いつまで私を気弱な『子豚令嬢』だと思っているんですか?~前世を思い出したので、私を虐めた家族を捨てて公爵様と幸せになります~

ヒツキノドカ

文字の大きさ
上 下
44 / 64
連載

犬……? いや、狼……?

しおりを挟む

 戦闘終了だ。
 もう周囲には他の魔物はいない。

 私はそれを確認してから、深く溜め息を吐いた。

「…………不覚です……」

 自分で自分が信じられない。いくら強敵を倒したばかりだからと、気を緩めるなんて。

「ティナ、大丈夫?」
「はい。助かりました、ノア。それにしてもあなたは普通に魔術が使えたんですね」
「教えてもらった」

 そういえばノアはここに来る前、宮廷魔術師に魔術の訓練をしてもらっていたんだった。

 ……とはいえ、まだ初めてせいぜい二日かそこらでは?
 それでああも的確に魔術を使えるというのは、ノアは案外天才肌なのかもしれない。

 なんて考えていると、ノアが私に向かって言った。

「屈んで」
「はい?」

 頭に何かついているのだろうか。

 私が言われた通りにすると、ノアは位置の下がった私の頭を撫でた。
 なでなでと何度もさすってくる。

「……あの、ノア。これは一体」
「ティナ、落ち込んでたみたいだったから。落ち込んだ相手にはこうする」
「本に書いてあったんですか?」
「ん」

 どうやら私はノアが見てわかるほど気落ちしていたようだ。
 どうしよう。なんだか今の私はすごく情けないような気がする。

「も、もういいです。お気遣いありがとうございます」

 さすがに恥ずかしかったのでさっさと切り上げる。その際にノアが少し残念そうにしていたように見えたのは、私の目の錯覚だろう。

 さて、魔石を拾わないと。
 そう思って視線を下に向けると、私はあることに気付いた。

「魔石が二つ……?」

 そう、二体目のベヒーモスを倒した場所には大小ひとつずつの魔石が落ちていた。
 どれだけ強い魔物でも、倒したあとに残る魔石はひとつ。
 これはどういうことだろう。

 ……ああ、もしかして。

「さっきの魔物、二体もいるとは思わなかった」

 ちょうどよくノアがそんなことを言ったので、私は仮説を語った。

「おそらく、つがいだったのでしょうね」
「つがい?」
「ええ。二体目のベヒーモスからはふたつ魔石が出ました。おそらく親のぶんと、お腹の中にいた子供のぶんでしょう」

 魔物は体内で子供の魔石を生成する。だから二体目のベヒーモスからはふたつの魔石が出たんだろう。

 となると、ここにベヒーモスがいた理由も想像がつく。
 おそらく出産のためだ。隙のできやすい出産を安全に行うため、周囲に危険な魔物の少ない『神隠しの森』までやってきたというわけだ。

「ふうん」

 ちなみにノアはわりとどうでもよさそうだった。
 いや、まあ、感心してもらいたかったわけではないんですが。

「それより、ここ、どうして『神隠しの森』っていうの?」

 どうやらノアには森の名前の由来のほうが大事らしい。

「そのままですよ。なんでもここに入った人間がたまに失踪することがあるそうです。おそらくは迷信でしょうが」
「へえ」
「失踪の理由についても様々です。怪物に食い殺されるだの、精霊に連れていかれるだのと色々と説はありますね」

 おそらく、森の周辺に住む人たちがそういう教訓を口伝しているんだろうと思う。

 この森にはベヒーモスほど危険ではなくとも、魔物が住んでいる。
 村の子供たちが無暗に森に入らないように、そういう言い伝えで脅かしているのだ。
 つまりは眉唾である。

「神様がいるわけじゃないんだね」
「こんなところにいたりはしないと思いますよ」

 ……そんなことを話していたからだろうか。


「貴様ら、大儀であった! よくぞあの忌まわしい黒き獣を始末してくれたな! 礼を言ってやろう! わははははっ!」


 なにか聞こえた。
 私とノアが視線を向けると、そこにはいつの間にか動物がやってきていた。

 小さい犬。
 いや、狼だろうか。
 その狼はなぜか赤く、四肢にオレンジ色の炎を纏っていた。

「ん? おい、なぜ返事をせんのだ。せっかくこの我が話しかけてやっているというのに!」

 しかもどう見ても人間の言葉をしゃべっている。

「「……」」

 私とノアは顔を見合わせた。
 なんですか、これは。
しおりを挟む
感想 298

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。