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聖女候補モニカ
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宿屋を出発し、教会に向かう。
「今から行く場所が、ずっとセルビアのいた教会なんだよな?」
「そうですね。……正直あまりいい思い出はないんですが」
レベッカの言葉に私は視線を落とす。今はもう縁が切れているけど、教会に対する感情はあまりいいものじゃない。
一番私を目の敵にしていた聖女候補のリリアナはもういないけれど、他の聖女候補たちはまだいることだろうし。
「そんな落ち込むなよ。何か嫌なこと言ってくるやつがいたらあたしがガツンと言ってやるから」
「……はい、ありがとうございます」
任せておけと胸を張るレベッカが頼もしい。
うん、気分が楽になってきた。
そんなやり取りをしながら王都を移動していると――
「「「お待ちくださいモニカ様あああああああああ!」」」
「やだねー! 捕まえられるもんなら捕まえてみなよ! まあ私の逃げ足にかなうとは思えないけどね!」
……なんかものすごい光景が目に入った。
数人の修道士に追われて、白い修道服を着た少女がこっちに走ってくる。
「……ねえセルビア。あの修道服って前にセルビアが来てたやつと同じだよね?」
「そうですね……聖女候補の服装です」
ハルクさんの疑問に頷きを返す。あれは間違いなく聖女候補専用の修道服だ。
「もう逃がしませんよ、モニカ様!」
「くっ……なかなかやるね。でも捕まるわけにいかないんだ……!」
追いつかれそうになった白い修道服の少女は、私と目が合うとこっちに突っ込んできた。
「こうなったら――通行人のお姉さんシールド!」
「わあっ!?」
勢いよく私の陰に隠れる白い修道服の少女。
まさか巻き込まれるとは思わなかった。
「モニカ様! 脱走に続いて無関係の方を巻き込むとはさすがに――セルビア様!? セルビア様ではありませんか!」
「ど、どうも」
修道士が目を丸くする。この街の修道士は、私の聖女候補歴が長いこともあってほとんどが知り合いなのだ。
「え? 何? このお姉さん教会の関係者?」
私の後ろに隠れている少女が驚いたように言う。
首を傾けて改めてその子を見る。
やや短めの茶髪が特徴的な、見た目十二歳くらいの女の子だ。目は大きくて活発そうな印象がある。
聖女候補の修道服を着ているけど、私は見覚えがない。
ということは私が王都を出た後に新しくやってきた聖女候補だろうか?
とりあえず修道士たちに聞いてみよう。
「これはどういう状況ですか?」
「は、はい。実はそちらの聖女候補モニカ様が教会を逃げ出してしまい、慌てて私どもで追いかけていたところなのです」
「教会から逃げ出した、ですか……」
教会の中で聖女候補の活動はかなり制限されている。
厳しい祈祷から逃れようと、脱走を試みる聖女候補が後を絶たなかったからだ。
たまに回復魔術の力を望まれて聖女候補が教会を出ることもあるけど、その時は聖女候補一人につき十人以上の監視役……もとい護衛がつくほどだ。
そんな中でこのモニカというらしい茶髪の聖女候補は脱走を成功させた。
失敗すれば重い罰が課されるにもかかわらず。
相当な覚悟がなければできないことだ。
「ねえお姉さん! 教会の関係者ならわかるでしょ!? 私がなんで教会を逃げ出したのか!」
「それは……」
「私の味方をしてくれるよね? ねっ?」
茶髪の聖女候補、モニカはうるうると私を見上げて言ってくる。
その気持ちは痛いほどわかる。
祈祷の苦痛は想像を絶するほどだ。まだ聖女候補となって日が浅い彼女はその役目に耐えかねて――
「あんなにおいしそうなお供え物がたくさん置いてあったら、一つぐらいつまみ食いしてもバレないって思うよね!?」
「待ってください。今なにか妙なことを言いませんでしたか?」
「聖女候補になった途端に肉は駄目だお菓子は駄目だって……そんなのおかしいよ!」
憤慨しながらそんなことを言うモニカ。
なんだろう。私の予想と大きく違う現実がある気がしてならない。
「……モニカ様は、その、たいへん食欲旺盛でして……信者の方からのお供えものを勝手に……」
「祈祷が嫌で逃げ出したのではないんですか?」
「いえ、違いますね」
なるほど。
「ではこの子は返却しますね」
「えええ!? 何で!?」
「感謝いたします、セルビア様」
私は後ろに隠れていたモニカを修道士に引き渡した。
聖女候補の務めに苦しむ聖女候補の気持ちはわかるし、何か手助けしたいという気持ちはあるけど、そういう理由なら話は別だ。つまみ食いはよくない。
「さあ戻りますよモニカ様。だいたい肉ならたまに食事で出るでしょうに」
「いやだ! あたしはもっと肉が食べたいの! 街の外に出て野生の動物を狩るのー!」
「どれだけ食べ足りないんですか!? ああもう、暴れないでください!」
そのままモニカは修道士たちに担がれて去っていった。
あんな扱いをされる聖女候補を私は生まれて初めて見たかもしれない。
「……聖女候補にも色々いるんだね」
「普通はああはならないと思うんですが……」
ハルクさんの感心したような言葉に、私は困惑しながらそう返事をするしかなかった。
「今から行く場所が、ずっとセルビアのいた教会なんだよな?」
「そうですね。……正直あまりいい思い出はないんですが」
レベッカの言葉に私は視線を落とす。今はもう縁が切れているけど、教会に対する感情はあまりいいものじゃない。
一番私を目の敵にしていた聖女候補のリリアナはもういないけれど、他の聖女候補たちはまだいることだろうし。
「そんな落ち込むなよ。何か嫌なこと言ってくるやつがいたらあたしがガツンと言ってやるから」
「……はい、ありがとうございます」
任せておけと胸を張るレベッカが頼もしい。
うん、気分が楽になってきた。
そんなやり取りをしながら王都を移動していると――
「「「お待ちくださいモニカ様あああああああああ!」」」
「やだねー! 捕まえられるもんなら捕まえてみなよ! まあ私の逃げ足にかなうとは思えないけどね!」
……なんかものすごい光景が目に入った。
数人の修道士に追われて、白い修道服を着た少女がこっちに走ってくる。
「……ねえセルビア。あの修道服って前にセルビアが来てたやつと同じだよね?」
「そうですね……聖女候補の服装です」
ハルクさんの疑問に頷きを返す。あれは間違いなく聖女候補専用の修道服だ。
「もう逃がしませんよ、モニカ様!」
「くっ……なかなかやるね。でも捕まるわけにいかないんだ……!」
追いつかれそうになった白い修道服の少女は、私と目が合うとこっちに突っ込んできた。
「こうなったら――通行人のお姉さんシールド!」
「わあっ!?」
勢いよく私の陰に隠れる白い修道服の少女。
まさか巻き込まれるとは思わなかった。
「モニカ様! 脱走に続いて無関係の方を巻き込むとはさすがに――セルビア様!? セルビア様ではありませんか!」
「ど、どうも」
修道士が目を丸くする。この街の修道士は、私の聖女候補歴が長いこともあってほとんどが知り合いなのだ。
「え? 何? このお姉さん教会の関係者?」
私の後ろに隠れている少女が驚いたように言う。
首を傾けて改めてその子を見る。
やや短めの茶髪が特徴的な、見た目十二歳くらいの女の子だ。目は大きくて活発そうな印象がある。
聖女候補の修道服を着ているけど、私は見覚えがない。
ということは私が王都を出た後に新しくやってきた聖女候補だろうか?
とりあえず修道士たちに聞いてみよう。
「これはどういう状況ですか?」
「は、はい。実はそちらの聖女候補モニカ様が教会を逃げ出してしまい、慌てて私どもで追いかけていたところなのです」
「教会から逃げ出した、ですか……」
教会の中で聖女候補の活動はかなり制限されている。
厳しい祈祷から逃れようと、脱走を試みる聖女候補が後を絶たなかったからだ。
たまに回復魔術の力を望まれて聖女候補が教会を出ることもあるけど、その時は聖女候補一人につき十人以上の監視役……もとい護衛がつくほどだ。
そんな中でこのモニカというらしい茶髪の聖女候補は脱走を成功させた。
失敗すれば重い罰が課されるにもかかわらず。
相当な覚悟がなければできないことだ。
「ねえお姉さん! 教会の関係者ならわかるでしょ!? 私がなんで教会を逃げ出したのか!」
「それは……」
「私の味方をしてくれるよね? ねっ?」
茶髪の聖女候補、モニカはうるうると私を見上げて言ってくる。
その気持ちは痛いほどわかる。
祈祷の苦痛は想像を絶するほどだ。まだ聖女候補となって日が浅い彼女はその役目に耐えかねて――
「あんなにおいしそうなお供え物がたくさん置いてあったら、一つぐらいつまみ食いしてもバレないって思うよね!?」
「待ってください。今なにか妙なことを言いませんでしたか?」
「聖女候補になった途端に肉は駄目だお菓子は駄目だって……そんなのおかしいよ!」
憤慨しながらそんなことを言うモニカ。
なんだろう。私の予想と大きく違う現実がある気がしてならない。
「……モニカ様は、その、たいへん食欲旺盛でして……信者の方からのお供えものを勝手に……」
「祈祷が嫌で逃げ出したのではないんですか?」
「いえ、違いますね」
なるほど。
「ではこの子は返却しますね」
「えええ!? 何で!?」
「感謝いたします、セルビア様」
私は後ろに隠れていたモニカを修道士に引き渡した。
聖女候補の務めに苦しむ聖女候補の気持ちはわかるし、何か手助けしたいという気持ちはあるけど、そういう理由なら話は別だ。つまみ食いはよくない。
「さあ戻りますよモニカ様。だいたい肉ならたまに食事で出るでしょうに」
「いやだ! あたしはもっと肉が食べたいの! 街の外に出て野生の動物を狩るのー!」
「どれだけ食べ足りないんですか!? ああもう、暴れないでください!」
そのままモニカは修道士たちに担がれて去っていった。
あんな扱いをされる聖女候補を私は生まれて初めて見たかもしれない。
「……聖女候補にも色々いるんだね」
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