68 / 113
連載
ダンジョン演習②
しおりを挟む「それにしても、どうやって岩ゴブリンを探しましょうか」
場所はダンジョン三階層。
学院地下に広がるダンジョンは全七層あり、地下に行くほど面積は広く、魔物は強くなっていくそうだ。
私たちの標的である岩ゴブリンは三階層にいる。
七階層と比べれば全然マシだそうだけど、三階層も十分広い。
岩と土で作られた周囲はまるで迷路のようだ。
……なんだか昔潜った『迷宮』を思い出すなあ。
「わたしの魔術で探そうか? 岩ゴブリン」
私がそんなことを考えていると、ロゼがそんな提案をしてきた。
「そんなことができるんですか?」
「うん。【土妖精】」
ロゼが魔術を発動させると、地面が盛り上がって人型の土人形が数体現れた。
サイズはかなり小さい。
道端に落ちていたらどんぐりや小石と間違えそうなレベルだ。
「……えっと、ロゼ。これをどうするんですか?」
「探索に出すの。土妖精、この階層にいる岩ゴブリンを探してきて!」
『『『ピィーッ!』』』
ロゼが指示をすると、一体だけをその場に残し、残りの土人形――ではなく土妖精たちはあちこちに駆け出していった。
残された土妖精を拾い上げてロゼが解説してくれる。
「散っていった子のだれかが岩ゴブリンを見つければ、こっちの子に反応があるはずだよ」
「はー……便利ですね。そんな魔術があるなんて」
「既存のものじゃないけどね。わたしは魔力が少ないから、色んな魔術を自分に合わせて調整してるの。
これも元は大きな岩のゴーレムを作り出す魔術だし」
何てことのないようにそう告げるロゼ。
けれど、既存の魔術をここまでアレンジするのがどれだけ凄いことかは私でもわかる。
たとえば私は障壁魔術を使う時、障壁の色を変えたり、形を変えたりすることはできない。
魔術のアレンジというのは、魔力のコントロールがよっぽどうまくないとできない芸当なのだ。
「やっぱりロゼは凄いです」
「そ、そうかな」
「はい」
魔力が低いと本人は言うけれど、こんなことができるならそのハンデもあってないようなものだと思う。
『ピイッ!』
「あ、見つけたみたい」
「随分早かったですね」
そんなことを話していると、ロゼの手に乗る土妖精が反応した。
ぴょんと地面に飛び降り、どこかに向かっていこうとする。どうやらその先に岩ゴブリンがいるようだ。
私たちが土妖精を追っていくと――
『ギャッギャッ』
『ギィイッ!』
そこにはずんぐりした体形の、角を生やした魔物が二体。
間違いない、岩ゴブリンだ。
「見つけたはいいけど……セルビア、これからどうしよう? わたしは戦闘はあんまり得意じゃなくて……」
引け腰な様子でそう言ってくるロゼ。
「わかってます。任せてください、ここからは私がやります」
私はロゼの前に出た。
ルーカスのような相手ならともかく、遠距離攻撃の手段もなさそうな相手なら!
「【最上位障壁《イクスバリア》】、【最上位障壁《イクスバリア》】、【最上位障壁《イクスバリア》】、【最上位障壁《イクスバリア》】、【最上位障壁《イクスバリア》】!」
『『ギイッ!?』』
閉じ込め完了!
頑丈な障壁に前後左右と上方を囲まれた岩ゴブリンたちは慌てふためくけど、もちろん脱出なんてできない。
「えっと、セルビア。閉じ込めたのはいいけどここからどうするの?」
「岩ゴブリンが酸欠になるまで待ちます」
「えっ」
「そんなに時間もかからないと思いますよ。適当に雑談でもしていましょう」
以前初対面のシャンにやったとき同じだ。
隙間がなくなるよう障壁が張ったので、障壁の中の酸素はいずれなくなる。
運がいいことに相手は二体。
つまり障壁の中の酸素が減る速度も倍だ。
これならすぐに岩ゴブリンたちも力尽きてくれるだろう。
「さあロゼ、何を話しますか?」
「……さ、さあ。どうしましょうねセルビアさん」
「あれ? な、なんで敬語に戻るんですか!?」
明らかに引かれている。
た、ただ演習のためにやっただけなのに……!
その後しばらくロゼが私に距離を取りたがるようになったのだった。
0
お気に入りに追加
12,229
あなたにおすすめの小説
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。