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告白
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その日の夜。
私は深呼吸をしてから、執務室のドアを叩いた。
「ティナです。……話があるのですが、入っても構いませんか」
私が言うと、中からウォルフ様の声で『ああ』と返事がある。私はそれに従って執務室の中に入った。
「こんな時間に珍しいな。何か大切な話か」
「……はい」
私がゆっくり頷くと、ウォルフ様は何に関する話なのか察したようだった。じっと私の目を見て、私が切り出すのを待っている。
私は喉を鳴らした。
怖い。
話すのが。話して、ウォルフ様との関係が変わってしまうことが。
けれどきちんと打ち明けると決めたのだ。
「実は、私には前世の記憶があります。シルディア・ガードナー……百年前に生きた、女騎士としての前世の記憶が」
その後、私はウォルフ様にすべてを語った。
プラムに石つぶてを当てられ、そのときに記憶が戻ったこと。
身体強化や『魔術武技』はシルディアとしての経験から扱えたこと。
ウォルフ様は黙って聞いていた。
「……以上です。嘘のように聞こえるかもしれませんが、本当です。とても信じられないとは思いますが……」
私はそう話を終え、ウォルフ様の様子をうかがう。
ウォルフ様がどんな反応をするかまったく予想できなかった。
ややあって。
「――そうか。どうりでただの貴族令嬢のわりに腕が立つわけだな」
何でもないことのように、ウォルフ様はそう頷いた。
……なんだか予想より反応が軽い!
「あ、あの、ウォルフ様。本当に私の話を聞いていましたか?」
「ああ。前世がシルディア・ガードナーだという話だろう? 今まで色々と疑問はあったが、そういうことなら納得だな」
「も、もう少し動揺するとか!」
「いや、ただの令嬢が軍人だの近衛騎士だのに剣を教えているほうが怖いと思うが」
「……」
否定できない。
ウォルフ様はふと思い出したように言った。
「……それにしても、俺は本人に向かって『シルディア・ガードナーのファンだ』と宣言していたのか。あれだけは気恥ずかしいな」
「それは私の台詞です! あの会話のとき、どれだけ私が気まずかったか……」
思い出されるのはかつてメイナード領で陸軍基地との復路に聞かされた話。
自分にまつわる逸話を絶賛され続けるなんて、あれは拷問の一種と言っても過言ではない。
ウォルフ様は苦笑した。
「……とはいえ、俺の中でシルディアとティナは別人だ。たとえ同じ記憶を持っていてもな」
「そうしていただけると助かります」
私が言うと、不意にウォルフ様が笑みをわずかに深くした。
「それで、なぜこのタイミングでそれを明かしたんだ? ……いや、聞くまでもないか」
「わ、わかるのですか」
「フェアじゃないからだろう。だが、俺との結婚を断るつもりなら言わずにただ去ればいいだけの話だ。となると、お前の答えは――」
「う」
あっさり読まれた。しかもその通りなので反論できない。
「……いけませんか。仕方がないでしょう。初めてだったんですよ、あんなふうに好意を向けられたのは」
「そうか。どうも百年前のお前のまわりには、見る目のある男がいなかったらしいな」
「~~~~っ、なんなんですか!」
「実際そうだろう。当時に俺がいたら絶対に口説いていたぞ」
優しげな声色でそう告げられて、私は息を詰まらせる。完全にからかわれている、と思って見返したらウォルフ様の表情は大真面目だった。
本心だなんて本当にやめてほしい。どきどきしすぎて心臓が痛くなってくる。
私は深呼吸をしてから、執務室のドアを叩いた。
「ティナです。……話があるのですが、入っても構いませんか」
私が言うと、中からウォルフ様の声で『ああ』と返事がある。私はそれに従って執務室の中に入った。
「こんな時間に珍しいな。何か大切な話か」
「……はい」
私がゆっくり頷くと、ウォルフ様は何に関する話なのか察したようだった。じっと私の目を見て、私が切り出すのを待っている。
私は喉を鳴らした。
怖い。
話すのが。話して、ウォルフ様との関係が変わってしまうことが。
けれどきちんと打ち明けると決めたのだ。
「実は、私には前世の記憶があります。シルディア・ガードナー……百年前に生きた、女騎士としての前世の記憶が」
その後、私はウォルフ様にすべてを語った。
プラムに石つぶてを当てられ、そのときに記憶が戻ったこと。
身体強化や『魔術武技』はシルディアとしての経験から扱えたこと。
ウォルフ様は黙って聞いていた。
「……以上です。嘘のように聞こえるかもしれませんが、本当です。とても信じられないとは思いますが……」
私はそう話を終え、ウォルフ様の様子をうかがう。
ウォルフ様がどんな反応をするかまったく予想できなかった。
ややあって。
「――そうか。どうりでただの貴族令嬢のわりに腕が立つわけだな」
何でもないことのように、ウォルフ様はそう頷いた。
……なんだか予想より反応が軽い!
「あ、あの、ウォルフ様。本当に私の話を聞いていましたか?」
「ああ。前世がシルディア・ガードナーだという話だろう? 今まで色々と疑問はあったが、そういうことなら納得だな」
「も、もう少し動揺するとか!」
「いや、ただの令嬢が軍人だの近衛騎士だのに剣を教えているほうが怖いと思うが」
「……」
否定できない。
ウォルフ様はふと思い出したように言った。
「……それにしても、俺は本人に向かって『シルディア・ガードナーのファンだ』と宣言していたのか。あれだけは気恥ずかしいな」
「それは私の台詞です! あの会話のとき、どれだけ私が気まずかったか……」
思い出されるのはかつてメイナード領で陸軍基地との復路に聞かされた話。
自分にまつわる逸話を絶賛され続けるなんて、あれは拷問の一種と言っても過言ではない。
ウォルフ様は苦笑した。
「……とはいえ、俺の中でシルディアとティナは別人だ。たとえ同じ記憶を持っていてもな」
「そうしていただけると助かります」
私が言うと、不意にウォルフ様が笑みをわずかに深くした。
「それで、なぜこのタイミングでそれを明かしたんだ? ……いや、聞くまでもないか」
「わ、わかるのですか」
「フェアじゃないからだろう。だが、俺との結婚を断るつもりなら言わずにただ去ればいいだけの話だ。となると、お前の答えは――」
「う」
あっさり読まれた。しかもその通りなので反論できない。
「……いけませんか。仕方がないでしょう。初めてだったんですよ、あんなふうに好意を向けられたのは」
「そうか。どうも百年前のお前のまわりには、見る目のある男がいなかったらしいな」
「~~~~っ、なんなんですか!」
「実際そうだろう。当時に俺がいたら絶対に口説いていたぞ」
優しげな声色でそう告げられて、私は息を詰まらせる。完全にからかわれている、と思って見返したらウォルフ様の表情は大真面目だった。
本心だなんて本当にやめてほしい。どきどきしすぎて心臓が痛くなってくる。
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