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「――それがこのザマかよ、情けねえ……」

 『浮遊島』危険域の正規ルートを走りながらシグは吐き捨てた。

 状況はかつての事件のときと何も変わらない。
 クゥを拉致され、まんまとおびき出されている。

 だからこそ、今度ばかりはギルシュの思う通りにさせるわけにはいかない。

 呼び出されたのは危険域の中でも市街地に近い森林エリアの一角だ。
 魔物との接触を防ぐため、整備された正規ルートを進んでいく。
 と。

「あん?」

 シグは急ブレーキをかけて思い切り跳躍する。
 直後、シグの下方に火球や風の刃、岩の砲弾が殺到した。
 精霊術だ。術が飛んできた方向を見ると、そこには貴族学院の制服を着た人間が五人ほど立っていた。

「お前ら、ギルシュの手先か?」
「「「…………」」」

 返事はない。
 貴族学院の生徒らしき五人は、うつろな目をしたまま再び手を掲げてくる。

(協力者ってわけじゃねえ……操られてるのか?)

 通る可能性の高い道に待ち伏せをさせ、シグを不意打ちで攻撃する。
 つまりこれはギルシュが張った罠の一つだとシグは推測した。
 見た限り、ギルシュの姿はここにはない。
 となればここに留まる理由もない。

「急いでんだよ俺は。邪魔するってんなら容赦しねえぞ」

 返事は色とりどりの精霊術だった。

 シグはそれを回避したが、思わず舌打ちした。

 この浮遊島に来ている生徒はすべて学院内での選抜を突破したエリート揃いらしい。
 そこらの冒険者よりずっと術の威力が高く、しかも五人は絶妙に間隔を空けて配置されている。接近戦狙いのシグとしてはやりづらいことこの上ない。

 とはいえこの五人はここで排除しておかなくては後々厄介なことになるのは目に見えている。

「「「――――」」」

 再び放たれる複数の精霊術。
 しかしそれらはシグに到達することはなかった。

「【ライトニングスピア】!」

 ありえないような速度で横から飛んできた稲妻の槍が、五通りの精霊術をまとめて吹き飛ばしたからだ。

 シグがぎょっとして横を見ると、小走りでエイレンシアがやってくるところだった。

 エイレンシアはぎゃりぎゃりぎゃり! と学院指定のブーツではありえないような音を立てて足を止めると、

「あんた何してんの? ってかこれどういう状況なわけ?」
「いや俺が聞きてえよ。何してんだお前」
「ギルシュ含めてうちの生徒が何人か危険域に入ったって言うから追いかけてきたのよ。あんたは――って、待った。嫌な予感がする。あんた連れの白いのはどこやったの?」

 真剣さを増した声で尋ねてくるエイレンシアに、シグは事情を明かした。

「……攫われた。犯人は多分ギルシュだ」
「あんの、馬鹿野郎……ッ」

 エイレンシアはそう吐き捨て、シグに向き直る。

「いいわ、あんたは先に行きなさい。あの操られてるっぽい五人はあたしがやっといてあげる」

 シグは目を瞬かせた。

「……どういう風の吹き回しだ?」
「いいからうだうだ言ってないで早く行きなさいボンクラぶっ飛ばすわよ!」
「あ、ああ。――助かる」

 まくしたててくるエイレンシアに対して素直に礼を言い、シグはその場を後にした。
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