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迷宮攻略(十層)➃

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 勧誘してくる黒づくめの女に、シグは嫌そうな顔をした。

 むっ、とクゥが警戒するようにシグの腕を引く。

「駄目だよ魔女君! シグはぼくといっしょに冒険者をやるんだから!」
「あらあ、こんな可愛い子に好かれるなんて隅におけないわねえシグ?」
「うるせえ勝手に名前を呼ぶんじゃねえ」
「ちなみに私の名前はベリーよ。よろしくねえ」
「ベリー君か。ぼくはクゥだ。よろしくするけど、シグを騙そうとするのは厳禁だからね!」
「怒られちゃったわあ」

 悪びれた様子もなく言う黒づくめの女改めベリー。

 などと話していた三人だったが。


「――うおおおおおおおおおっ!」


「あん?」

 前方から砲声が上がり、シグはそちら視線を向けた。
 見れば、冒険者パーティーと巨大ゴーレムの戦いが佳境を迎えている。

「【上位風刃アークウインド】!」

 巨大ゴーレムと戦っていた五人のうち、一人が精霊術を放つ。

 無数の風の刃だ。手数の多さを見る限り、あれが二人いるという上級精霊使いの一人だろう。風の刃の一つ一つが凄まじい威力を持っているのが遠目にもわかる。

 だが、倒せない。

『――――ォオ』

 巨大ゴーレムの表面にいくつもの傷が走ったくらいだ。決定打には程遠い。

 術を放った上級精霊使いが、気圧されたように後退する。

 それを見て、シグは呆れたように呟く。

「……風属性の精霊術は地属性の魔物に通りがいいんじゃなかったか?」
「だからヒビ入ったじゃなあい。グランドゴーレムって『硬さ』で有名なのよお?」
「硬てえってそんな次元かよ……」

 防御力が高いとは聞いていたが、相性の良い上級精霊の術をぶつけても倒せないというのは異常だ。
 戦闘中の冒険者たちには絶望的な光景だろう。

 そこからはあっという間だった。

 まず、渾身の精霊術が効かず呆然としていた術者が巨大ゴーレムに殴り飛ばされて戦闘不能。
 それを回復させるために一人が駆け寄り、その時点で巨大ゴーレムを相手取る人員が足りなくなった。

 巨大ゴーレムはあっという間に冒険者たち数人を叩きのめし、巨大ゴーレムとの戦線が完全に決壊。

 ついに冒険者たちの幹部格らしい男が『撤退! 撤退しろおおおっ!』と叫び、中型ゴーレムの相手をしていた人員も含め、彼らは全速力で巨大ゴーレムの感知範囲外に逃れようとする。

 それを巨大ゴーレムたちが地響きを立てて追走する。

 冒険者の一人が、懐に持っていた赤い石を掲げた。

 すると感知範囲の外、シグたちのそばにいた傭兵たちの手元でも同色の石が輝き始めた。

「たすっ、助けてくれええええええ!」
「「「――よし来たァ!」」」

 途端に傭兵たちは目を輝かせ、感知範囲の中に突っ込んでいく。

 彼らは見事な身のこなしでゴーレム軍団の猛追をかいくぐって逆走し、負傷した冒険者たちをも回収し始める。
 鮮やかな手並みだった。

 どうやらベリーが言っていた『保険』とはあの撤退支援のことらしい。

 数分後、シグたちの前方には、巨大ゴーレムの感知範囲外に逃れた冒険者たちが荒い息を吐いていた。

 救出された冒険者の多くが負傷している。

 負傷しているだけならいいが、それで済まなかった者もいた。

「二人、死んだみたいねえ」

 あっさりと。
 ベリーはそう口にした。

「へ、平然としてるねベリー君は……」
「よくあることだもの。守護者に挑むんだから、死んでも当然でしょお? ……さて、私も商売しに行こうかしらあ」

 と、ハイエナの笑みを浮かべて回復薬の瓶を取り出すベリー。
 ろくな死に方しねえなこいつ、とシグは呆れたように溜め息を吐く。

『―――――――、』

 前方では、巨大ゴーレムがずしんずしんと感知範囲の中央に戻っていくところだった。

 守護者が感知範囲の外に出ることはない。

 相手が感知範囲の外に逃げた場合、ああして中央に戻って彫像のように動きを止め、自己修復を始める。

 そして再び侵入者がやって来た時に再起動して迎撃を始めるのだ。

 それを眺めつつ、ベリーがシグたちに尋ねた。

「ところで、もう一度聞くけどお。……二人とも、ほんとにアレに挑むつもり?」

 魔物には危険度、というものが設定されている。

 迷宮では難敵として知られるストーンナイトは、危険度C。
 つまり『中級精霊使い複数人相当』というランク。

 対してグランドゴーレムは、『上級精霊使い複数人相当』――危険度Aに分類される。

 そんな相手にたった二人で挑む者がいるとすれば、身の程も知らない馬鹿か。

 もしくはギルドのサブマスターや特級精霊使いのような『選ばれた者』くらいだ。

 ちなみにベリーの知る限り多いのは圧倒的に前者。

 しかし――、

「俺たちは六大魔境を制覇する」
「……、それ、本気で言ってるのお?」
「もちろん。もっとも今日が初陣なんだけどね」

 『六大魔境の制覇』――いまだかつて誰も成し遂げたことのないという大言壮語を、二人は何の気負いもなく口にする。

 吐き捨てるようにシグが言った。

「いきなり負けてられるかよ。あんながらくた、五分で瓦礫の山に変えてやる」
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