上 下
31 / 64
連載

地下迷宮の主

しおりを挟む

 デール殿下に用意してもらった馬で移動すること一日。
 私は目的地のラビス山脈のふもとに辿り着いた。
 適当な場所に馬をつなぎ、荒れ果てた山道を身体強化によってさっさと登り切る。

「ここは全然変わっていませんね」

 ラビス山脈の頂上に残る古城跡地を見て私は呟いた。

 さて、ではさっそく用件を済ませるとしよう。
 目指すは古城の中心、かつて大広間があったであろう場所だ。

「この下に……ああ、やっぱりありましたか」

 瓦礫の下に隠れて鉄製の輪を見つける。単なるごみにも見えるけれど、これは取っ手だ。身体強化を使ってそれを思い切り引くと、ゴゴゴゴ……という音とともに地下へと続く隠し階段が現れる。

 階段を下ると地下通路に出る。

 地下通路なのだから普通は真っ暗なはずなのに、壁や天井には魔石を燃料とする照明装置がばっちり設置されていて昼間のように明るい。
 これが整備されているということは――

(どうやら『あれ』もきちんとここにいるようですね。最後に会ったのが百年前ですから、引っ越しでもしている可能性も考えましたが、杞憂でしたか)

 とりあえず、目当ての相手がいるなら問題ない。
 私は地下通路を進んでいく。

 と。


 ヒュンッ! と真横から私の脳天目がけて槍が飛んできた。


「ふむ」

 紅竜剣バルジャックで飛んできた槍を叩き落とす。視線を向けると壁には穴が空いており、何らかの仕掛けによって槍が射出されてきたようだ。

 特に気にせず奥へ向かう。
 続いて何か重たいものが転がるような鈍い音が後ろから響いてくる。

「今度は鉄球ですか。ベタですね」

 通路を押し広げんばかりに猛然と転がってくる巨大鉄球を、さっきの槍同様真っ二つに切り捨てる。

 その後も奥へと進むたびに次々とトラップが襲い掛かってきた。
 天井から岩が振ってきたり、足元に踏むと熱線が飛んでくるボタンが埋まっていたり、謎の動く鎧が大剣で斬りかかってきたり。

 そのすべてをさくさく突破してさらに奥へ。

「まったく、しょうもない仕掛けばかり作って……」

 百年前よりバリエーションが増えている。どこに労力を割いているのか。

 そんなことを愚痴りながらもトラップを粉砕しつつ地下通路――というより迷路を突き進む。

 そうして進むことしばらく。
 私はようやく目的地にたどり着いた。

 通路の先にあったのは広大な空間だった。天井は高く、面積も冗談のように広い。その中心には巨大な玉座が置かれ、迷宮の主はそこにいる。

「――我が迷宮を土足で踏み荒らすのは何者だ」

 重々しく響く声。

 そこにいたのは見上げるほどの巨躯を誇る怪物だった。筋骨隆々の肉体の上には猛々しい牛の頭が乗っている。
 ミノタウロス、という魔物に酷似した姿だ。
 けれどその体格、威圧感、さらに言葉を操る知能はそれをはるかに凌駕する。

 怪物は私を見下ろして口元を緩める。

「驚いた、小娘が一人とはな。どうやってここに迷い込んだのやら……」

 この反応、どうやら私が誰か気付いていないようだ。

「ミノス。私を忘れたのですか?」
「なんだと? いや待て小娘、なぜ儂の名を知っている? ……というかその口調、いやにかつての知り合いを思い出すゆえやめてほしいのだが」

 隠してもらちが明かないので私はさっさと告げることにした。

「私です。シルディア・ガードナーですよ。久しぶりですね」
「………………ッ!?」

 瞬間、牛頭の怪物――ミノスの全身からどっと汗が噴き出した。
しおりを挟む
感想 298

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。