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攻略準備と意味深な助言

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「いらっしゃい。……って、また別嬪なお客さんが来たもんだな」

 食料品店の店主は、やってきた客を見て驚いた。

 迷宮都市ミランは魔境に隣接する冒険者の街だ。
 この店が取り扱っているのも、冒険者向けの保存食ばかり。

 だというのに、店に入ってきたのは小柄で細身の少女だった。

 目深にかぶったケープのフードからは美しい白髪が覗いている。

「お客さん、何をお求めで?」

 店主が訊くと、白髪の少女はこう答えた。

「そうだなあ……とりあえず携帯食料を何種類かと、あとは干し肉が欲しいな」
「はいよ。なんの干し肉になさいますか。牛、馬、猪、いくつかありますが」
「鳥とかえるはあるかい?」
「かえるはありませんな。鳥の燻製ならありますよ」
「じゃあそれをもらおう。これでどれだけ買える?」

 そう言って白髪の少女が差し出してきたのは金貨だった。

 なかなか無防備な買い方である。

 これはいいカモだと思って店主は「こんなもんですかね」と相場より少なく――それでも大袋二つぶんはあったがが――差し出しても、白髪の少女は特に気にした様子もない。

「じゃあ、それだけもらおう」
「毎度。……ところでお嬢さん、これを一人で持って帰る気で?」
「うん。実はおつかいを頼まれていてね、向こうはいまギルドで資料読みの最中なんだ」

 何やら張り切っている様子の少女だった。店主は商品を詰め終え、冗談でも飛ばすように、

「これだけあれば十回はピクニックに行けますね」
「んー、まあ、そんな感じかもしれない」
「どこか出かけるご予定が?」

 少女の口調はあっけらかんとしたものだった。


「明日の朝いちばんで迷宮に行って、守護者を退治にしにいくんだ」


 目を丸くする店主をよそに、白髪の少女は大袋を軽々と持ち上げ去っていった。

 カウンターに金貨が残っていなけれは夢かと思ったかもしれない。


 × × ×


 ギルドのロビーで迷宮に関する資料を読んでいるシグのもとに、足音が近づいてきた。

「シグ君。許可証の発行が終わりましたよ」
「ああ。そこ置いといてくれ」

 と、シグは視線を下げたまま自分が座る隣のソファを指さした。

 ルドルフは呆れたような顔で言った。

「……あまりそんざいに扱われても困ります。仮にもこれは試験を突破し、私が実力を認めた冒険者にしか渡していないものなので」
「わかったよ細けえな。……ん? 二枚あるぞ」

 試験に受かったのはクゥだけだったはずだが。

「先ほど、シグ君の実力も見せていただきましたから。『模擬戦』での戦いぶり、見事でしたよ」
「ふーん。まあ、くれるもんならもらっとくか」

 シグはそう言って受け取った許可証を四つ折りにして懐にしまった。

「クゥ君はご一緒ではないんですか?」
「買い出し。わざわざ二人で行く必要もねえし、俺はやることがあったからな」

 シグの言葉に、ルドルフはシグの手元を見た。

「迷宮守護者の資料、ですか」
「ああ。明日から本格的に攻略を始めるつもりだ」
「正直、お勧めできません」
「またそれかよ……」

 呆れたように言うシグに、ルドルフは続ける。

「守護者は本来、上級精霊使いを含む三十人規模のパーティーで攻略するのが基本です。二人では無謀です」
「試験には受かったんだから文句ねえだろ」
「ううむ、それを言われてしまうと弱いんですが」

 眉根を寄せるルドルフに、シグは続けた。

「……それに、俺たちだけでやらねえと意味がねえ。誰かに手伝わせたらまた『寄生』とか言われそうだからな」
「? クゥ君は一緒でいいんですか?」
「あいつは特例だ」

 理由は聞くな、と言外に告げるシグにルドルフは首を傾げたが、追及することはなかった。

「まあ、シグ君の境遇については聞き及んでいることでもありますし、止めるべきではないのかもしれませんね」
「そうしてくれると助かる」
「ですが、一つだけ忠告しておきましょう」

 表情を改めて、ルドルフは言った。


「守護者と戦うときは、死なないのは当然として――死にかけるのも危険です。運よく生き残ったとしてもおそらく死ぬほど後悔することになります」


 生き残っても後悔する。
 その言葉に、シグは眉をひそめた。

「……後遺症とかの話か?」
「そういうわけでもないのですが……まあ、行けばわかります。嫌でも」

 意味深な助言だ。

 シグはその意味がわからなかったが、とりあえず「わかった」と返事をした。
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