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『剣神』VS風竜
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「――ふっ!」
『ギャッ!?』
『ジャアッ!?』
『剣神』ハルクが腕を振るうたび、風竜たちが翼や胴を斬られて落ちていく。
敵が真っ二つになっていないのはわざとだ。
『『『……ッ』』』
大怪我を負わされて落ちた風竜は、地面の上で裂傷と落下の痛みで絶叫を上げる。それを聞いた風竜は依然として戦意を保っているものの、やや怯んでいた。
『シャアッ!』
「……っ、さすがに全部一人で対処するのは無理か」
ハルクの脇を抜けて数匹の風竜が火竜の棲み処である窪地に向かっていく。
そちらにはセルビアの障壁に加えてレベッカとオズワルドもいる。
地上組の二人に任せるしかないだろう。
……と。
『なぜ人間が出張ってくる』
一際大きな体格の風竜――火竜の長が“統率者”だと言っていた個体がハルクに話しかけてきた。
「……驚いた。きみも人間の言葉を扱えるのか」
『“きみも”……? ふん、火竜の長も同じということか。だが、そんなことはどうでもいい。どけ、人間。我らはこの地を奪わねばならん』
「どうしてだい? 差し支えなければ教えてほしい。僕も別に好きできみたちを斬っているわけじゃないから、平和に済ませられるならそのほうが助かるんだけど」
『そうはいかん。先代が――父に命まで使わせた以上、我らは必ず生き残らねばならんのだ!』
固い決意を込めた声に、ハルクは困惑する。
この竜はきわめて理性的だ。なら、火竜と対立するリスクも理解しているはず。実際に群れの長を一度失っているのだから。
にも関わらず戦いをやめようとしないのはなぜか。
ハルクはそれを知るべきだと感じた。
『同胞よ、風を起こせ! 邪魔な人間を叩き落してやれ!』
『『『シャアアアアアアアアアアアアア!』』』
風竜の長の声に従い風竜たちが咆哮を上げる。
暴風を起こしてタックごとハルクを叩き落すつもりだ。
まずい、と思った。
数十の風竜が一斉に力を使えばそれはもはや凶悪な災害だ。いくらハルクでもそれを正面から防ぐのは骨が折れる。
まして後方にはドラゴンゾンビと戦うセルビアがいるのだ。
となればハルクのとる行動は一つ。
「タック、突っ込むよ」
『ギャウ!?』
「いや、正気か!? みたいな顔をしない。正気だよ。ほら早く」
『ギャ、ギャウ……』
タックは悲しそうな顔をしてからハルクの指示通りに風竜の群れへと突撃した。
『血迷ったか、人間! 撃――』
風竜の長が指揮下の風竜たちに指示をしようとした途端。
ハルクがタックの背を蹴って飛んだ。
『……は?』
飛び移る先は群れの風竜の一匹。
単身風竜の群れの中に飛び込んだハルクは、まるで海に浮かぶ船にそうするように風竜の背を飛んで渡る。あまりの速度に風竜は驚くことしかできない。
やがてハルクは群れの中央にいる風竜の長の背へと到達した。
『グッ……貴様』
「はい、そこまで。群れに動かないよう指示を出してもらえる?」
ハルクは剣を背中から風竜の長の首元に添えた。
ハルクが腕を引けば、風竜の長の首はあっさり落ちるだろう。
『何を考えている……!? 敵の群れに飛び込むなど正気の沙汰ではないだろう!』
「そう? むしろ安全だと思うよ。きみたちの風はそこまで正確に敵を狙えないでしょ? なら、味方のいる場所は狙えないはずだ」
『だとしても、翼のない身で空に飛び出すのは常軌を逸している!』
「これだけ足場があれば問題ないよ」
ハルクがこともなげに言うと、風竜の長は悔しそうに唸った。
『化け物め……』
「……竜にまでそう言われるとは思わなかった」
ハルクは複雑そうな顔で呟いてから、こう続けた。
「それより、どうするんだい? 先に言っておくけど、統率者のきみを失った風竜の群れが火竜に勝つことはないと思うよ」
『……』
風竜の長にもそれはわかっていた。
火竜は強い。
風竜はすでに先代の主を失っており、群れを操れるのは新たな長である自分だけ。自分まで命を落とせば、今度こそ風竜は烏合の衆に成り下がる。
『まだ終わりではない』
「……本気で言ってるのかい?」
『本気だ! まだ我らには先代が残っている! 死後もまだ我らのために戦ってくれる気高き竜が! 彼がいる限り貴様も、火竜どもも蹴散らしてくれるだろう!』
風竜の長が前方を見る。
そこには変わり果てた先代の長、ドラゴンゾンビがいる。
が、彼の目がとらえたのは別のものだった。
『……何だ、あの光は』
『ギャッ!?』
『ジャアッ!?』
『剣神』ハルクが腕を振るうたび、風竜たちが翼や胴を斬られて落ちていく。
敵が真っ二つになっていないのはわざとだ。
『『『……ッ』』』
大怪我を負わされて落ちた風竜は、地面の上で裂傷と落下の痛みで絶叫を上げる。それを聞いた風竜は依然として戦意を保っているものの、やや怯んでいた。
『シャアッ!』
「……っ、さすがに全部一人で対処するのは無理か」
ハルクの脇を抜けて数匹の風竜が火竜の棲み処である窪地に向かっていく。
そちらにはセルビアの障壁に加えてレベッカとオズワルドもいる。
地上組の二人に任せるしかないだろう。
……と。
『なぜ人間が出張ってくる』
一際大きな体格の風竜――火竜の長が“統率者”だと言っていた個体がハルクに話しかけてきた。
「……驚いた。きみも人間の言葉を扱えるのか」
『“きみも”……? ふん、火竜の長も同じということか。だが、そんなことはどうでもいい。どけ、人間。我らはこの地を奪わねばならん』
「どうしてだい? 差し支えなければ教えてほしい。僕も別に好きできみたちを斬っているわけじゃないから、平和に済ませられるならそのほうが助かるんだけど」
『そうはいかん。先代が――父に命まで使わせた以上、我らは必ず生き残らねばならんのだ!』
固い決意を込めた声に、ハルクは困惑する。
この竜はきわめて理性的だ。なら、火竜と対立するリスクも理解しているはず。実際に群れの長を一度失っているのだから。
にも関わらず戦いをやめようとしないのはなぜか。
ハルクはそれを知るべきだと感じた。
『同胞よ、風を起こせ! 邪魔な人間を叩き落してやれ!』
『『『シャアアアアアアアアアアアアア!』』』
風竜の長の声に従い風竜たちが咆哮を上げる。
暴風を起こしてタックごとハルクを叩き落すつもりだ。
まずい、と思った。
数十の風竜が一斉に力を使えばそれはもはや凶悪な災害だ。いくらハルクでもそれを正面から防ぐのは骨が折れる。
まして後方にはドラゴンゾンビと戦うセルビアがいるのだ。
となればハルクのとる行動は一つ。
「タック、突っ込むよ」
『ギャウ!?』
「いや、正気か!? みたいな顔をしない。正気だよ。ほら早く」
『ギャ、ギャウ……』
タックは悲しそうな顔をしてからハルクの指示通りに風竜の群れへと突撃した。
『血迷ったか、人間! 撃――』
風竜の長が指揮下の風竜たちに指示をしようとした途端。
ハルクがタックの背を蹴って飛んだ。
『……は?』
飛び移る先は群れの風竜の一匹。
単身風竜の群れの中に飛び込んだハルクは、まるで海に浮かぶ船にそうするように風竜の背を飛んで渡る。あまりの速度に風竜は驚くことしかできない。
やがてハルクは群れの中央にいる風竜の長の背へと到達した。
『グッ……貴様』
「はい、そこまで。群れに動かないよう指示を出してもらえる?」
ハルクは剣を背中から風竜の長の首元に添えた。
ハルクが腕を引けば、風竜の長の首はあっさり落ちるだろう。
『何を考えている……!? 敵の群れに飛び込むなど正気の沙汰ではないだろう!』
「そう? むしろ安全だと思うよ。きみたちの風はそこまで正確に敵を狙えないでしょ? なら、味方のいる場所は狙えないはずだ」
『だとしても、翼のない身で空に飛び出すのは常軌を逸している!』
「これだけ足場があれば問題ないよ」
ハルクがこともなげに言うと、風竜の長は悔しそうに唸った。
『化け物め……』
「……竜にまでそう言われるとは思わなかった」
ハルクは複雑そうな顔で呟いてから、こう続けた。
「それより、どうするんだい? 先に言っておくけど、統率者のきみを失った風竜の群れが火竜に勝つことはないと思うよ」
『……』
風竜の長にもそれはわかっていた。
火竜は強い。
風竜はすでに先代の主を失っており、群れを操れるのは新たな長である自分だけ。自分まで命を落とせば、今度こそ風竜は烏合の衆に成り下がる。
『まだ終わりではない』
「……本気で言ってるのかい?」
『本気だ! まだ我らには先代が残っている! 死後もまだ我らのために戦ってくれる気高き竜が! 彼がいる限り貴様も、火竜どもも蹴散らしてくれるだろう!』
風竜の長が前方を見る。
そこには変わり果てた先代の長、ドラゴンゾンビがいる。
が、彼の目がとらえたのは別のものだった。
『……何だ、あの光は』
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