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相談
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「――ということで、大量の魔力を持つ人を探しているんですが」
『なるほど。確かに結界を作るためには、避けて通れない工程でしょうね』
私たちだけで考えていても名案が浮かばないので、教皇様に相談してみた。
教皇様は少し考えてから、こんなことを言った。
『確認しますが、それは人間でなくてはならないのですか?』
教皇様の言葉にオズワルドさんが否定の仕草をする。
「いや、そんなことはない。例えば魔道具を作るための鉱石などからも魔力を得ることができる。使えないのは魔物の魔力くらいだ。あれは利用するのにロスが大きく実用的ではないからな」
『ふむ。……実は一つだけ、心当たりがあります』
「どのようなものだ?」
オズワルドさんに尋ねられ、教皇様はそれを告げた。
『聖大樹、ですよ。大量の魔力を持ち、魔物とは異なる性質がある。あの特別な木からなら結界を作るに足る魔力を得られるのではありませんか?』
聖大樹。
……その発想はなかった。
確かにベルタさんのような聖大樹は膨大な魔力を持つことで有名だ。
一個人では足りない魔力量を持つもの、という条件にこれほどぴったり当てはまる存在はない。
「言われてみれば、それしかないって感じだね。しかも聖大樹なら……」
「はい。交渉しやすいです」
「セルビアに恩を感じてる、って言ってたもんな」
以前ロニ大森林で会った聖大樹ベルタさんとは友好な関係を築けている。
見ず知らずの相手よりもよっぽど協力してくれそうだ。
「では、ロニ大森林に向かいましょうか」
私が言うと、教皇様は首を傾げた。
『ロニ大森林? そこまで行く必要はないと思いますが』
「え?」
『もっと近くにあるでしょう。というか、セルビアならそちらのほうがなじみがあると思いますが』
「……どういうことですか?」
私が聞くと、教皇様はさらっと教えてくれた。
『リーラ大森林。――教会に来る前にセルビアが暮らしていた村のそばに、聖大樹の森があったはずです。そこならロニ大森林よりも短期間で行き来できるでしょう?』
「――あ」
盲点だった。
そういえば、そもそもベルタさんが私に友好的なのは、そもそも私が別の聖大樹を助けたからだ。その聖大樹は私の生まれ故郷のそばにあるはずで。
どうやらそっちの聖大樹はロニ大森林より近くにあるらしい。
「……もしかしてセルビア、自分の故郷の場所を知らなかったとか?」
「……そうですね。考えたこともありませんでした」
物心ついた頃には教会にいて、両親の顔も覚えていない。しかも祈祷が忙しくてそれを深く考える機会もなかった。
これはいい機会……なんだろうか?
とにかく、近くにあるならそっちに行かない理由はない。
「わかりました。では、リーラ大森林に行きましょう」
『それがいいと思います。それにセルビアにとっては十数年ぶりの里帰りにもなりますからね。改めて自分のルーツを確認するのも悪くないでしょう』
教皇様が頷く。
「僕も構わないよ」
「あたしもいいと思う。そっちの聖大樹の方も、セルビアに会いたがってるんじゃねえか?」
「俺は魔力さえ手に入るならどこでも構わん」
ハルクさんたちの同意も得られたので、私たちの次の目的地はリーラ大森林へと決まるのだった。
……故郷、ですか。
正直あまり実感はないけれど、一体どんな場所なんだろう。
『なるほど。確かに結界を作るためには、避けて通れない工程でしょうね』
私たちだけで考えていても名案が浮かばないので、教皇様に相談してみた。
教皇様は少し考えてから、こんなことを言った。
『確認しますが、それは人間でなくてはならないのですか?』
教皇様の言葉にオズワルドさんが否定の仕草をする。
「いや、そんなことはない。例えば魔道具を作るための鉱石などからも魔力を得ることができる。使えないのは魔物の魔力くらいだ。あれは利用するのにロスが大きく実用的ではないからな」
『ふむ。……実は一つだけ、心当たりがあります』
「どのようなものだ?」
オズワルドさんに尋ねられ、教皇様はそれを告げた。
『聖大樹、ですよ。大量の魔力を持ち、魔物とは異なる性質がある。あの特別な木からなら結界を作るに足る魔力を得られるのではありませんか?』
聖大樹。
……その発想はなかった。
確かにベルタさんのような聖大樹は膨大な魔力を持つことで有名だ。
一個人では足りない魔力量を持つもの、という条件にこれほどぴったり当てはまる存在はない。
「言われてみれば、それしかないって感じだね。しかも聖大樹なら……」
「はい。交渉しやすいです」
「セルビアに恩を感じてる、って言ってたもんな」
以前ロニ大森林で会った聖大樹ベルタさんとは友好な関係を築けている。
見ず知らずの相手よりもよっぽど協力してくれそうだ。
「では、ロニ大森林に向かいましょうか」
私が言うと、教皇様は首を傾げた。
『ロニ大森林? そこまで行く必要はないと思いますが』
「え?」
『もっと近くにあるでしょう。というか、セルビアならそちらのほうがなじみがあると思いますが』
「……どういうことですか?」
私が聞くと、教皇様はさらっと教えてくれた。
『リーラ大森林。――教会に来る前にセルビアが暮らしていた村のそばに、聖大樹の森があったはずです。そこならロニ大森林よりも短期間で行き来できるでしょう?』
「――あ」
盲点だった。
そういえば、そもそもベルタさんが私に友好的なのは、そもそも私が別の聖大樹を助けたからだ。その聖大樹は私の生まれ故郷のそばにあるはずで。
どうやらそっちの聖大樹はロニ大森林より近くにあるらしい。
「……もしかしてセルビア、自分の故郷の場所を知らなかったとか?」
「……そうですね。考えたこともありませんでした」
物心ついた頃には教会にいて、両親の顔も覚えていない。しかも祈祷が忙しくてそれを深く考える機会もなかった。
これはいい機会……なんだろうか?
とにかく、近くにあるならそっちに行かない理由はない。
「わかりました。では、リーラ大森林に行きましょう」
『それがいいと思います。それにセルビアにとっては十数年ぶりの里帰りにもなりますからね。改めて自分のルーツを確認するのも悪くないでしょう』
教皇様が頷く。
「僕も構わないよ」
「あたしもいいと思う。そっちの聖大樹の方も、セルビアに会いたがってるんじゃねえか?」
「俺は魔力さえ手に入るならどこでも構わん」
ハルクさんたちの同意も得られたので、私たちの次の目的地はリーラ大森林へと決まるのだった。
……故郷、ですか。
正直あまり実感はないけれど、一体どんな場所なんだろう。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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