上 下
107 / 113
連載

山道で毎回遭遇するジンクス

しおりを挟む
「なんであたしが留守番なんだよ!」

 リーラ大森林への出発前、レベッカが不満そうに言う。

「いやまあ留守番なのは百歩譲っていいにしても……なんでよりによってこの青いのの手伝い!? 冗談じゃねーよ! ねちっこさが伝染うつる!」
「ま、まあまあレベッカ。落ち着いてください」
「言いたい放題だな、お前……」

 ああ、オズワルドさんの額にぴきぴきと青筋が。

「さっき説明しただろう。俺は結界の仕組みを構築することはできるが、結界を発生させる魔道具まで作るのは至難だ。並の魔道具ならともかく、対魔神の結界を生み出す魔道具とくればな。そこでお前の『神造鍛冶師』としての力を使う」
「……『神造鍛冶師』の能力だと、武器や防具しか作れねえぞ」
「武器の形にすればいいだけの話だろう。結界としての機能を持った剣にでもすれば、お前の能力も問題なく使えるはずだ」
「……」
「実際にお前の持つ大剣には魔力を弾く能力が備わっているだろう。その応用だ。できんことはあるまい」

 レベッカの持つ『神造鍛冶師』の力は、宝剣を作る時だけでなく、鍛冶を行う時全般に発動する。

 もちろん宝剣のように特別なものを作ることはできないけれど、優れた武具を作り出すことが可能だ。

 その力は鍛冶という工程さえ挟めば、魔道具作りにも応用できる。

「お前がいるのといないのとでは、試行錯誤のスピードに大きな違いが出る。手を貸せ」
「レベッカ、お願いします」
「……ちっ、しゃーねえなあ。セルビアのためだからな」

 渋っていたレベッカは溜め息とともに首を縦に振ってくれた。

 とてもありがたい。

 オズワルドさんの知識とレベッカの鍛冶の腕。それがあればきっと結界用の魔道具作りはうまくいくことだろう。

「了承するなら最初からそう言え。時間を無駄にした」
「……あん?」
「さっさと作業を始めるぞ」
「あー聞こえねなー。お願いしますレベッカ様って言われねえと何も聞こえねえなー」
「セルビア、言ってやれ」
「え? わ、私ですか? お願いしますレベッカ様……?」
「あっ、てめーセルビアに押し付けてんじゃねえよ!」
「満足したか? いいから来い、赤髪」
「この野郎……そのうちメシに細工でもしてやろうかな」

 オズワルドさんに連れられてレベッカが廃屋の中に入っていく。

 ……大丈夫だろうか? いろいろと。

「あの二人、仲がいいのか悪いのか相変わらずよくわからないね」
「本当ですね……」
「それじゃあ、僕たちも行こうか」
「はい」




 シャンとタックに乗ってリーラ大森林へと向かう。

 王国北東にあるリーラ大森林は、竜の速度なら二、三日で行くことができる。

 今は王都を出て三日目。
 前方にはすでに広い森が見えてきている。
 奥にはうっすらと巨大な木……おそらく聖大樹も見える。

 あれが目的地のリーラ大森林だろう。

「何事もなく着きそうだね」
「そうですね。教皇様の話によれば、近くに村があるそうですが」
「セルビアの故郷の村のことだよね。とりあえず、まずはそこに行ってみようか」
「はい」

 竜の背に乗りながらハルクさんと言葉を交わす。

 このペースでいけば、村には今日中にたどりつけるはずだ。

 ……どんなところだろうか?
 自分の故郷と言われても、いまだにピンと来ない。
 行ってみればなにか思い出すだろうか。

 そんなことを考えていると。

「……?」

 私はふと違和感を覚えた。

 ――ィン……!

 ……なにか聞こえるような?

「ハルクさん、今なにか聞こえませんでした?」
「そう? 僕にはなにも聞こえなかったけど」
「そうですか」

 それじゃあ気のせいだったんだろうか?

 ――ヒィン……!

「……やっぱり聞こえます! なにかの鳴き声みたいなのが!」
「ええ……? 僕にはまったくわからないよ。というか竜に乗っているんだから、そうそう生き物の鳴き声なんて聞こえないんじゃない?」
「それはそうですが……」

 私の言葉に怪訝そうな顔をするハルクさん。けれど私の耳にはしっかり聞こえてくる。

 声が聞こえるのは下の方……眼下に広がる山道からだ。

 ……やっぱり気になる。

「ハルクさん、すみませんが少しだけ降りてみてもいいですか?」
「そんなに気になる?」
「はい」
「わかった。それじゃあ降りてみようか。僕もセルビアがそこまで言うなら気になってきたよ」

 ハルクさんと一緒に高度を落とし、山道に向かう。

 周囲を見回す。
 うーん、さっきの声の主はどこにいるんだろうか?

『ヒヒィイイイイイイイイン!』
「わっ!?」

 茂みからなにか出てきた!

「……う、馬?」

 間違いない。そこにいたのは一頭の馬だった。

「え? セルビア、なにか見えてるの?」
「馬が……あれ? ハルクさんには見えてないんですか?」
「……少なくとも馬は見えないね」

 困惑したように言うハルクさん。

 私に見えてハルクさんには見えてない? それって一体――あっ。

 わかった。

 この馬、幽霊だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。