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連載
魔剣
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「試していただきたいのはこれですわ」
「これは……竜鉱石の剣?」
「その通りです」
中庭で、ミランダ様から渡されたのは竜鉱石製の長剣だった。
私の持つ『紅竜剣バルジャック』と違って刀身は赤ではなく翡翠のような緑色だけれど。
この剣には柄のところにいくつも輝く鉱石が埋め込まれ、それらをつなぐように線が刻まれている。まるで魔道具のようだ。
ミランダ様は説明してくれる。
「竜鉱石の剣は、特定のパターンで魔力を流すと溜めこんでいる魔力を解放します。放出されるエネルギーは凄まじいものですわ」
それは知っている。というか、ラグド砦で黄土色の竜を倒す際、私は実際にそれをやっているわけだし。
「しかし特定のパターンで魔力を送る、というのがとても難しいのです。魔力の扱いによほど長けていなくてはとてもできません。ゆえに、この剣はそれを解決するための仕組みが付け足されています」
「この柄の部分ですか」
「はい。柄を加工した魔力回路によって、自動的に竜鉱石に反応する魔力パターンを発生させることができます。……要するに、魔力を流せば誰でも竜鉱石の真の力が引き出せるわけです」
「そんなことが……」
私の前世の時代では、竜鉱石の剣を扱える人間が強者の証のようなものだった。
それが、誰でもとは。
革命的だ。
「ただし、今のところ大量の魔力がなくては使うことができないのです。柄の魔力回路を起動させるにも、魔力が必要になってしまいますから」
「ああ、それで高い魔力を持つ人間を探していたんですね」
「そういうことです。本日はそれが正常に動くかどうか確認していただきたいのです」
「わかりました」
指示された通り、私は手元の魔剣に魔力を流し込む。
……む、確かにどんどん吸い込んでいきますね。
そのまま私が魔力を流し込んでいくと、やがて刀身がひときわ強く輝いた。
「空に向かって剣を薙いでください!」
ミランダ様の声に従い、私は緑色に輝く魔剣を斜め上へと振り抜いた。
すると――ゴウッ! と暴風が吹き荒れた。
中庭の木々が軋むほどの強風だ。風が収まったあとも耳鳴りがするほどである。
「うまくいきましたわね」
ミランダ様が会心の笑みを浮かべて呟く。
「実験はこれで終了ですか?」
「はい。実際に竜鉱石の力を取り出すことができましたから。あとは持ち帰って確認いたしますわ。協力してくださってありがとうございます、ティナさん」
「いえ。お役に立てたなら何よりです」
魔剣を鞘に納め、ミランダ様に返却する。
それにしてもすごい技術力だ。今の強風は竜鉱石の威力を完全に引き出せているわけではないだろうけれど、一部でも汎用化できているだけで規格外といえる。
「協力していただいたからには、何かお礼をしなくてはなりませんわね。ティナさん、何かほしいものはおありですか?」
私は首を横に振った。
「とんでもありません。ミランダ様には姉のチェルシーがご迷惑をおかけしたと聞いていますから、このくらいは――」
「なんのことでしょうか?」
「え? いえ、ですから姉がミランダ様に暴行を加えたり暴言を」
「なんのことでしょうか? 記憶にまったくありませんわね」
「……そ、そうですか」
どうやらミランダ様はチェルシーとの間にあったことをすべてなかったことにしているらしい。気持ちはわかる。
こほん、とミランダ様は再度尋ねてきた。
「それで、何か叶えてほしい望みはありませんか?」
望み。
特にほしいものはないけれど……あ。
私はためらいながら口を開いた。
「……では、その、少しだけ人生相談に乗っていただけませんか」
「はい?」
ミランダ様はチェルシーと同い年らしいので、つまりは今世における年上。しかもデール殿下という婚約者がいて、同性でもある。
私はウォルフ様との関係に悩んでいることを打ち明けた。
「これは……竜鉱石の剣?」
「その通りです」
中庭で、ミランダ様から渡されたのは竜鉱石製の長剣だった。
私の持つ『紅竜剣バルジャック』と違って刀身は赤ではなく翡翠のような緑色だけれど。
この剣には柄のところにいくつも輝く鉱石が埋め込まれ、それらをつなぐように線が刻まれている。まるで魔道具のようだ。
ミランダ様は説明してくれる。
「竜鉱石の剣は、特定のパターンで魔力を流すと溜めこんでいる魔力を解放します。放出されるエネルギーは凄まじいものですわ」
それは知っている。というか、ラグド砦で黄土色の竜を倒す際、私は実際にそれをやっているわけだし。
「しかし特定のパターンで魔力を送る、というのがとても難しいのです。魔力の扱いによほど長けていなくてはとてもできません。ゆえに、この剣はそれを解決するための仕組みが付け足されています」
「この柄の部分ですか」
「はい。柄を加工した魔力回路によって、自動的に竜鉱石に反応する魔力パターンを発生させることができます。……要するに、魔力を流せば誰でも竜鉱石の真の力が引き出せるわけです」
「そんなことが……」
私の前世の時代では、竜鉱石の剣を扱える人間が強者の証のようなものだった。
それが、誰でもとは。
革命的だ。
「ただし、今のところ大量の魔力がなくては使うことができないのです。柄の魔力回路を起動させるにも、魔力が必要になってしまいますから」
「ああ、それで高い魔力を持つ人間を探していたんですね」
「そういうことです。本日はそれが正常に動くかどうか確認していただきたいのです」
「わかりました」
指示された通り、私は手元の魔剣に魔力を流し込む。
……む、確かにどんどん吸い込んでいきますね。
そのまま私が魔力を流し込んでいくと、やがて刀身がひときわ強く輝いた。
「空に向かって剣を薙いでください!」
ミランダ様の声に従い、私は緑色に輝く魔剣を斜め上へと振り抜いた。
すると――ゴウッ! と暴風が吹き荒れた。
中庭の木々が軋むほどの強風だ。風が収まったあとも耳鳴りがするほどである。
「うまくいきましたわね」
ミランダ様が会心の笑みを浮かべて呟く。
「実験はこれで終了ですか?」
「はい。実際に竜鉱石の力を取り出すことができましたから。あとは持ち帰って確認いたしますわ。協力してくださってありがとうございます、ティナさん」
「いえ。お役に立てたなら何よりです」
魔剣を鞘に納め、ミランダ様に返却する。
それにしてもすごい技術力だ。今の強風は竜鉱石の威力を完全に引き出せているわけではないだろうけれど、一部でも汎用化できているだけで規格外といえる。
「協力していただいたからには、何かお礼をしなくてはなりませんわね。ティナさん、何かほしいものはおありですか?」
私は首を横に振った。
「とんでもありません。ミランダ様には姉のチェルシーがご迷惑をおかけしたと聞いていますから、このくらいは――」
「なんのことでしょうか?」
「え? いえ、ですから姉がミランダ様に暴行を加えたり暴言を」
「なんのことでしょうか? 記憶にまったくありませんわね」
「……そ、そうですか」
どうやらミランダ様はチェルシーとの間にあったことをすべてなかったことにしているらしい。気持ちはわかる。
こほん、とミランダ様は再度尋ねてきた。
「それで、何か叶えてほしい望みはありませんか?」
望み。
特にほしいものはないけれど……あ。
私はためらいながら口を開いた。
「……では、その、少しだけ人生相談に乗っていただけませんか」
「はい?」
ミランダ様はチェルシーと同い年らしいので、つまりは今世における年上。しかもデール殿下という婚約者がいて、同性でもある。
私はウォルフ様との関係に悩んでいることを打ち明けた。
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