泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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ダンジョンを這いずるもの

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 岩ゴブリンを倒したあと、私たちはダンジョンに入る前に貸し出された魔導具でその死骸を撮影した。

「これで演習は終わりですね。無事に済んでよかったです」
「う、うん。そうだね」

 心なしかロゼの態度がまだよそよそしい気がするけど、今は気にしないでおこう。

 とりあえずダンジョンを出ないと。

「出口はどっちでしたっけ?」
「ああ、それならあっちで――」

 私たちが帰途につこうと通路の一つに足を向けた途端。


 ドッガァアアアアアン! という音とともにその方角から人が吹き飛んできた。


 え? なに? 一体何が起こっているんですか?

「ぐっ、このボクをここまであしらうとは……! なんでこんな化け物が三階層なんかをうろついているんだ!」

 吹っ飛ばされてきた人物が立ち上がって悪態をつく。
 そこにいたのは最近見慣れてきた金髪の青年。

「ルーカスさん……?」
「その声――セルビアと賢者の孫か! キミたちも逃げろ! アレがすぐそばまで来ている!」

 焦ったように叫ぶルーカス。

 アレ、とは一体なんだろう。まったく状況がわからない。
 私とロゼが困惑していると、通路の陰から大きな影が姿を現した。

『シュウウウウッ……』
「…………えっ」
「な、なにあれ……!?」

 私たちの視線の先にいたのは巨大な蛇だ。
 それなりに広い洞窟をさらに押し広げんばかりの巨躯でこちらに這ってきている。

 どうやらルーカスを吹き飛ばしてきたのはあの大蛇らしい。

 大蛇はルーカス、私、ロゼを順番に見てからぎらりと目を輝かせる。

『シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「うおおおおおおおおおおっ!?」
「「ひゃあああああああああああああああああああああああっ!?」」

 すぐさま反転して全力逃走する私とロゼ。少し遅れてルーカスもついてくる。

 走りながらルーカスに質問を飛ばす。

「る、ルーカスさん! あれなんですか!? 三階層にあんな怪物がいるなんて聞いていませんよ!」
「ボクだって知りたい! 標的を狩って戻る途中でいきなり襲われたんだ!
 他の三人がいては邪魔になるから一旦別れ、ボクがあの大蛇を引き付けていた! 他のことは何も知らない!」

 つまりルーカスも偶然出会って襲われただけらしい。

 私に対抗心を燃やして大物相手に無謀な突撃をし、怒りを買って追い回されてる……なんて落ちかと思ったけど、そんなことはないようだ。

「ロゼ、ちなみにあの魔物が何かわかりますか!?」
「わ、わからないよ! あんな魔物見たことない!」
「ロゼでもわかりませんか……」

 博識なロゼですら知らないとなると、あの大蛇は相当珍しい魔物のようだ。

 それにしてもおかしい。この三階層にはあまり強い魔物はいないはずだ。
 あんなあからさまに強そうな魔物がいるのは異常すぎる!

「だいたいルーカスさんは何で逃げてばかりいるんですか! 強いんですから戦ってくださいよ!」
「それができたら逃げていない! いいかよく見ていろよ、【|火球《ファイアボール】!」

 ルーカスが逃げながら火球を作り出し大蛇に叩き込む。

『シャアアッ!』

 すると大蛇は大きく口を開け、その火球を『噛み砕いた』。

 火球はその場で消え去り、無傷の大蛇は何事もなかったかのように再び私たちを追い始める。

「なっ……何ですか今の!?」
「魔術を無効化した……?」

 一連の光景を見て愕然とする私とロゼ。

 単に牙で火球を防いだんじゃない。あの大蛇は今間違いなく、火球をかき消していた。

 ルーカスは苦々しげに言う。

「あの大蛇には魔術が通じない。なぜかあの牙に触れると消滅してしまうんだ。忌々しいことにな!」
「だったら横から狙えばいいじゃないですか!」
「こんな狭い場所でどう横から狙えというんだ!」

 確かにルーカスの言う通り、追われている状況では正面以外から攻撃することはできなさそうだけど……!

「でも、このままだと十分ももたないよ!」

 ロゼが悲痛な叫びをあげた。

 大蛇は巨体だけあって私たちより速度が出ている。追いつかれるのも時間の問題だろう。
 かといって、逃げようにも上への階段からは随分離れてしまったのでそれも難しい。

 しかもここで最悪の事態に直面する。

「くそっ、行き止まりか……!」

 前を見てルーカスが毒づく。

 そう、前方は行き止まり。横道もなく、これ以上先には進めない。

 となると戦うしかない。
 私は決意して魔力を操る。

「せ、セルビア! どうしよう!?」
「ふたりともこのことは他言無用でお願いします――【聖位障壁《セイクリッドバリア》】!」
『ジャアッ!?』

 輝く大障壁を出現させ、大蛇の追走を阻む。

 ルーカスが呆気にとられたように言った。

「せ、【聖位障壁《セイクリッドバリア》】……? ということはまさかキミ、聖女候補だったのか!? なぜこの学院にいるんだ!?」
「色々あったんです。察してください」
「察せるか!」

 とりあえず今はルーカスと問答している暇はない。

 大蛇は何度か頭突きしていたけど障壁はしっかりそれを阻んでいる。
 これで相手が諦めてくれればよかったけど、そうはならなかった。

『シュウウウウウッ……』
「しょ、障壁を溶かしてる……!?」

 ロゼが驚愕したように呟く。

 彼女の言う通り、大蛇は障壁に牙を突き立ててその無効化を試みていた。
 牙を当てられた部分の障壁は煙を上げて徐々に薄れている。

 このままだと、さっきのルーカスの火球同様、この障壁も数秒で消されてしまうだろう。

 なんという厄介な!
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