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迷宮離脱(第一層)③

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「よう、楽しそうだな」
「「「――――ッ!?」」」

 物陰から現れたシグとクゥを見て、旅行帽の男たち三人は唖然と目を見開いた。

「追放王子……!? お前、なんで生きて――、」

 旅行帽の男が理解できない、とばかりにうめくのを見てシグは馬鹿にするような声を発した。

「さあ何でだろうなあ。てめーら頭悪そうだしわっかんねえだろうなあ」
「何だとォ、つーかそっちのガキは……ああそうかそうか」

 と、旅行帽の男はクゥに視線を移す。そして疑問が解けたとばかりににやりと笑った。

「そのガキに助けてもらったわけか。ははっ、情けねえなあ、そんな小娘に助けてくださいって懇願したのかよ! さすが追放王子だ、惨めなもんだな!」

「……」

「おい、ガキ! お前さては知らねえんだな? お前の隣にいるのは無能過ぎて王族を追放された落ちこぼれだぞ」

「…………、」

「そんなやつ助けたってろくな見返りはねえ。何言われたか知らねえが、どうせ騙されて――」

「――それ以上続けるな、帽子君。ぼくを怒りでおかしくさせるつもりか」

「ッ!?」

 低い声で唸るクゥの迫力にたじろぐ旅行帽の男。

(キレすぎだろこいつ……)

 シグですらそう思った。

 旅行帽の男はクゥの威圧感に動揺したようだったが、すぐに気を取り直した。

「は、ははっ! ガキ一人増えたくらい何だってんだ! こっちは三人、向こうは二人で――しかも片方は剣のねえポンコツ王子だ! 負けるわけねえ!」

 旅行帽の男のその言葉を、シグは鼻で笑った。

「勘違いしてんじゃねえよハト頭」
「誰が鳩だ殺されてーのか!」

 シグは爽やかな笑みを浮かべて旅行帽の男、猿顔の男、犬顔の男を見回し――


「てめーらの相手は俺一人だ。おら、かかってこい畜生トリオ」


 ブチッッ、という幻聴が響く。

「あいつ殺すぞ! やっちまえお前ら!」
「「おおっ!」」

 思い切り挑発に乗った三人組が突進してくる。

 動きが速い。それは彼らが身体強化――マナで肉体を強化する精霊術――を使っているからだ。
 シグにはそれは使えなかった。
 疑似精霊だった頃のクゥには、マナを扱う能力がなかったから。

「舐めやがって、後悔させてやるよ!」

 だが、それもさっきまでの話。

「――って、あれ?」

 シグから奪った剣を勢いよく振り下ろした猿顔の男が間の抜けた声を上げる。

 すぐ目の前にいるクゥが、猿顔男の背後を指さす。

「うしろに気をつけたほうがいい」
「は? ――げぶっ!?」

 直後、猿顔男が勢いよく背後からシグに殴り飛ばされた。剣を手放し、壁に叩きつけられる。猿顔男はぴくぴくと痙攣し気絶していた。

「てめえ!」

 今度は犬顔男がナイフを構えて突っ込んでくる。

 だが、当たらない。シグはそれを半歩の横移動で回避し、真っ向からカウンターの掌打を叩きつけた。のけ反り吹き飛ばされる犬顔男。からん、とナイフが空しく地面に転がる。

 まさしく瞬殺だった。

 速度、攻撃の威力、回避能力、すべてが常人をはるかに超えている。

「……なるほど、こうなるわけか」

 確かめるように手を握ったり閉じたりするシグに、残る旅行帽の男が目を剥いて叫んだ。

「どっ、どうなってやがる……!? お前は精霊の力を使えねえはずだろ!? しかも今の身体強化、上級精霊並みじゃねえか!」
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