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浮遊島

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 港から街に行くまでの道のりの横には畑や果樹園、家畜小屋などがあった。

「こんなところで農作業をしているんだね」
「陸路がねえから、いくらか生産しねえと街を維持できねえんだろ」

 浮遊島への物資の輸送手段は飛行船のみ。
 税金をつぎ込んで国が大量に飛ばしているが、それだけで街ひとつを支えるのは難しいのだろう。

「日照はともかく水はどうしてるのかな? 雲の上じゃあ雨も降らないよね」
「精霊術と……あとはなんか水源があるらしい。そこから水を引いてるんだと」
「水源? こんなところに?」
「ああ。まあ、湧いてるのは街の外らしいが」

 つまりは魔物の出るエリアである。

 そもそも魔境というのは『魔物化した地形』のことで、魔境となってからも元の地形の特徴を引き継ぐ特性がある。

 山の魔境なら斜面のある立体的な地形になるし、湖の魔境なら水棲系の魔物が潜む湖となる。
 迷宮が『洞窟』という形状を保っていたのもそのためだ。

 浮遊島に水源があるのもその理由だろう。もともと泉なり川なりがある場所が魔境化したためにそれが残存している、というわけだ。

「ちなみに水の中には魔物も出る。さすがに用水路には頑丈な柵を作って魔物が入ってこねえようにしてるが、たまにぶっ壊されて街に侵入されることもあるらしい」
「ぶ、物騒だね……さすが魔境だ」

 浮遊島は全体が魔境だ。開拓してある場所でも油断はできない。
 そんなことを話していると――シグは視界の端に何か見つけた。

「……何だありゃ」

 手押しの荷車だ。近くに人はいないが、目を引くのはその積載量である。
 クゥが二人は詰め込めそうな樽が五つ。さらに箱状のカゴに積まれた果物の山。
 とても一人で引くようなものには見えない。

「おお、すごい積み荷の量だね」

 クゥが驚き半分感心半分の声で言った。

「馬もいないようだけど……あんなの誰が引くんだろう」
「さあな。屈強なおっさんとかじゃねえか?」
「もしくは荷運び用の魔導具とか」

 そんな感じで予想を適当に口にしていると、果樹園の木々の奥から荷車の持ち主らしき人影が現れた。
 たった今収穫してきたらしい果物入りのカゴを荷車に追加したのは――

『よいせ、っと』

 老婆だった。
 どう見ても七十はとうに超えている感じの。

「「…………、」」

 コメントに窮するシグとクゥの二人。
 そのまま老婆は過剰積載の荷車の持ち手を握りしめる。まさかそれを運ぶつもりか。

「……貴族学院の連中に追いつかれたくねえからさっさと街に行きてえんだ俺は」
「わかる。よくわかるよシグ」

 そんな会話をする二人の視線の先で、老婆が亀すら同情しそうな速度で荷車を引き始める。

 荷車を動かせているのはおそらく身体強化を使っているからだろう。
 数М動かして、ふう、と一息。また数М動かして休憩。

「…………はー」

 シグは溜め息を吐いて隣のクゥに尋ねた。

「お前、あれ半分持つ気あるか」
「全部だって運ぼうじゃないか。ところで、シグってやっぱり優しいよね」
「あれ放置したら寝覚め悪すぎるだろうが……」

 二人は荷車を押す老婆のもとに足を向けた。
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