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連載
事件の顛末と創立記念祭の準備
しおりを挟む『結論から言うと、事件の犯人はとある研究所の所長じゃった』
賢者様が話したのは以下のようなことだ。
人工魔物を生み出す研究を行うある研究所で、一体の『蛇』が作り出された。
世にも珍しい、『魔力を食べる』蛇型の魔物である。
しかしその魔物を成長させるには通常の栄養剤では足りず、所長は他の者に内緒で餌となる魔力の調達に走るようになった。
シャレア中の高魔力保持者をさらって、その魔力を回収するという方法で。
「ま、魔物を育てる? そんなことが目的だったんですか!?」
『そうじゃ。……この街の研究者はネジの外れた者が多いからのう。所長は力作であるその蛇を、「完成」させずにはいられなかったんじゃ』
私が目を見開き尋ねると、賢者様は溜め息交じりに頷いた。
そんな理由でこんな大事件を起こすなんて!
「…………気持ちはわからなくもないな……」
「オズワルド、ここは共感を示す場面じゃないからね」
ぼそりと呟いたオズワルドさんにハルクさんが突っ込みを入れている。
話に出てきた、魔力を食べる大蛇というのは昨日ダンジョンで遭遇したアレのことだろう。
確かに魔力――魔術を牙でかき消して、取り込んでいたような気がする。
『所長はさらった人間から集めた魔力を蛇に与えておった。しかしやり過ぎたのじゃ。魔力を食って力を得た蛇は研究所の床を破り、地下に逃げた。
そしてたまたま学院地下のダンジョンに入り込んだというわけじゃな。
その証拠に、ダンジョン三階層には侵入口らしき大穴が空いておった』
私があの大蛇と出会ったのはダンジョンの三階層。
あんな場所にああも強い魔物がいた理由がわからなかったけど、外部から壁を破って入り込んだというならそれも納得できる。
『あとは簡単じゃ。セルビア君、きみが撮影した蛇の写真をもとに街を調べ直した。
あんな蛇は自然には存在せんから、人工魔物だと見当もついたしの。
そうしたら研究所のひとつが、「蛇型の魔物が逃げ出した」という名目で衛兵に届け出を出しておった。
それが決定打になり、研究所の強制調査に踏み切ったわけじゃな』
まさに電光石火だ。
きっと犯人に逃げる隙を与えないよう、きわめて迅速に動いたんだろう。
レベッカが首を傾げつつ質問する。
「で、じいさん。結局誘拐の手口って何だったんだ?」
『その呼び方はマイナスじゃなレベッカ君。ここはひとつ、淑女らしく「ご主人様」と呼んでみてくれんか?』
「呼ぶわけねえだろ!? あたしのこと何だと思ってんだよ!」
ああ、そういえば賢者様はメイド好きの狂人だったっけ。
ここまで普通に話してくれていたからすっかり忘れていた。
ごほん、と気を取り直すように賢者様は説明する。
『それで誘拐の方法じゃったか? 何でも透明化の能力を持つ蛇型魔物も開発されていたらしくての。
被害者が一人になるのを見計らってそれをけしかけ、気絶させて丸のみにする。
あとは透明化能力を使い、誰にも見られんように研究所まで運んでくるというわけじゃ』
「透明化……そんな魔物まで作っていたんですね」
確かにそれなら街中の監視装置を潜り抜けられるだろう。
……というかまた蛇ですか。
どうやらその所長は相当蛇型の魔物にこだわりがありそうだ。
今度はハルクさんが質問する。
「例の仮面の剣士については何かわかりましたか?」
『裏の組織から雇った協力者、と言っておったな。
学院の警戒が強くなり、蛇を侵入させられなくなったから雇ったと』
「裏の人間、ですか」
『ま、この国にもフリーの暗殺集団やら傭兵やらは存在するからのう。仮面の剣士の行方もわからんし、そっちはどうなるかわからんの、正直』
腕組みをしながら言う賢者様。
ちなみに賢者様が捕捉してくれたことによると、仮面の剣士がどうやって学院に侵入したかも謎のままらしい。
仮面の剣士を雇った所長も、そのあたりの詳しい手段は知らないそうだ。
それを聞いてやや不満そうにしているオズワルドさんが印象的だった。
……どうやって結界を抜けたか気になっていたらしい。
『被害者も全員救出できた。魔力を無理やり搾り取られたようで、まだ目を覚ましておらんが……安静にしていればすぐ意識を取り戻すじゃろう』
被害者については生存が確認されているらしい。
というわけで、と賢者様が言葉を続けた。
『首謀者も捕まり、犠牲者も戻ってきた。ひとまず一件落着じゃ! 協力感謝するぞい、セルビア君、レベッカ君、ハルク君、オズワルド君。
約束の「古龍の眼球」はすぐに屋敷に届けさせよう』
満面の笑みでそう告げてくる賢者様。
こうしてシャレアの街を騒がせた行方不明事件は解決したのだった。
▽
「じゃあ、セルビアたちはまだしばらくこの街にいるの?」
「そうですね。まだこの街にきた目的も果たせていませんし」
行方不明事件が解決した数日後。
『第一学院』の中庭で、私はロゼと談笑していた。
目的、というのはもちろん対魔神戦用の結界のことだ。
結界を作れるオズワルドさんは現在、事件の後処理に追われている。
街中の監視装置なんかを撤去したり、残す場合の運用を話し合ったりと大変らしい。
オズワルドさんの手が空くまで私たちにできることはない。
よって私はのんびりと学院生活を継続しているのだった。
「目的って?」
「あー……すみません、深く聞かないでいただけると嬉しいです」
まさか魔神を倒そうとしているなんてロゼに言うわけにもいかない。
ロゼは不思議そうにしたあと、こんな質問をしてきた。
「セルビアがそういうなら聞かないけど……それじゃあ、『創立記念祭』には参加するの?」
「創立記念祭?」
「お祭りだよ。この街ができた日付に毎年開催されてるの。
今年はできないかと思ったけど、事件も解決したからやることになったみたい」
どうやらもうすぐこの街ではお祭りがあるらしい。
「……お祭りというと、屋台が出たり大道芸人や吟遊詩人が来て盛り上がるという、あのお祭りですか?」
「そうだね。だいたいそんな感じで――」
「――ぜひ参加したいです!」
私は勢いよくロゼの手を掴んだ。
お祭りなんて私は人生で一度も参加したことがない。
王都でもちょくちょく催されていたけど、例によって私は祈祷があったので窓から眺めるだけ。
こっそり抜け出して遊んでいる他の聖女候補が羨ましく感じたものだ。
「そ、そう? それならよかったけど」
「はい! ああ、今から楽しみです!」
ロゼがやや引き気味な気もするけど気にしない。私の気分は大盛り上がりだ。
「あ、でも必要なものがあるから用意しに行かないといけないね」
「必要なもの、ですか?」
一体なんだろう。
シャレアのお祭りでは参加賞でも必要になるんだろうか。
「うん。じゃあ、案内するね」
「よろしくお願いします」
まあ、お祭りに参加するためなら仕方ない。
どんな場所だって行く所存だ。
「――いらっしゃいませお客様、我が『ベネット服飾店』へようこそ! さあさあ夜会で大注目間違いなしの素敵なドレスをご用意いたしますわよーっ!」
そして私は数十分後、街の服飾店にやってきていた。
眼前には派手なドレスを両手に持った女性店員。
ロゼ、どこにでも行くとは言いましたがこれは想定外です……!
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