」

 その人を見て、武藤という男が緊張しながら説明して手紙を渡すが、俺は嫌そうな顔を必死に誤魔化していた。……多少老けたようにも見えるが、知っている面だ。話はあまりしたことはないが、記憶が正しければこの人は───。

「この招待状は……! それに……あ、貴方は!」
「ど、どうも、お久しぶりです」
「(テンプレ展開……不発ですね)」

 なんかマドカの憐れむような声が聞こえた気がした。
 狼狽した男は、バッと俺の対応していた武藤という人の頭を無理矢理下げさせる。
 自分の深々とお辞儀をして、俺に向かって謝罪を口にした。

「申し訳ありません、っ!! この者が大変失礼を!」
「え、え、え?」
「コラッ、ちゃんと謝らんかっ! 招待状の名前を見て何故気づかんのだっ! この馬鹿者めっ!」
「ア、アタタタタタタタタタタッ!?」

 頭にはてなマークが埋めつくさているであろう武藤さん。その頭を万力のような手のひらで締め上げる石木さん。ミシミシと音が聞こえそうで、武藤さんが悲鳴を上げている。

「あ、あのもうその辺で。俺も全然気にしてないので」
「で、ですが! それでは我々の立場がありません! このような無礼行為、本来あってはならないのです!」
「事前に連絡せず、しかも祖父の代理で来たんだ。困惑しても念の為に確認を取ろうとしたその人が正しい。それに……直前で渋って、ちゃんと言わなかった俺も悪いですから」

 そう、そもそも余計な面倒を恐れて、何も言わなかった俺が悪い。
 武藤さんは寧ろ適切に対応していたと俺は思う。多少発言に問題があったような気もするが、言い方が悪かった俺が言えたものでもない。

「坊っちゃま……」
「その坊っちゃま呼びも止めてくれ。今の俺はただの龍崎刃だ。で、今日は用事ついでに挨拶をしに来ただけだ。用事が終わり次第さっさと帰るよ」
「その用事とは? お聞きしても宜しいでしょうか?」
「私物を回収。部屋が残っていればの話だがな……」

 物置部屋にされているだけならまだいいが、カードが行方不明だとかなり面倒になる。親父が持っていれば万事解決しそうだが、素直に渡してくれるかどうか。

「通してくれるか?」
「勿論です。旦那様も奥様もきっと御喜びになります」
「正直だな。アイツが含まれてないのが、ホントそれらしい」
「──! あ、いやそれは……」

 これ以上は相手に悪いか。門ではなく敢えて開いているドアの方から中に入る。石木さんが多少を慌てていたようだが、俺は知らんぷりしてそのまま屋敷の中に入って行った。
 やっぱりテンプレに期待するとロクなことにならない。いよいよ後悔の方が強くなっていた。



「い、石木さん、あの……彼はいったい」
「あの方は龍崎刃様。元は神崎家の長男だったお方だ」
「えっ! マジですか! あの方があの!?」
「ああ、【】が告げた。『やがて───すべての世界を超越した魔法使いになる』と言われたお方だ」

 具体的にそれが何を意味するのかは、まだ誰にも分からない。
 だが、当時はかなり騒がれて、家だけでなく他家にも話が広がってしまい、一時幼かった彼を見ようと訪問者が後を経たなかったことを、当時から警備員だった石木はよく覚えていた。

「しかし、その噂はデマだったんでしょう? 肝心の魔法は初級までしか使えず、魔力自体が全然ないって聞きましたけど?」
「ああ、だから周りの反応も酷かった。親しいご親戚の方々はそうでもなかったが、一部の者達は手のひらを返して、陰ではあの方のことを笑い見下していた」

 立場から強く言えなかったが、その事はちゃんと当主にも伝えている。結果的に彼を追い出した張本人であるが、娘と同じくらい彼のことも溺愛していた。具体的にどんな報復したか知らないが、見下していた者達は、それ以降家に招かれることはなくなった。

「一番辛かったのは許嫁だった白坂様や妹の緋奈様にも避けられた事であろう。あの方々だけは最後まで坊っちゃまの側にいると思っていた。それだけ相思相愛に見えたが……」
「白坂様とはお話を聞く機会もないのでよく分かりませんが、お嬢様は度々兄の事を蔑んでいるように聞こえます」
「そうだ。まるで人が変わったかのように、坊っちゃまに強く当たるようになった。龍崎家へ話が出た際も強く賛成したくらい。流石の坊っちゃまもショックを受けて家に篭りっきりと噂で聞いていたが、そんな方が今さらどうして……」

 ──私物の回収と言っていたが、何年も経っているのにいったい何を?
 脳裏に疑問符が浮かぶが、とりあえず今は主人への報告が先である。武藤への再三注意した後、準備をしている主人の元へ急ぐことにした。




「ふふふふ、お坊っちゃまですか」
「笑うなよ……余計後悔するだろう」

 影から聞こえる微かな笑い声に小さく注意する。頭を抱えたい気分だが、人気がなくてもいつ人とすれ違うかも分からない廊下だ。

「此処が貴方の実家ですか。何処か洋式風に見えますね」
「ああ、何でも和式風の屋敷だったのが、昔火事で消し炭になってな。改装することになったそうだが、その時の当主が思い切って海外風の屋敷に……」

 案内の札があったので気にせず客間がある方へ……と思ったが、俺は案内に従わずすぐ側の階段を上がった。

「刃?」
「目的を終われば、挨拶も手早く済むだろ?」

 広い屋敷ではあるが、自分の部屋の場所くらいはちゃんと覚えていた。
 バレて止められると面倒なので、気配と足音を殺して素早く進む。途中使用人らしき格好の人達と遭遇しかけたが、その前に壁や物の隅に隠れてやり過ごす。さらに防犯のカメラらしき物があるのが見えたが、元はこの家の人間なので、無視してさっさと歩いて行く。

「これは、大丈夫でしょうか……」
「問題ない。次の廊下のすぐ近くが俺の部屋だ」
「いえ、そういう意味では……」

 マドカが何か言っているところ悪いが、そろそろ誰かが気付いてもおかしくない。
 屋敷こそ古い作りに見るが、中は意外と厳重で出来ている。石木さんが報告に行ったとしても、カメラで見張っている警備の人もいる筈。時間を掛けている暇ないので、手早く済ませてしまおう。

「駆け付けて来る前に見つかればいいがな」

 そして到着したドアの向こうが、かつては俺の部屋だった場所だ。
 躊躇わずドアノブを回してみるが、やはり鍵は掛かっている。防犯はしっかりされているというところだが……。

「じゃーん、スペアキー」
「なんで持っているんですか?」
「部屋の主人ですから。物心付いた頃には持ったされてた」

 出て行く際、返却するのも忘れるくらい使ってなかったがな。
 挿し込むとスムーズに鍵穴に入った。抵抗感もなく回すとガチャっという音と共にドアの施錠が解除された。

「……」

 そして、部屋の中に入ってみるが、中はビックリするくらい当時のままだった。

「ベットに机、学校のカバンと教科書、それに参考書の本棚ですか……」
「今にして思うが、ホント無趣味で殺風景な部屋だな」

 出て行ったのは、まだ幼い十歳の時だが、その頃はリミットが近いと理解して、とても余裕などなく子供らしい私物は全く置いていなかった。

「おや? でもいくつか人形が置いてありますね。こちらには綺麗なアクセサリーが飾ってあります。こういうのを集める趣味はあったんですか?」 
「いや、それは妹と幼馴染がプレゼントしてくれた物だ。あんまり気にしてなかったが、今にして思うと少しでも気が楽になって、喜んで欲しかったんだと思う」

 眺めていると少し懐かしく感じる。あの頃は辛くても、二人との時間でいつも癒された。例えどんなことなっても二人と一緒なら大丈夫だと、あの頃の俺は本気で信じていた。

「裏切られた今じゃ、もう何でもないけどな。捨ててくれても良かったのに」
「……」

 返答がないからこの話も終わりだ。
 昔の記憶に自信はないが、入れていたであろう引き出しをいくつも開ける。だが、色んな紙の束やノートが置いているが、目的のカードが見付からない。

「何処だ? 何処に入れてたっけ?」
「思い出せないんですか?」
「ランクが上がったのは一回切りで、それ以降は使う機会がほぼ皆無だったからな。無くさないように引き出しとかに入れてると思ったが……」

 まさか本棚のどれかの本の中にでも入れたか? ……いや、そんな無くしたら困る物をそんな風に隠したとは考えれない。そもそも隠す価値もない代物だから、引き出しにないのがおかしい。

「とすると、やっぱり親父辺りが管理している可能がたか───」

 微かに感じ取った殺気から俺は咄嗟に頭を下げる。
 次の瞬間、俺の頭があった位置を誰かの脚が通過する。
 高そうな黒の革靴。俺は振り返ると赤い髪をしたスーツ姿の青年が怒りの形相で拳を構えて───その顔を見て、俺は目を見開いた。

「誰だテメェ! ダチの部屋でいったいに何───え?」
「お前は……」

 石木さんと同じ、また覚えのある顔……というか髪をしたイケメンが立っていた。
 顔付きや声音は大分変わっているが、面影があるその赤い髪と顔立ちから俺は自然と彼の名前を……アダ名を呟いた。

「もしかして、ミコか?」
「ジ、ジン? ───ジーーーーン!!」

 口にした途端、キレていた目からじんわりと涙が溢れ出る。イケメンなのに、乙女みたいに感動してる!
 俺がギョッとしている暇に声を上げて、コアラみたいに飛び付いて来やがった! く、苦しい!

「マジでジンじゃねぇか! どうしてジンがここに!? あ、お前の部屋だから居て当然か! ああ、マジでビックリしたーー!」
「ミコ、いやみこと! と、とりあえず落ち着て、離れろ!」

 まさかこんなところ俺の部屋で知り合いと再開するとは思わなかった。
 客間に入ったら絶対に遭遇して面倒になると思って、避けてこっちに来たのに!

 日本でも有名な神主の息子であり、同時に次期当主の四条しじょうみことを前に、俺は懐かしむよりも冬でも暑苦しい、この男をどうにか退かすことを考えた。

「なんだよ水クセェな! 昔みたいにミコでいいって! それよりも何で一回も連絡一つ寄こさなかったんだよ! 何度も龍崎の家に連絡したり直接行ったが、出て来たのはジィさんだったぞ!」
「わ、悪い。色々と疲れてうんざりしててな。知り合いとはもうなるべく会いたくなかったんだ。いや、そんなことよりも、まずは降りt」
「白坂のクソ女と神崎のクソガキの所為だよな!? あの二人っ! オレが神社の修行に強制的に付き合わされてる間に、ジンを追い出しやがってぇ! あの裏切り共が!」
「ク、クソ女、クソガキって……お前にしてはすっごい言いようだな。なんだ、ヘタレは直ったのか?」

 昔から見た目がイケメンなので騙されやすいが、実は人見知りが激しくて、女の子に囲まれるとド緊張しちゃうヘタレなのだ。よくお姉さんや桜香おうかにもイジメられて、その度に俺の後ろに隠れていたが、知らないうちに成長したんだなぁ。なんて思っていたが……。

「え? お、おお! まぁ……な!」

 動揺を必死に隠して、何故か急に離れてくれた。解放されたと喜ぶべきだが、そんな奴の懐かしい表情と家の人間でもないのに、此処にいるという疑問が……何故か結び付いた気がした。

「ところでミコよ。どうして此処に? 客人は客間、大広間に集まってる筈だけど」
「う、そ、それは……!」
「よく考えたら俺、鍵こそ掛けてないが、部屋のドアはちゃんと閉めたよな? 何で普通に入って来てんの? なんか慣れてない?」
「ギ、ギクっ!」

 ギクって言う奴を初めて見たよ。もう自白しているようなものだが、俺はジト目で睨み付ける。ビクビクして顔から大量の汗を流して、必死に目を合わせようとしない。昔から後ろめたいことがあると毎回そうやって逃げるが……逃がす訳ないだろう?


「さて、遺言でも訊こうか」
「ちゃ、ちゃうんですぅぅぅぅ!」


 訂正するは、やっぱりヘタレは全然治ってなかった。
 タジタジとした彼の説明によると、顔見知りならともかく、そうでない女性たちに囲まれるのが今でも嫌なのようで、事情を知っている俺の元親から、こっそりとこの部屋に避難させてもらっているらしい。
 流石に食事中やお話中は諦めているが、それ以外の時はマスターキーを借りてこの部屋に隠れていたが、今回は何故か鍵が開いており、中には知らない奴が親友の部屋を漁っていた。

「で、同じく治ってない人見知りも忘れて、俺に蹴りにかまして来たと? なるほどなるほど」
「わ、悪りぃジン」
「いや、許可取らず勝手に侵入した俺の方が悪いからしょうがないが、随分と成長したな」

 よく考えると凄い成長だと感心すらする。ひ弱という訳じゃないが、性格的に攻戦的タイプでもなかった。鍛えられて相当実力とメンタルも上がっていると思うが、……とそこまで聞いて、ふと気になることがあった。

「ヘタレが治ってない割には桜香たちには大分毒を吐くよな。やっぱり付き合い長いからか?」
「違う。アイツらが一番嫌いだからだ。信じて任せてたら、気付いたらあんなことになってたんだぜ。もう親友でも何でもねぇよ……あんな奴ら」
「そうか……」

 俺よりも思い出したくもない顔だ。きっとあの後も色々あったんだろう。
 予想外の再会と仕方となってしまったが、結果として大勢の人の前で騒がれることがなくなった。
 カードのことは解決してないが、予定の時間も近いのでミコと一緒に部屋を後にすることにした。
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