22 / 71
攻略準備と意味深な助言
しおりを挟む「いらっしゃい。……って、また別嬪なお客さんが来たもんだな」
食料品店の店主は、やってきた客を見て驚いた。
迷宮都市ミランは魔境に隣接する冒険者の街だ。
この店が取り扱っているのも、冒険者向けの保存食ばかり。
だというのに、店に入ってきたのは小柄で細身の少女だった。
目深にかぶったケープのフードからは美しい白髪が覗いている。
「お客さん、何をお求めで?」
店主が訊くと、白髪の少女はこう答えた。
「そうだなあ……とりあえず携帯食料を何種類かと、あとは干し肉が欲しいな」
「はいよ。なんの干し肉になさいますか。牛、馬、猪、いくつかありますが」
「鳥とかえるはあるかい?」
「かえるはありませんな。鳥の燻製ならありますよ」
「じゃあそれをもらおう。これでどれだけ買える?」
そう言って白髪の少女が差し出してきたのは金貨だった。
なかなか無防備な買い方である。
これはいいカモだと思って店主は「こんなもんですかね」と相場より少なく――それでも大袋二つぶんはあったがが――差し出しても、白髪の少女は特に気にした様子もない。
「じゃあ、それだけもらおう」
「毎度。……ところでお嬢さん、これを一人で持って帰る気で?」
「うん。実はおつかいを頼まれていてね、向こうはいまギルドで資料読みの最中なんだ」
何やら張り切っている様子の少女だった。店主は商品を詰め終え、冗談でも飛ばすように、
「これだけあれば十回はピクニックに行けますね」
「んー、まあ、そんな感じかもしれない」
「どこか出かけるご予定が?」
少女の口調はあっけらかんとしたものだった。
「明日の朝いちばんで迷宮に行って、守護者を退治にしにいくんだ」
目を丸くする店主をよそに、白髪の少女は大袋を軽々と持ち上げ去っていった。
カウンターに金貨が残っていなけれは夢かと思ったかもしれない。
× × ×
ギルドのロビーで迷宮に関する資料を読んでいるシグのもとに、足音が近づいてきた。
「シグ君。許可証の発行が終わりましたよ」
「ああ。そこ置いといてくれ」
と、シグは視線を下げたまま自分が座る隣のソファを指さした。
ルドルフは呆れたような顔で言った。
「……あまりそんざいに扱われても困ります。仮にもこれは試験を突破し、私が実力を認めた冒険者にしか渡していないものなので」
「わかったよ細けえな。……ん? 二枚あるぞ」
試験に受かったのはクゥだけだったはずだが。
「先ほど、シグ君の実力も見せていただきましたから。『模擬戦』での戦いぶり、見事でしたよ」
「ふーん。まあ、くれるもんならもらっとくか」
シグはそう言って受け取った許可証を四つ折りにして懐にしまった。
「クゥ君はご一緒ではないんですか?」
「買い出し。わざわざ二人で行く必要もねえし、俺はやることがあったからな」
シグの言葉に、ルドルフはシグの手元を見た。
「迷宮守護者の資料、ですか」
「ああ。明日から本格的に攻略を始めるつもりだ」
「正直、お勧めできません」
「またそれかよ……」
呆れたように言うシグに、ルドルフは続ける。
「守護者は本来、上級精霊使いを含む三十人規模のパーティーで攻略するのが基本です。二人では無謀です」
「試験には受かったんだから文句ねえだろ」
「ううむ、それを言われてしまうと弱いんですが」
眉根を寄せるルドルフに、シグは続けた。
「……それに、俺たちだけでやらねえと意味がねえ。誰かに手伝わせたらまた『寄生』とか言われそうだからな」
「? クゥ君は一緒でいいんですか?」
「あいつは特例だ」
理由は聞くな、と言外に告げるシグにルドルフは首を傾げたが、追及することはなかった。
「まあ、シグ君の境遇については聞き及んでいることでもありますし、止めるべきではないのかもしれませんね」
「そうしてくれると助かる」
「ですが、一つだけ忠告しておきましょう」
表情を改めて、ルドルフは言った。
「守護者と戦うときは、死なないのは当然として――死にかけるのも危険です。運よく生き残ったとしてもおそらく死ぬほど後悔することになります」
生き残っても後悔する。
その言葉に、シグは眉をひそめた。
「……後遺症とかの話か?」
「そういうわけでもないのですが……まあ、行けばわかります。嫌でも」
意味深な助言だ。
シグはその意味がわからなかったが、とりあえず「わかった」と返事をした。
11
お気に入りに追加
2,644
あなたにおすすめの小説
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
「武器屋があるからお前など必要ない」と追放された鍛冶師は伝説の武器を作り、無双する~今更俺の武器が必要だと土下座したところでもう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属する鍛冶師のアークはパーティーに貢献してないという理由で追放される。
アークは王都を出て、自由に生きることを決意する。その道中、アークは自分の真の力に目覚め、伝説級の武器を作り出す鍛冶師として世界中に名を轟かせる。
一方、アークを追い出した【黄金の獅子王】のメンバーは、後になって知ることになる。アークが自分たちの武器をメンテしていたことでSランクになったのだと、アークを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになり、アークが関わった人たちは皆、彼の作る伝説の武器で、幸せになっていくのだった。
転生賢者の異世界無双〜勇者じゃないと追放されましたが、世界最強の賢者でした〜
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人は異世界へと召喚される。勇者としてこの国を救ってほしいと頼まれるが、直人の職業は賢者であったため、一方的に追放されてしまう。
だが、王は知らなかった。賢者は勇者をも超える世界最強の職業であることを、自分の力に気づいた直人はその力を使って自由気ままに生きるのであった。
一方、王は直人が最強だと知って、戻ってくるように土下座して懇願するが、全ては手遅れであった。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~
鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。
だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。
実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。
思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。
一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。
俺がいなくなったら商会の経営が傾いた?
……そう(無関心)
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる