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迷宮攻略(八層)

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 迷宮を一日で踏破することは不可能とされている。

 それは単純に距離的な問題だ。

 迷宮内部は入り組んだ迷路になっている。
 最短で次層への階段に向かったとしても、一層抜けるのにかなり歩き回る必要がある。

 たとえ魔物や罠がなかったとしても、迷宮最深部に短時間でたどり着くのは難しいのだ。

 よって、迷宮攻略の際は迷宮内の『休息スポット』をいくつか経由して仮眠や食事をはさみつつ、最深部を目指すのが定石とされている。

 シグもそれにならい、休憩予定地を五層と八層に定めていた。

 クゥの戦闘能力、二人という身軽なバーティ構成を加味してかなりハイペースな進軍を考えたうえで、そう予定していた。

 していたのだが――、

「到ちゃーく! いやあ、なかなか広くていい場所じゃないか!」

 と、クゥが意気揚々と告げたのは第八層の休息予定地。

(……まさか休憩せずにここまで来られるとは)

 シグは呆れたようにそう思った。

 ここに来るまでに五層で一度休息をはさむ予定だったが、そんな必要もないくらいの勢いで魔物をなぎ倒しトラップを正面突破しここまで一気に来てしまった。

 第八層の休息場所は三方向を壁に囲まれた袋小路で、入り口は狭く、奥は広い。

 魔物が入りにくく、万が一入って来ても中で交戦できるという都合のいい場所である。

 シグは魔物除けを入り口に設置する。

 今回、魔物除けは大量に買い込んである。
 効果切れ→交換、という作業を忘れなければ丸一日だってここに閉じこもることも可能だ。

(……前みてえに魔物がなだれ込んでくる光景は心臓に悪すぎるからな)

 そんなことを考えつつ設置を完了させる。

 魔物除けが緑色のガスを吐き出し始めた。それを確認していると、クゥが行き止まりの奥のほうで声を上げた。

「ねえ、シグ。何か落ちてるよ」
「あん?」
「あと何かくさい……」

 クゥが鼻を押さえながらそう言う。

 シグはクゥのほうに歩いていく。

 クゥが指さすものを見ると、そこにあるのは空になった瓶や薄い布袋だった。やや離れた隅のほうには穴が掘られ、微妙に不快なにおいが漂ってくる。

「ああ……最近、他の冒険者がここ使ったらしいな」

 瓶は回復薬の入れ物、布袋は食料か魔物除けでも入れてあったのだろう。

 隅に掘られた穴は、おそらく手洗い代わりだ。
 迷宮で必要になるのはわかるが臭すぎる。

 【<クル>雷撃ライトニング】あたりで天井を壊して埋めてやろうか……という考えもよぎったが、天井から魔物が落ちてくる可能性を考えてやめておく。

 クゥが鼻を抑えている原因はあれだろう。

 大精霊となった今でも蛇の特性を受け継いでいると言っていたが、蛇が嗅覚に優れていたかどうかはシグの記憶になかった。

「とりあえず、離れて休むぞ」

 言いつつ、シグはゴミ投棄地点から離れた場所に腰を下ろす。
 クゥもすぐ隣に座り込んだ。肩と肩が触れそうなくらいの距離だった。

「近けえよ」
「えへへへへへ」
「何笑ってんだお前……」

 どうやら離れる気はないらしい。
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