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リーラ大森林近郊の村
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私たちはニーグルさんと一緒に村に行くことにした。
助けてもらったお礼に村を案内する、とニーグルさんが言ってくれたのだ。リーラ大森林について話も聞きたいことだし、私たちはありがたくその提案を受けることにした。
「着きましたよ。ここがリーラ村です」
山道を下り、村の入口までやってきたところでニーグルさんがそう言った。
「なんというか、そのままの名前ですね」
村の由来は間違いなく隣接するリーラ大森林だろう。
「そうですね。ぶっちゃけこの村に名前なんてないんですけど、近くに目立ちすぎるものがあるのでそう呼ばれてます。聖大樹が近くにある村なんてそうそうないですからね」
そう説明しながらニーグルさんについて村の中に入る。
村の様子を観察しながらハルクさんが呟くように言った。
「……盗賊がこの村に来た気配はないね」
「そうですね。あいつら、一体どこに行ったんだ……?」
ニーグルさんと馬を治療した後、ハルクさんの【生体感知】で山を探した。
盗賊を探して捕まえるためだ。
けれど人間らしい反応は山の中にはなかった。
そのため、もしかしてすでに村を襲って占拠しているのかと思ったけれど、実際に来てみたら村は平和そのもの。
本当に盗賊なんていたんだろうか、と思ってしまいそうになる。
「村を案内するって言いましたけど……すみません、ちょっと待っててください。村の連中に盗賊のことを伝えてきます。まだ近くにいるかもしれない以上、警戒はしとかないと」
「わかりました」
ニーグルさんは村人たちの元に走っていった。
ハルクさんの【生体感知】には引っかからなかったとはいえ、警戒しておくに越したことはないだろう。
ただ待っているのも暇なので、ハルクさんに話しかける。
「盗賊、逆方向に向かったんでしょうか?」
「どうだろうね。山道を村と逆方向に進んだら、そっちは平原だ。身を隠す場所はないし、普通なら山の中にとどまるような気がするけど」
「町のほうに拠点があるとか」
「馬車を囲まれるほどの人数の盗賊、ってニーグルが言ってたからなあ。そんな人数が町中にいたら、すぐに衛兵に見つかって捕まると思うよ」
確かに。
町の方でもないとなると……盗賊は本当にどこに行ってしまったんだろう?
ちょっと不気味だ。
「まあ、盗賊が出たら僕がなんとかするよ」
「よろしくお願いします」
あっさり請け負うハルクさん。頼もしすぎる。
「それより、ここはセルビアの故郷なんだよね? なにか思い出すことがあったりするんじゃない?」
「そうですね……」
改めて周囲を見回す。
ごく普通の田舎の村という感じの場所だ。奥にはリーラ大森林と村を隔てる木製の柵が見える。
「……うーん、あるようなないような」
「曖昧だね」
「私が聖女候補になったのは十年以上も前ですからね……」
この村で過ごした時間より、教会で過ごした時間のほうがずっと長い。故郷と言われても、やっぱりどこか実感がわかない。
「ここにはセルビアのご両親がいるんじゃないの?」
「確かに。でも、どこにいるのかわかりませんね」
「ニーグルに聞いてみたらいいんじゃない?」
「会ってなにを話せばいいのやら……」
村の景色と同じく、両親にまつわる記憶もまったくない。
今さらどういう対応をしたらいいのか、正直困りそうだ。
「会ってから考えればいいと思うよ。それも含めてセルビアが決めればいいと思うけど……僕としては、会えるうちに会っておいたほうがいいとは思う」
ハルクさんが静かにそう告げる。
そういえば、ハルクさんの両親については聞いたことがない。けれどこの様子からすると、もしかしてハルクさんは両親と会いたくても会えない事情があるのかもしれない。
「……そうですね。顔を見るくらいは、しておいてもいいかもしれません」
と、私が言ったところでニーグルさんが戻ってくる。
「すんません、お待たせしました。やっぱり盗賊の姿は見てないそうです。一応村の入口に見張りを立てることになりました」
「そうですか。……何事もなければいいですね」
「はい。まあ、どこにいったかわからない盗賊のことは置いといて、とりあえずお二人、今からうちに来ませんか? 名物をご馳走しますよ」
ニーグルさんがそんな提案をしてくる。
名物。どんなものだろう?
「それは……美味しいものですか?」
「そりゃもう絶品ですよ! 他じゃ味わえないご当地グルメってやつです。実はこの村にそれ目当てで来る旅人もいるくらいで」
そ、そんなものが……ごくり。
私の両親のことも含めて聞きたいこともあることだし……
ちらりとハルクさんを見ると、苦笑交じりの頷きが返ってくる。
「それじゃあ、お邪魔します」
「はい!」
そんなわけで、私たちはニーグルさんの家にお邪魔することになった。
助けてもらったお礼に村を案内する、とニーグルさんが言ってくれたのだ。リーラ大森林について話も聞きたいことだし、私たちはありがたくその提案を受けることにした。
「着きましたよ。ここがリーラ村です」
山道を下り、村の入口までやってきたところでニーグルさんがそう言った。
「なんというか、そのままの名前ですね」
村の由来は間違いなく隣接するリーラ大森林だろう。
「そうですね。ぶっちゃけこの村に名前なんてないんですけど、近くに目立ちすぎるものがあるのでそう呼ばれてます。聖大樹が近くにある村なんてそうそうないですからね」
そう説明しながらニーグルさんについて村の中に入る。
村の様子を観察しながらハルクさんが呟くように言った。
「……盗賊がこの村に来た気配はないね」
「そうですね。あいつら、一体どこに行ったんだ……?」
ニーグルさんと馬を治療した後、ハルクさんの【生体感知】で山を探した。
盗賊を探して捕まえるためだ。
けれど人間らしい反応は山の中にはなかった。
そのため、もしかしてすでに村を襲って占拠しているのかと思ったけれど、実際に来てみたら村は平和そのもの。
本当に盗賊なんていたんだろうか、と思ってしまいそうになる。
「村を案内するって言いましたけど……すみません、ちょっと待っててください。村の連中に盗賊のことを伝えてきます。まだ近くにいるかもしれない以上、警戒はしとかないと」
「わかりました」
ニーグルさんは村人たちの元に走っていった。
ハルクさんの【生体感知】には引っかからなかったとはいえ、警戒しておくに越したことはないだろう。
ただ待っているのも暇なので、ハルクさんに話しかける。
「盗賊、逆方向に向かったんでしょうか?」
「どうだろうね。山道を村と逆方向に進んだら、そっちは平原だ。身を隠す場所はないし、普通なら山の中にとどまるような気がするけど」
「町のほうに拠点があるとか」
「馬車を囲まれるほどの人数の盗賊、ってニーグルが言ってたからなあ。そんな人数が町中にいたら、すぐに衛兵に見つかって捕まると思うよ」
確かに。
町の方でもないとなると……盗賊は本当にどこに行ってしまったんだろう?
ちょっと不気味だ。
「まあ、盗賊が出たら僕がなんとかするよ」
「よろしくお願いします」
あっさり請け負うハルクさん。頼もしすぎる。
「それより、ここはセルビアの故郷なんだよね? なにか思い出すことがあったりするんじゃない?」
「そうですね……」
改めて周囲を見回す。
ごく普通の田舎の村という感じの場所だ。奥にはリーラ大森林と村を隔てる木製の柵が見える。
「……うーん、あるようなないような」
「曖昧だね」
「私が聖女候補になったのは十年以上も前ですからね……」
この村で過ごした時間より、教会で過ごした時間のほうがずっと長い。故郷と言われても、やっぱりどこか実感がわかない。
「ここにはセルビアのご両親がいるんじゃないの?」
「確かに。でも、どこにいるのかわかりませんね」
「ニーグルに聞いてみたらいいんじゃない?」
「会ってなにを話せばいいのやら……」
村の景色と同じく、両親にまつわる記憶もまったくない。
今さらどういう対応をしたらいいのか、正直困りそうだ。
「会ってから考えればいいと思うよ。それも含めてセルビアが決めればいいと思うけど……僕としては、会えるうちに会っておいたほうがいいとは思う」
ハルクさんが静かにそう告げる。
そういえば、ハルクさんの両親については聞いたことがない。けれどこの様子からすると、もしかしてハルクさんは両親と会いたくても会えない事情があるのかもしれない。
「……そうですね。顔を見るくらいは、しておいてもいいかもしれません」
と、私が言ったところでニーグルさんが戻ってくる。
「すんません、お待たせしました。やっぱり盗賊の姿は見てないそうです。一応村の入口に見張りを立てることになりました」
「そうですか。……何事もなければいいですね」
「はい。まあ、どこにいったかわからない盗賊のことは置いといて、とりあえずお二人、今からうちに来ませんか? 名物をご馳走しますよ」
ニーグルさんがそんな提案をしてくる。
名物。どんなものだろう?
「それは……美味しいものですか?」
「そりゃもう絶品ですよ! 他じゃ味わえないご当地グルメってやつです。実はこの村にそれ目当てで来る旅人もいるくらいで」
そ、そんなものが……ごくり。
私の両親のことも含めて聞きたいこともあることだし……
ちらりとハルクさんを見ると、苦笑交じりの頷きが返ってくる。
「それじゃあ、お邪魔します」
「はい!」
そんなわけで、私たちはニーグルさんの家にお邪魔することになった。
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