泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

文字の大きさ
上 下
100 / 113
連載

聖女候補モニカ

しおりを挟む
 宿屋を出発し、教会に向かう。

「今から行く場所が、ずっとセルビアのいた教会なんだよな?」
「そうですね。……正直あまりいい思い出はないんですが」

 レベッカの言葉に私は視線を落とす。今はもう縁が切れているけど、教会に対する感情はあまりいいものじゃない。
 一番私を目の敵にしていた聖女候補のリリアナはもういないけれど、他の聖女候補たちはまだいることだろうし。

「そんな落ち込むなよ。何か嫌なこと言ってくるやつがいたらあたしがガツンと言ってやるから」
「……はい、ありがとうございます」

 任せておけと胸を張るレベッカが頼もしい。

 うん、気分が楽になってきた。
 そんなやり取りをしながら王都を移動していると――

「「「お待ちくださいモニカ様あああああああああ!」」」
「やだねー! 捕まえられるもんなら捕まえてみなよ! まあ私の逃げ足にかなうとは思えないけどね!」

 ……なんかものすごい光景が目に入った。

 数人の修道士に追われて、白い修道服を着た少女がこっちに走ってくる。

「……ねえセルビア。あの修道服って前にセルビアが来てたやつと同じだよね?」
「そうですね……聖女候補の服装です」

 ハルクさんの疑問に頷きを返す。あれは間違いなく聖女候補専用の修道服だ。

「もう逃がしませんよ、モニカ様!」
「くっ……なかなかやるね。でも捕まるわけにいかないんだ……!」

 追いつかれそうになった白い修道服の少女は、私と目が合うとこっちに突っ込んできた。

「こうなったら――通行人のお姉さんシールド!」
「わあっ!?」

 勢いよく私の陰に隠れる白い修道服の少女。
 まさか巻き込まれるとは思わなかった。

「モニカ様! 脱走に続いて無関係の方を巻き込むとはさすがに――セルビア様!? セルビア様ではありませんか!」
「ど、どうも」

 修道士が目を丸くする。この街の修道士は、私の聖女候補歴が長いこともあってほとんどが知り合いなのだ。

「え? 何? このお姉さん教会の関係者?」

 私の後ろに隠れている少女が驚いたように言う。

 首を傾けて改めてその子を見る。

 やや短めの茶髪が特徴的な、見た目十二歳くらいの女の子だ。目は大きくて活発そうな印象がある。
 聖女候補の修道服を着ているけど、私は見覚えがない。

 ということは私が王都を出た後に新しくやってきた聖女候補だろうか?

 とりあえず修道士たちに聞いてみよう。

「これはどういう状況ですか?」
「は、はい。実はそちらの聖女候補モニカ様が教会を逃げ出してしまい、慌てて私どもで追いかけていたところなのです」
「教会から逃げ出した、ですか……」

 教会の中で聖女候補の活動はかなり制限されている。

 厳しい祈祷から逃れようと、脱走を試みる聖女候補が後を絶たなかったからだ。

 たまに回復魔術の力を望まれて聖女候補が教会を出ることもあるけど、その時は聖女候補一人につき十人以上の監視役……もとい護衛がつくほどだ。

 そんな中でこのモニカというらしい茶髪の聖女候補は脱走を成功させた。
 失敗すれば重い罰が課されるにもかかわらず。
 相当な覚悟がなければできないことだ。

「ねえお姉さん! 教会の関係者ならわかるでしょ!? 私がなんで教会を逃げ出したのか!」
「それは……」
「私の味方をしてくれるよね? ねっ?」

 茶髪の聖女候補、モニカはうるうると私を見上げて言ってくる。

 その気持ちは痛いほどわかる。
 祈祷の苦痛は想像を絶するほどだ。まだ聖女候補となって日が浅い彼女はその役目に耐えかねて――

「あんなにおいしそうなお供え物がたくさん置いてあったら、一つぐらいつまみ食いしてもバレないって思うよね!?」
「待ってください。今なにか妙なことを言いませんでしたか?」
「聖女候補になった途端に肉は駄目だお菓子は駄目だって……そんなのおかしいよ!」

 憤慨しながらそんなことを言うモニカ。
 なんだろう。私の予想と大きく違う現実がある気がしてならない。

「……モニカ様は、その、たいへん食欲旺盛でして……信者の方からのお供えものを勝手に……」
「祈祷が嫌で逃げ出したのではないんですか?」
「いえ、違いますね」

 なるほど。

「ではこの子は返却しますね」
「えええ!? 何で!?」
「感謝いたします、セルビア様」

 私は後ろに隠れていたモニカを修道士に引き渡した。

 聖女候補の務めに苦しむ聖女候補の気持ちはわかるし、何か手助けしたいという気持ちはあるけど、そういう理由なら話は別だ。つまみ食いはよくない。

「さあ戻りますよモニカ様。だいたい肉ならたまに食事で出るでしょうに」
「いやだ! あたしはもっと肉が食べたいの! 街の外に出て野生の動物を狩るのー!」
「どれだけ食べ足りないんですか!? ああもう、暴れないでください!」

 そのままモニカは修道士たちに担がれて去っていった。

 あんな扱いをされる聖女候補を私は生まれて初めて見たかもしれない。

「……聖女候補にも色々いるんだね」
「普通はああはならないと思うんですが……」

 ハルクさんの感心したような言葉に、私は困惑しながらそう返事をするしかなかった。
しおりを挟む
感想 649

あなたにおすすめの小説

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。