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連載
ミノス②
しおりを挟む(……まあ、信仰されているのは純粋な精霊たちのみですが)
そもそも人間界にいるはずのないミノスがここにいる理由というのが、『精霊界を追放されたから』なのだ。
なんでも精霊界で人様のお宝を盗みまくったせいで精霊としての立場を剥奪されたらしい。
……精霊たちにとってはこの人間界は流刑地扱いというのが複雑だ。
ともかく、ミノスのように精霊界で悪さをしたものはこちらの世界にやってくることがあるのだ。私がミノスを元精霊、と呼んだのはそういう理由である。
「で、シルディア様。今日は何の御用で?」
「ああ、あなたの宝物庫に少し用がありまして」
このミノスは精霊界で盗んできた宝物を大量にこの世界に持ち込んでいる。しかもそれらは一つ一つが特別な効果を持った魔道具。
それらはこの地下のさらに奥にある宝物庫にしまわれている。
ミノスがこうして地下迷宮を造り、トラップをわんさか配置しているのもその宝物を守るためだったりする。
ミノスはぶんぶんと首を横に振った。
「か、勘弁してくだせえそれは! あっしがどんな思いで他の精霊たちから秘宝を盗んできたか知らないからそんな酷いことが言えるんでさあ!」
「ちなみに他の精霊たちから盗んだ理由は?」
「理由……? ふっ、欲しいもんいただくのに理由がいりますかい?」
「特に遠慮する必要性を感じませんね」
本当にこのウシ頭はかつて『清らかで美しい』とされる精霊の一体だったんだろうか。
「百年前も快く貸してくれたではありませんか」
「あ、あれはシルディア様が無理やり持ってったんじゃありやせんか! しかも返してもらってませんし!」
ミノスが言っているのは生前私が魔力を制御できない部下のために借りた魔道具のことだろう。
「あれは戦いの途中で壊れてしまったので……どうしても嫌ですか? 人助けだと思って」
「嫌ですな。人間なんざどうなろうと知ったこっちゃありやせん」
私は嘆息した。
「そうですか。では仕方ありませんね」
「おお、わかっていただけやしたか」
「心が痛みます。あなたが『はい』というまで殴り続けなくてはいけないなんて」
「待ってくだせえシルディア様! それは全然わかっていただけてねえ!」
私がミノスの叫びを無視して近づいていくと、ミノスは諦めたように、
「わ、わかりました! 好きなもんを持っていってくだせえ! だから命だけは!」
「ふふ、ありがとうございます。あなたならそう言ってくれると思っていましたよ」
「どの口で言っておられるんですか!?」
こうして私は異論の余地なく、平和的な交渉の果てにミノスから魔道具を借りる言質を取ることができたのだった。
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