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山道で毎回遭遇するジンクス
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「なんであたしが留守番なんだよ!」
リーラ大森林への出発前、レベッカが不満そうに言う。
「いやまあ留守番なのは百歩譲っていいにしても……なんでよりによってこの青いのの手伝い!? 冗談じゃねーよ! ねちっこさが伝染る!」
「ま、まあまあレベッカ。落ち着いてください」
「言いたい放題だな、お前……」
ああ、オズワルドさんの額にぴきぴきと青筋が。
「さっき説明しただろう。俺は結界の仕組みを構築することはできるが、結界を発生させる魔道具まで作るのは至難だ。並の魔道具ならともかく、対魔神の結界を生み出す魔道具とくればな。そこでお前の『神造鍛冶師』としての力を使う」
「……『神造鍛冶師』の能力だと、武器や防具しか作れねえぞ」
「武器の形にすればいいだけの話だろう。結界としての機能を持った剣にでもすれば、お前の能力も問題なく使えるはずだ」
「……」
「実際にお前の持つ大剣には魔力を弾く能力が備わっているだろう。その応用だ。できんことはあるまい」
レベッカの持つ『神造鍛冶師』の力は、宝剣を作る時だけでなく、鍛冶を行う時全般に発動する。
もちろん宝剣のように特別なものを作ることはできないけれど、優れた武具を作り出すことが可能だ。
その力は鍛冶という工程さえ挟めば、魔道具作りにも応用できる。
「お前がいるのといないのとでは、試行錯誤のスピードに大きな違いが出る。手を貸せ」
「レベッカ、お願いします」
「……ちっ、しゃーねえなあ。セルビアのためだからな」
渋っていたレベッカは溜め息とともに首を縦に振ってくれた。
とてもありがたい。
オズワルドさんの知識とレベッカの鍛冶の腕。それがあればきっと結界用の魔道具作りはうまくいくことだろう。
「了承するなら最初からそう言え。時間を無駄にした」
「……あん?」
「さっさと作業を始めるぞ」
「あー聞こえねなー。お願いしますレベッカ様って言われねえと何も聞こえねえなー」
「セルビア、言ってやれ」
「え? わ、私ですか? お願いしますレベッカ様……?」
「あっ、てめーセルビアに押し付けてんじゃねえよ!」
「満足したか? いいから来い、赤髪」
「この野郎……そのうちメシに細工でもしてやろうかな」
オズワルドさんに連れられてレベッカが廃屋の中に入っていく。
……大丈夫だろうか? いろいろと。
「あの二人、仲がいいのか悪いのか相変わらずよくわからないね」
「本当ですね……」
「それじゃあ、僕たちも行こうか」
「はい」
シャンとタックに乗ってリーラ大森林へと向かう。
王国北東にあるリーラ大森林は、竜の速度なら二、三日で行くことができる。
今は王都を出て三日目。
前方にはすでに広い森が見えてきている。
奥にはうっすらと巨大な木……おそらく聖大樹も見える。
あれが目的地のリーラ大森林だろう。
「何事もなく着きそうだね」
「そうですね。教皇様の話によれば、近くに村があるそうですが」
「セルビアの故郷の村のことだよね。とりあえず、まずはそこに行ってみようか」
「はい」
竜の背に乗りながらハルクさんと言葉を交わす。
このペースでいけば、村には今日中にたどりつけるはずだ。
……どんなところだろうか?
自分の故郷と言われても、いまだにピンと来ない。
行ってみればなにか思い出すだろうか。
そんなことを考えていると。
「……?」
私はふと違和感を覚えた。
――ィン……!
……なにか聞こえるような?
「ハルクさん、今なにか聞こえませんでした?」
「そう? 僕にはなにも聞こえなかったけど」
「そうですか」
それじゃあ気のせいだったんだろうか?
――ヒィン……!
「……やっぱり聞こえます! なにかの鳴き声みたいなのが!」
「ええ……? 僕にはまったくわからないよ。というか竜に乗っているんだから、そうそう生き物の鳴き声なんて聞こえないんじゃない?」
「それはそうですが……」
私の言葉に怪訝そうな顔をするハルクさん。けれど私の耳にはしっかり聞こえてくる。
声が聞こえるのは下の方……眼下に広がる山道からだ。
……やっぱり気になる。
「ハルクさん、すみませんが少しだけ降りてみてもいいですか?」
「そんなに気になる?」
「はい」
「わかった。それじゃあ降りてみようか。僕もセルビアがそこまで言うなら気になってきたよ」
ハルクさんと一緒に高度を落とし、山道に向かう。
周囲を見回す。
うーん、さっきの声の主はどこにいるんだろうか?
『ヒヒィイイイイイイイイン!』
「わっ!?」
茂みからなにか出てきた!
「……う、馬?」
間違いない。そこにいたのは一頭の馬だった。
「え? セルビア、なにか見えてるの?」
「馬が……あれ? ハルクさんには見えてないんですか?」
「……少なくとも馬は見えないね」
困惑したように言うハルクさん。
私に見えてハルクさんには見えてない? それって一体――あっ。
わかった。
この馬、幽霊だ。
リーラ大森林への出発前、レベッカが不満そうに言う。
「いやまあ留守番なのは百歩譲っていいにしても……なんでよりによってこの青いのの手伝い!? 冗談じゃねーよ! ねちっこさが伝染る!」
「ま、まあまあレベッカ。落ち着いてください」
「言いたい放題だな、お前……」
ああ、オズワルドさんの額にぴきぴきと青筋が。
「さっき説明しただろう。俺は結界の仕組みを構築することはできるが、結界を発生させる魔道具まで作るのは至難だ。並の魔道具ならともかく、対魔神の結界を生み出す魔道具とくればな。そこでお前の『神造鍛冶師』としての力を使う」
「……『神造鍛冶師』の能力だと、武器や防具しか作れねえぞ」
「武器の形にすればいいだけの話だろう。結界としての機能を持った剣にでもすれば、お前の能力も問題なく使えるはずだ」
「……」
「実際にお前の持つ大剣には魔力を弾く能力が備わっているだろう。その応用だ。できんことはあるまい」
レベッカの持つ『神造鍛冶師』の力は、宝剣を作る時だけでなく、鍛冶を行う時全般に発動する。
もちろん宝剣のように特別なものを作ることはできないけれど、優れた武具を作り出すことが可能だ。
その力は鍛冶という工程さえ挟めば、魔道具作りにも応用できる。
「お前がいるのといないのとでは、試行錯誤のスピードに大きな違いが出る。手を貸せ」
「レベッカ、お願いします」
「……ちっ、しゃーねえなあ。セルビアのためだからな」
渋っていたレベッカは溜め息とともに首を縦に振ってくれた。
とてもありがたい。
オズワルドさんの知識とレベッカの鍛冶の腕。それがあればきっと結界用の魔道具作りはうまくいくことだろう。
「了承するなら最初からそう言え。時間を無駄にした」
「……あん?」
「さっさと作業を始めるぞ」
「あー聞こえねなー。お願いしますレベッカ様って言われねえと何も聞こえねえなー」
「セルビア、言ってやれ」
「え? わ、私ですか? お願いしますレベッカ様……?」
「あっ、てめーセルビアに押し付けてんじゃねえよ!」
「満足したか? いいから来い、赤髪」
「この野郎……そのうちメシに細工でもしてやろうかな」
オズワルドさんに連れられてレベッカが廃屋の中に入っていく。
……大丈夫だろうか? いろいろと。
「あの二人、仲がいいのか悪いのか相変わらずよくわからないね」
「本当ですね……」
「それじゃあ、僕たちも行こうか」
「はい」
シャンとタックに乗ってリーラ大森林へと向かう。
王国北東にあるリーラ大森林は、竜の速度なら二、三日で行くことができる。
今は王都を出て三日目。
前方にはすでに広い森が見えてきている。
奥にはうっすらと巨大な木……おそらく聖大樹も見える。
あれが目的地のリーラ大森林だろう。
「何事もなく着きそうだね」
「そうですね。教皇様の話によれば、近くに村があるそうですが」
「セルビアの故郷の村のことだよね。とりあえず、まずはそこに行ってみようか」
「はい」
竜の背に乗りながらハルクさんと言葉を交わす。
このペースでいけば、村には今日中にたどりつけるはずだ。
……どんなところだろうか?
自分の故郷と言われても、いまだにピンと来ない。
行ってみればなにか思い出すだろうか。
そんなことを考えていると。
「……?」
私はふと違和感を覚えた。
――ィン……!
……なにか聞こえるような?
「ハルクさん、今なにか聞こえませんでした?」
「そう? 僕にはなにも聞こえなかったけど」
「そうですか」
それじゃあ気のせいだったんだろうか?
――ヒィン……!
「……やっぱり聞こえます! なにかの鳴き声みたいなのが!」
「ええ……? 僕にはまったくわからないよ。というか竜に乗っているんだから、そうそう生き物の鳴き声なんて聞こえないんじゃない?」
「それはそうですが……」
私の言葉に怪訝そうな顔をするハルクさん。けれど私の耳にはしっかり聞こえてくる。
声が聞こえるのは下の方……眼下に広がる山道からだ。
……やっぱり気になる。
「ハルクさん、すみませんが少しだけ降りてみてもいいですか?」
「そんなに気になる?」
「はい」
「わかった。それじゃあ降りてみようか。僕もセルビアがそこまで言うなら気になってきたよ」
ハルクさんと一緒に高度を落とし、山道に向かう。
周囲を見回す。
うーん、さっきの声の主はどこにいるんだろうか?
『ヒヒィイイイイイイイイン!』
「わっ!?」
茂みからなにか出てきた!
「……う、馬?」
間違いない。そこにいたのは一頭の馬だった。
「え? セルビア、なにか見えてるの?」
「馬が……あれ? ハルクさんには見えてないんですか?」
「……少なくとも馬は見えないね」
困惑したように言うハルクさん。
私に見えてハルクさんには見えてない? それって一体――あっ。
わかった。
この馬、幽霊だ。
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