いつまで私を気弱な『子豚令嬢』だと思っているんですか?~前世を思い出したので、私を虐めた家族を捨てて公爵様と幸せになります~

ヒツキノドカ

文字の大きさ
上 下
55 / 64
連載

告白

しおりを挟む
 その日の夜。
 私は深呼吸をしてから、執務室のドアを叩いた。

「ティナです。……話があるのですが、入っても構いませんか」

 私が言うと、中からウォルフ様の声で『ああ』と返事がある。私はそれに従って執務室の中に入った。

「こんな時間に珍しいな。何か大切な話か」
「……はい」

 私がゆっくり頷くと、ウォルフ様は何に関する話なのか察したようだった。じっと私の目を見て、私が切り出すのを待っている。

 私は喉を鳴らした。

 怖い。
 話すのが。話して、ウォルフ様との関係が変わってしまうことが。

 けれどきちんと打ち明けると決めたのだ。


「実は、私には前世の記憶があります。シルディア・ガードナー……百年前に生きた、女騎士としての前世の記憶が」


 その後、私はウォルフ様にすべてを語った。

 プラムに石つぶてを当てられ、そのときに記憶が戻ったこと。
 身体強化や『魔術武技マジックアーツ』はシルディアとしての経験から扱えたこと。

 ウォルフ様は黙って聞いていた。

「……以上です。嘘のように聞こえるかもしれませんが、本当です。とても信じられないとは思いますが……」

 私はそう話を終え、ウォルフ様の様子をうかがう。
 ウォルフ様がどんな反応をするかまったく予想できなかった。

 ややあって。

「――そうか。どうりでただの貴族令嬢のわりに腕が立つわけだな」

 何でもないことのように、ウォルフ様はそう頷いた。
 ……なんだか予想より反応が軽い!

「あ、あの、ウォルフ様。本当に私の話を聞いていましたか?」
「ああ。前世がシルディア・ガードナーだという話だろう? 今まで色々と疑問はあったが、そういうことなら納得だな」
「も、もう少し動揺するとか!」
「いや、ただの令嬢が軍人だの近衛騎士だのに剣を教えているほうが怖いと思うが」
「……」

 否定できない。

 ウォルフ様はふと思い出したように言った。

「……それにしても、俺は本人に向かって『シルディア・ガードナーのファンだ』と宣言していたのか。あれだけは気恥ずかしいな」
「それは私の台詞です! あの会話のとき、どれだけ私が気まずかったか……」

 思い出されるのはかつてメイナード領で陸軍基地との復路に聞かされた話。
 自分にまつわる逸話を絶賛され続けるなんて、あれは拷問の一種と言っても過言ではない。

 ウォルフ様は苦笑した。

「……とはいえ、俺の中でシルディアとティナは別人だ。たとえ同じ記憶を持っていてもな」
「そうしていただけると助かります」

 私が言うと、不意にウォルフ様が笑みをわずかに深くした。

「それで、なぜこのタイミングでそれを明かしたんだ? ……いや、聞くまでもないか」
「わ、わかるのですか」
「フェアじゃないからだろう。だが、俺との結婚を断るつもりなら言わずにただ去ればいいだけの話だ。となると、お前の答えは――」
「う」

 あっさり読まれた。しかもその通りなので反論できない。

「……いけませんか。仕方がないでしょう。初めてだったんですよ、あんなふうに好意を向けられたのは」
「そうか。どうも百年前のお前のまわりには、見る目のある男がいなかったらしいな」
「~~~~っ、なんなんですか!」
「実際そうだろう。当時に俺がいたら絶対に口説いていたぞ」

 優しげな声色でそう告げられて、私は息を詰まらせる。完全にからかわれている、と思って見返したらウォルフ様の表情は大真面目だった。

 本心だなんて本当にやめてほしい。どきどきしすぎて心臓が痛くなってくる。
しおりを挟む
感想 298

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。