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例の廃屋
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キマイラを倒したあと、私たちは廃屋の中に入った。
中は相変わらず埃っぽく、かび臭い。
「老朽化が酷い……が、使えないほどでもないか」
「なーんかじめっとしてんなあ。窓開けようぜ窓」
レベッカが窓を開けて換気すると、多少は淀んだ雰囲気がましになった……気がする。
一通り見て回ったところ、きちんと掃除すれば使えそうだという結論になった。
「んで、ここって勝手に使っていいのか?」
「ここに来る前に国王陛下に確認を取ったよ。好きにしろ、ってさ」
レベッカの質問にハルクさんが答える。
まあ、元々持ち主不在の建物なわけだし、私たちが使っても困る人なんていないだろう。
ハルクさんはあらかじめ持ってきていたほうきやはたきを荷物の中から取り出した。
「とにかく掃除しようか。このままだとさすがに過ごしにくいからね」
「そうですね」
「やるかー」
「そちらは任せる。俺は魔物が寄ってこないよう、簡易的なものではあるが結界を作る」
というわけで、私たちは分担して廃屋の整備を始めるのだった。
速い時間に作業を始めたおかげで、日暮れ前にはある程度終えることができた。
「かなり綺麗になりましたね!」
ほうきを壁際に置き私は言った。最初に比べれば埃っぽさやカビの臭いがかなり軽減されたと思う。
「そうだね。……あ、セルビア動かないで。頭に埃ついてる」
「え? どこですか?」
「ここ」
ひょい、とハルクさんが私の髪に引っかかっていた綿のような埃を取ってしまう。
「……いつからこんなものが」
「さあ。っていうかよく気づかなかったね」
「掃除に夢中になっていたもので……」
そんなことを話しながら一階の食堂までやってくる。
と、その中からレベッカの声が聞こえてきた。
「ん? なあ、これが結界を張る魔道具か?」
レベッカが見ているのは、食堂のど真ん中に鎮座する水晶玉のような魔道具だった。
それを設置したらしいオズワルドさんが頷く。
「そうだな」
「これで魔物が来なくなるのか?」
「大雑把に言えばそうなる。これには『認識阻害』の効果を付与している。この建物に注意を向けられにくくなる、というものだ。これがあれば魔物だけでなく、近くを通りかかった行商や根城を探す夜盗なども寄ってこなくなるだろう」
私とハルクさんも二人に近づいていく。
「結界も完成したんだね、オズワルド」
「さほど効果の強いものではないがな。だが、そのおかげでメリットもある」
「効果が弱いことのメリット?」
「『認識阻害』の効果が強すぎれば我々もこの廃屋を探すのが難しくなる。が、効果が不完全なおかげで、あらかじめこの廃屋の存在を知っている人間には効果が薄い」
つまり私たちは一度この廃屋を出ても、次に来た時に『認識阻害』の効果に惑わされず戻ってこられるということだ。
確かにそれはメリットと言えるかもしれない。
「では、ひとまずオズワルドさんが実験を行える環境が整ったということですね」
私が言うと、オズワルドさんは首を横に振る。
「実験のための設備が整っていない。それに加えて、どのような設備が必要になるかもまだわからん。魔神の妖気の分析も済んでいないからな」
「あ……そうですね」
魔神の影響を抑える結界。
それがどんな仕組みになるのか、そもそも作ることは可能なのか――そういった根本的なことすら、まだ決まっていないのだ。
まだまだ踏むべき工程は多い。
「けど、そうなるとしばらく僕たちは手が空くことになるね」
「いや、お前たちにはやってもらうことがある」
「なんだい?」
ハルクさんの言葉にオズワルドさんは言った。
「結界がどのような仕組みになるにしろ、必ず大量の魔力が必要になる。伝承によれば、魔神は大地を覆うほどの『泥』を生み出すほど強大なんだろう? それを抑え込むとなると、もはや人間では賄えないほどの魔力が必要になるはずだ」
「人間では賄えないほどの魔力、か……」
「そうだ。例えばセルビアも人外と言っていい魔力を持っているが、所詮は一個人。それではまるで足りない」
大量の魔力を集める。
その言葉に私は聞き覚えがある。
以前『堕ちた聖女』シャノンがそんなことを言っていた。彼女の目的は過去の偉人をよみがえらせて戦力を得るためだった。私たちの場合はまったく目的は違うけど……
「……それはシャノンのように、他人の魂ごと魔力を引きはがすという意味ですか?」
そうだとするなら、とても頷けない。
しかしオズワルドさんは首を横に振った。
「あれは他者の同意なしに魔力を奪い取るための手段だ。そんなことをしろとは言わない」
「相手の同意があれば、相手を傷つけずに魔力を受け取れるということですか?」
「ああ。そのための魔道具もこちらで用意しよう」
「よかったです。そういうことなら、やります」
人を傷つけなくて済むなら問題ない。
「にしても、セルビア以上の魔力ねえ……」
「地道に集めるとなると、かなりの人数から協力を得る必要があるね。かといって、あまり派手に動けば僕たちの動きが教皇様の対立派閥に気づかれやすくなる」
「ああ。理想を言えば、大量の魔力を持つ何かから効率的に協力を取り付けたい」
レベッカ、ハルクさん、オズワルドさんがそんなやり取りをする。
大量の魔力を持つ何か。
そんな相手、いるだろうか?
中は相変わらず埃っぽく、かび臭い。
「老朽化が酷い……が、使えないほどでもないか」
「なーんかじめっとしてんなあ。窓開けようぜ窓」
レベッカが窓を開けて換気すると、多少は淀んだ雰囲気がましになった……気がする。
一通り見て回ったところ、きちんと掃除すれば使えそうだという結論になった。
「んで、ここって勝手に使っていいのか?」
「ここに来る前に国王陛下に確認を取ったよ。好きにしろ、ってさ」
レベッカの質問にハルクさんが答える。
まあ、元々持ち主不在の建物なわけだし、私たちが使っても困る人なんていないだろう。
ハルクさんはあらかじめ持ってきていたほうきやはたきを荷物の中から取り出した。
「とにかく掃除しようか。このままだとさすがに過ごしにくいからね」
「そうですね」
「やるかー」
「そちらは任せる。俺は魔物が寄ってこないよう、簡易的なものではあるが結界を作る」
というわけで、私たちは分担して廃屋の整備を始めるのだった。
速い時間に作業を始めたおかげで、日暮れ前にはある程度終えることができた。
「かなり綺麗になりましたね!」
ほうきを壁際に置き私は言った。最初に比べれば埃っぽさやカビの臭いがかなり軽減されたと思う。
「そうだね。……あ、セルビア動かないで。頭に埃ついてる」
「え? どこですか?」
「ここ」
ひょい、とハルクさんが私の髪に引っかかっていた綿のような埃を取ってしまう。
「……いつからこんなものが」
「さあ。っていうかよく気づかなかったね」
「掃除に夢中になっていたもので……」
そんなことを話しながら一階の食堂までやってくる。
と、その中からレベッカの声が聞こえてきた。
「ん? なあ、これが結界を張る魔道具か?」
レベッカが見ているのは、食堂のど真ん中に鎮座する水晶玉のような魔道具だった。
それを設置したらしいオズワルドさんが頷く。
「そうだな」
「これで魔物が来なくなるのか?」
「大雑把に言えばそうなる。これには『認識阻害』の効果を付与している。この建物に注意を向けられにくくなる、というものだ。これがあれば魔物だけでなく、近くを通りかかった行商や根城を探す夜盗なども寄ってこなくなるだろう」
私とハルクさんも二人に近づいていく。
「結界も完成したんだね、オズワルド」
「さほど効果の強いものではないがな。だが、そのおかげでメリットもある」
「効果が弱いことのメリット?」
「『認識阻害』の効果が強すぎれば我々もこの廃屋を探すのが難しくなる。が、効果が不完全なおかげで、あらかじめこの廃屋の存在を知っている人間には効果が薄い」
つまり私たちは一度この廃屋を出ても、次に来た時に『認識阻害』の効果に惑わされず戻ってこられるということだ。
確かにそれはメリットと言えるかもしれない。
「では、ひとまずオズワルドさんが実験を行える環境が整ったということですね」
私が言うと、オズワルドさんは首を横に振る。
「実験のための設備が整っていない。それに加えて、どのような設備が必要になるかもまだわからん。魔神の妖気の分析も済んでいないからな」
「あ……そうですね」
魔神の影響を抑える結界。
それがどんな仕組みになるのか、そもそも作ることは可能なのか――そういった根本的なことすら、まだ決まっていないのだ。
まだまだ踏むべき工程は多い。
「けど、そうなるとしばらく僕たちは手が空くことになるね」
「いや、お前たちにはやってもらうことがある」
「なんだい?」
ハルクさんの言葉にオズワルドさんは言った。
「結界がどのような仕組みになるにしろ、必ず大量の魔力が必要になる。伝承によれば、魔神は大地を覆うほどの『泥』を生み出すほど強大なんだろう? それを抑え込むとなると、もはや人間では賄えないほどの魔力が必要になるはずだ」
「人間では賄えないほどの魔力、か……」
「そうだ。例えばセルビアも人外と言っていい魔力を持っているが、所詮は一個人。それではまるで足りない」
大量の魔力を集める。
その言葉に私は聞き覚えがある。
以前『堕ちた聖女』シャノンがそんなことを言っていた。彼女の目的は過去の偉人をよみがえらせて戦力を得るためだった。私たちの場合はまったく目的は違うけど……
「……それはシャノンのように、他人の魂ごと魔力を引きはがすという意味ですか?」
そうだとするなら、とても頷けない。
しかしオズワルドさんは首を横に振った。
「あれは他者の同意なしに魔力を奪い取るための手段だ。そんなことをしろとは言わない」
「相手の同意があれば、相手を傷つけずに魔力を受け取れるということですか?」
「ああ。そのための魔道具もこちらで用意しよう」
「よかったです。そういうことなら、やります」
人を傷つけなくて済むなら問題ない。
「にしても、セルビア以上の魔力ねえ……」
「地道に集めるとなると、かなりの人数から協力を得る必要があるね。かといって、あまり派手に動けば僕たちの動きが教皇様の対立派閥に気づかれやすくなる」
「ああ。理想を言えば、大量の魔力を持つ何かから効率的に協力を取り付けたい」
レベッカ、ハルクさん、オズワルドさんがそんなやり取りをする。
大量の魔力を持つ何か。
そんな相手、いるだろうか?
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