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岩竜山脈へ

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 宿で一泊した翌日、私たちは朝から岩竜山脈に入ることにした。

『ガウ、クルルッ』

 案内役は小竜だ。
 ぱたぱたと飛んでいく小竜の後ろを、シャンとタックに乗った私たちが追っていく。

「結局シャンがセルビアを連れ出そうとした理由って何だったんだろうね?」
「さあ……風竜絡みであることは間違いないと思うんですが」

 移動しながら、タックを操るハルクさんとそんなやり取りをする。

 シャンが私を岩竜山脈に連れていく理由。
 あるとすれば……風竜との戦いで傷ついた仲間の治療とかだろうか?

 もちろんシャンの仲間を治療するのは構わないけど、それをしたところで根本的な解決にならない。

 となると、シャンの仲間たちに手を貸して風竜を追い払う、というのが今回の件の着地点になるだろうか。

「おい、前見ろ! なんか来たぞ!」

 後ろでレベッカが鋭く声を発する。

 レベッカの言う通り、私たちに向かって数匹の竜が飛んでくる。赤い鱗が特徴的な火竜だ。

 私たちの間に緊張感が走る中、小竜がやってきた火竜たちの前に出る。

『クルルル!』
『ガルッ、ガアッ』

 何度か鳴き合うと、火竜たちはくるりと反転して元来た方向に戻り始めた。
 小竜は私たちに向かってきゅいと鳴くと、火竜たちの後を追うように飛び始める。

「戦いにならなかったのはいいけど……何だったんだ?」
「おそらく火竜の偵察部隊だろう。風竜の襲撃に警戒しているようだな」

 首を傾げるレベッカにオズワルドさんが答える。なるほど。

 さらに飛んでいくと、私たちは岩山のある場所にできた深い窪地に辿り着いた。

 窪地は横にも広く、側面にはいくつも洞窟が空いている。洞窟の一つ一つが火竜の棲み処になっているようだ。
 洞窟や窪地の端には竜が集まり、私たちに視線を向けている。

 竜の数はおそらく合計で二百匹は下らないだろう。
 ……すごい数だ。
 ここ、ロニ大森林より危険な場所なんじゃないだろうか。
 きっと小竜やシャンたちが一緒でなかったら、私たちは竜の群れに呑み込まれていたに違いない。

 窪地の最下部に行くと、ひときわ大きな洞窟があった。

『クルルッ』

 小竜がそこに入っていくので、私たちもシャンたちから下りて後を追う。

 洞窟の入り口の幅は二十メートル以上あるだろう。高さは五メートルほどだけど、それも奥に進むにつれて広がっていく。

「でっけえ洞窟だな~」
「それだけここの主が大きいということだろうね」

 レベッカとハルクさんがそんなやり取りをする。

 さて、洞窟の中を進んでいくと、その一番奥にそれはいた。

 巨大な火竜だ。
 シャンたちと同じ赤い鱗の竜だけど、サイズが何倍もある。


『……んん? 人間がこんなところに何の用だい』


「「喋った!?」」

 私とレベッカの声が重なる。竜が喋るなんて聞いたことがない!

「長く生きた魔物は高い知性を持つことがある。……とはいえ、人間の言葉を解するものは珍しいがな」

 オズワルドさんがそんな解説を入れると、大火竜はフンと鼻を鳴らした。

『わざわざ覚えてやったんだよ。人間が私たちに話し合いを持ち掛けてきたからね。言葉がわからないんじゃ不便だろう』
「話し合い、ですか?」
『私たちが人間を襲わないと約束させたかったようだね。私はそれを受けた。人間が山に立ち入らないことを条件にね。……もう百年は前の話になるねえ』

 懐かしむように言う大火竜。
 それから大火竜はじろりと私たちを睨んだ。

『……もっとも、最近じゃあそれも忘れられつつあるようだ。人間の中には山に入って私の同胞を捕まえようとする輩までいるんだからね』
「……っ」
『ノコノコとやってくるとはいい度胸だよ。バカ丁寧に捕まえた同胞までされてくるなんて、自分たちが下手人だと言っているようなもんじゃないか。わざわざ八つ裂きにされに来たのかい?』

 殺気が放たれる。

 当たり前のことかもしれない。人間は火竜の仲間を捕まえて売りさばいている。火竜たちにしてみれば敵以外の何物でもない。

 ハルクさんが静かに剣の柄に手を伸ばす。
 レベッカやオズワルドさんも各々の武器を手に取ろうとする。

 一触即発の空気の中、飛び出したのは小竜だった。

『クルルル!』
『……んん? あんた、無事だったのかい! 風竜どもに追われていった時はどうなったかと思ったけど……』
『クルルル』
『ふむふむ。……助けられた? 人間どもにかい? こいつらは他の人間と違う? ……へえ』

 興味深そうに大火竜が私たちを見る。
 心なしか殺気は和らいでいるように感じる。

 争いごとにならずに済んだ……んだろうか?
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