61 / 113
連載
副会長の話②
しおりを挟む「ん? ……んん? なんだか首が軽くなった気が」
「あ、まだじっとしててください。このくらいの傷なら――【ヒール】。はい、治りましたよ」
呪いが解けたところで傷も治療しておく。
副会長はおそるおそる首に手をやり、傷が塞がっていることに気付いて目を見開いた。
「な、治った!? 嘘だろう、こんなにあっさり……!?」
呪い、というのは相手を害する邪悪な魔力のことだ。
毒物なんかと違うのはそれが非物質であること。
聖女候補の能力は、実体を持たない相手にはめっぽう強いのだ。
「な、治ってる! 本当に血が止まっている! ああ、ありがとう転入生! 僕はもう助からないと思っていたのに!」
「は、はい。もう大丈夫ですから安心してください」
私の手を掴んでぶんぶん振ってくる副会長。
いつまでたっても傷が治らず不安だったんだろう。
「セルビアさんって本当にすごい力を持っているんですね……」
一方、ロゼさんが目を丸くしてそんなことを言う。
「あはは……まあ、望んで得た力じゃないですけど」
「……それでも、羨ましいですよ」
「ロゼさん……」
そう言ったきりロゼさんは黙り込んでしまう。
どう反応していいかわからずにいる私に、オズワルドさんが質問してくる。
「セルビア。これで副会長が失血死する可能性はなくなったんだな?」
「は、はい。傷は治しましたから。……それよりあの呪いが気になります。
呪いは本来、アンデッド系の魔物くらいしか扱えないはずです。
副会長さんを斬った剣士というのは、一体何者なんでしょう?」
まさか話に出てきた仮面の剣士がその手の魔物だったりするんだろうか。
「まだ判断ができんな。単に呪いの付与された剣を使っていただけかもしれん。
アンデッド系の魔物の素材を用いれば、そういうものも作れるだろう」
「なるほど」
魔術に関することならオズワルドさんの領域だ。オズワルドさんがそう言うならそうなんだろう。
まだ仮面の剣士については素性がわからない。
「これからどうしましょうか?」
「俺はまず仮面の剣士について情報を公開する。
それと副会長を守る方法も考える必要があるだろうな。
口を噤んでいた今までならともかく、情報を明かした今ではその剣士に報復される可能性が高くなった」
「……!」
オズワルドさんの言葉に副会長が表情を青ざめさせる。
仮面の剣士について今まで情報は広まっていなかった。
その情報が公開されれば、それを知った仮面の剣士に副会長が狙われかねない。
対策は確かに必須だろう。
「セルビア、ロゼ。念のためお前たちも当分は二人で行動しろ。絶対に一人でひと気のない場所に行くな」
「はい」
「……わかりました」
私とロゼさんも頷く。
最近の調査ではロゼさんも同行してくれることが多かったので、それは問題ない。
「あ、そうだ。一応中庭に行ってみてもいいですか? 何か手がかりが残っているかもしれません」
私が手を挙げて言うと、オズワルドさんは渋面を作った。
「副会長が襲われたのは半月も前だぞ。何かわかるとは思えん」
「普通ならそうですが、聖女候補の目で見れば別かもしれません。呪いなんて使ってくるような相手ですし」
「……」
オズワルドさんは少し考えてから、
「……わかった。だが中庭を不自然に探る真似は危険だ。本当に手がかりがあるなら、仮面の剣士が警戒しているかもしれんからな。護衛をつけていけ」
「護衛ですか?」
「いるだろう。ぴったりのやつが」
「……あ、そうでした。じゃあ連絡します。ロゼさん、ちょっと待っててもらっていいですか?」
私が言うとロゼさんは首を傾げた。
「もちろんいいですけど……あの、護衛って一体誰のことですか?」
「ああ、それは――」
十分後。
「――はじめまして、ロゼさん。僕はハルクというんだ。『剣神』なんて呼ばれているけど、気にせず普通に接してくれると嬉しい」
「…………えええええっ!?」
護衛役としてやってきてくれたハルクさんを見てロゼさんが目を見開いていた。
5
お気に入りに追加
12,204
あなたにおすすめの小説

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。