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試験
しおりを挟む冒険者ギルドは冒険者をサポートする組織だ。
主な仕事は冒険者に対する魔境についての情報提供や依頼の斡旋、魔核の買い取りなど。『一定量の魔核を納品する』という条件のもと、冒険者たちを様々な面で助けてくれる。
ギルドを統括するのは一人のギルドマスター。
そんなギルドマスターを、六人のサブマスターが補佐する形だ。
ギルドマスターは基本的に本部から動くことはなく、サブマスターたちは特に規模の大きい支部――つまり六大魔境に隣接する街のギルドをそれぞれ取り仕切っている。
サブマスターたちの仕事はいくつかあるが、その中の一つが『試験官』というものだ。
魔境の最奥部を守る守護者に挑む資格があるか、実戦形式で冒険者を試す。それで不合格なら守護者に挑むことはできない。
何しろギルドは守護者のいる場所の手前に頑丈極まる門を立てており、試験をクリアした証のアイテムを持って行かないと門番に通してもらえないのだ。
シグとクゥが冒険者ギルドに足を運んだのはその試験を受けるためである。
その旨を受付嬢に伝えて数分後、一人の男が奥から出てきた。
「こんにちは。君たちが受験希望者ですか?」
「ああ」
「うん。よろしくね」
「私はルドルフといいます。支部長でも、サブマスでも、呼び方はお好きにどうぞ」
眼鏡をかけた、線の細い三十代前半くらいの男だ。
冒険者というよりは白衣を着せて図書館に放り込んだほうが似合いそうな外見である。
ルドルフはクゥを見て、柔和な笑みを浮かべた。
「シグ君に、それからきみは昨日噂になっていた方ですね。……この街にはいつから?」
「昨日だよ。シグとは昔からの知り合いで、何か助けになりたいと思ってここに来たんだ」
という設定である。
幸いルドルフは疑うことなく「なるほど」と頷き、続いてシグのほうを向いた。
「さて、試験を受けたいとのことですが――はっきり言ってお勧めはしませんね」
「あん?」
「試験は、迷宮の守護者と戦って勝ち目があるかどうかを判断するためのもの。当然それなりに危険です」
「……」
「通常の冒険者でさえ下手をすれば死にます。精霊の力を使えないあなたならなおさら危険だ。剣や体術が使えるから何とかなる、と思っているならそれは思い上がりですよ?」
ルドルフの忠告は善意からのものだ。
それがわかっているから、シグも不快に思うことはない。
「むっ……」
とはいえ隣でクゥがかちんと来た顔をしたので、何か言い出す前にシグはクゥの口を手でふさぎつつ、
「わかってる。うっかり死んでも文句は言わねえよ。何なら一筆書こうか」
「……覚悟があるなら構いません。では、修練場に行きましょうか」
ルドルフは溜め息を吐き、敷地内にある修練場に向かって歩き出した。
「シグを馬鹿にした……」
「お前なんかいらんこと考えてねえだろうな」
シグの隣では、クゥが不穏な呟きを漏らしていた。
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