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連載
地下迷宮の主
しおりを挟むデール殿下に用意してもらった馬で移動すること一日。
私は目的地のラビス山脈のふもとに辿り着いた。
適当な場所に馬をつなぎ、荒れ果てた山道を身体強化によってさっさと登り切る。
「ここは全然変わっていませんね」
ラビス山脈の頂上に残る古城跡地を見て私は呟いた。
さて、ではさっそく用件を済ませるとしよう。
目指すは古城の中心、かつて大広間があったであろう場所だ。
「この下に……ああ、やっぱりありましたか」
瓦礫の下に隠れて鉄製の輪を見つける。単なるごみにも見えるけれど、これは取っ手だ。身体強化を使ってそれを思い切り引くと、ゴゴゴゴ……という音とともに地下へと続く隠し階段が現れる。
階段を下ると地下通路に出る。
地下通路なのだから普通は真っ暗なはずなのに、壁や天井には魔石を燃料とする照明装置がばっちり設置されていて昼間のように明るい。
これが整備されているということは――
(どうやら『あれ』もきちんとここにいるようですね。最後に会ったのが百年前ですから、引っ越しでもしている可能性も考えましたが、杞憂でしたか)
とりあえず、目当ての相手がいるなら問題ない。
私は地下通路を進んでいく。
と。
ヒュンッ! と真横から私の脳天目がけて槍が飛んできた。
「ふむ」
紅竜剣バルジャックで飛んできた槍を叩き落とす。視線を向けると壁には穴が空いており、何らかの仕掛けによって槍が射出されてきたようだ。
特に気にせず奥へ向かう。
続いて何か重たいものが転がるような鈍い音が後ろから響いてくる。
「今度は鉄球ですか。ベタですね」
通路を押し広げんばかりに猛然と転がってくる巨大鉄球を、さっきの槍同様真っ二つに切り捨てる。
その後も奥へと進むたびに次々とトラップが襲い掛かってきた。
天井から岩が振ってきたり、足元に踏むと熱線が飛んでくるボタンが埋まっていたり、謎の動く鎧が大剣で斬りかかってきたり。
そのすべてをさくさく突破してさらに奥へ。
「まったく、しょうもない仕掛けばかり作って……」
百年前よりバリエーションが増えている。どこに労力を割いているのか。
そんなことを愚痴りながらもトラップを粉砕しつつ地下通路――というより迷路を突き進む。
そうして進むことしばらく。
私はようやく目的地にたどり着いた。
通路の先にあったのは広大な空間だった。天井は高く、面積も冗談のように広い。その中心には巨大な玉座が置かれ、迷宮の主はそこにいる。
「――我が迷宮を土足で踏み荒らすのは何者だ」
重々しく響く声。
そこにいたのは見上げるほどの巨躯を誇る怪物だった。筋骨隆々の肉体の上には猛々しい牛の頭が乗っている。
ミノタウロス、という魔物に酷似した姿だ。
けれどその体格、威圧感、さらに言葉を操る知能はそれをはるかに凌駕する。
怪物は私を見下ろして口元を緩める。
「驚いた、小娘が一人とはな。どうやってここに迷い込んだのやら……」
この反応、どうやら私が誰か気付いていないようだ。
「ミノス。私を忘れたのですか?」
「なんだと? いや待て小娘、なぜ儂の名を知っている? ……というかその口調、いやにかつての知り合いを思い出すゆえやめてほしいのだが」
隠してもらちが明かないので私はさっさと告げることにした。
「私です。シルディア・ガードナーですよ。久しぶりですね」
「………………ッ!?」
瞬間、牛頭の怪物――ミノスの全身からどっと汗が噴き出した。
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