67 / 113
連載
ダンジョン演習
しおりを挟む
副会長から話を聞いて数日が経った。
仮面の剣士の情報はすぐに公開され、シャレアの街だけでなく近隣の都市にも手配書がばらまかれた。
犯人が見つかるのも時間の問題――というのが世間の認識だ。
(……そう簡単に行くんでしょうか)
私は首を傾げてしまう。
仮面の剣士は副会長に姿を見られたにも関わらず、副会長を始末しなかった。
それは姿が知られても逃げ切る自信があるからじゃないだろうか?
うーん、そうではないと思いたいけど。
「……セルビア、どうかした?」
隣からロゼが心配そうに尋ねてくる。
「あ、い、いえ。少し考え事をしていただけなので」
「それならいいけど……もう講義が始まるよ」
それもそうだ。
ロゼの視線を追って前を向くと、担当教師が整列する生徒の前に立つところだった。
『――それでは今日は、以前より予告していたダンジョン実習を行う!』
科目は魔術戦闘学。
その実習として、今日はダンジョンに潜っての実践的な演習を行うのだ。
以前ルーカスが何やら言っていたあれである。
『まず二人から五人のチームを組め! これまでの成績を加味し、そのチームに応じた「標的」を与える。
諸君たちには、ダンジョンでその標的である魔物を仕留めてもらう!』
教師の言う通りこの演習はチームで行われる。
さすがに魔物の放されているダンジョンで単独行動は危険だからだろう。
私は隣に向かって声をかける。
「ロゼは私とでいいですか?」
「うん。……というか、わたしが他の誰かに組んでもらえると思う……?」
「お、落ち着いてくださいロゼ。なんだか瘴気みたいなものが漏れてますから」
どんよりした雰囲気を発するロゼ。
なんだろう。「仲のいい子と組んでね」という指示にトラウマでもあるかのようだ。
とりあえず私はロゼと二人でチームを組み、教師に報告する。
「ではこれを支給する。学院の備品だから大切に使うように」
「わかりました」
すると教師からは撮影機、防御リング、標的を示すカードの三つを渡された。
撮影機は魔物を討伐したあと、証拠の写真を撮るためのもの。
防御リングは模擬戦のとき同様いざというときに身を守るためのもの。
今日の演習の場合は、これを押したら教師に伝わり、すぐに助けにきてくれるそうだ。
……と、まあ、ここまではいいとして。
標的を示すカードに魔力を込めると、何やら映像が浮かび上がってきた。
「『岩ゴブリン』ですか。ロゼ、知ってますか?」
「あんまり詳しくないけど……確かバルクス地方南部に多く棲息するゴブリンの一種で、魔力鉱石を食べる性質のおかげで体は岩のように硬く、反面動きはあまり速くない魔物だったかな」
「どこが詳しくないんですか」
この子の知識の幅はもう勉強熱心とかのレベルではない気がする。
そうこうしていると、背後から聞き覚えのある声が。
「セルビア! とうとうこの日が来たね。さあ、ボクと雌雄を決しようじゃないか!」
「じゃあロゼ、そろそろ行きましょうか」
「うん、そうだね」
「待ちたまえセルビア――というか賢者の孫までその扱いはなんだ!? ちゃんとこっちを向け二人とも!」
「……何か用ですか」
振り返ると、そこにいたのはルーカスとその一味だった。
彼らは合わせて四人なので同じチームになったようだ。
「決まっているだろう。ボクたちとどちらが先に獲物を仕留めるか勝負するんだ、我がライバルよ」
「またそれですか……」
この人は以前の模擬戦以降、こうしてことあるごとに勝負を挑んでくるようになった。
ロゼのいじめっこから私のストーカーにクラスチェンジというわけだ。
本当にやめてほしい。私だって暇じゃないというのに。
私は溜め息を吐いた。
「はあ、わかりました。ではその勝負受けて立ちます」
「フッ、その言葉を待っていた! 今回こそリベンジさせてもらうからな! 行くぞお前たち!」
「「「はい、ルーカス様!」」」
勢いよくダンジョンに突撃していくルーカス一味。
「セルビア、あんなこと言っていいの? ルーカスさんと勝負なんて」
ロゼが心配そうに尋ねてくる。
私は普通に頷いた。
「はい。別に何も賭けてませんし。勝っても負けても問題なしです」
「あ、あしらい慣れてきてる……!」
ああも四六時中絡まれたら、誰だって慣れますよ。
戦慄するロゼと一緒に私はダンジョンに向かうのだった。
仮面の剣士の情報はすぐに公開され、シャレアの街だけでなく近隣の都市にも手配書がばらまかれた。
犯人が見つかるのも時間の問題――というのが世間の認識だ。
(……そう簡単に行くんでしょうか)
私は首を傾げてしまう。
仮面の剣士は副会長に姿を見られたにも関わらず、副会長を始末しなかった。
それは姿が知られても逃げ切る自信があるからじゃないだろうか?
うーん、そうではないと思いたいけど。
「……セルビア、どうかした?」
隣からロゼが心配そうに尋ねてくる。
「あ、い、いえ。少し考え事をしていただけなので」
「それならいいけど……もう講義が始まるよ」
それもそうだ。
ロゼの視線を追って前を向くと、担当教師が整列する生徒の前に立つところだった。
『――それでは今日は、以前より予告していたダンジョン実習を行う!』
科目は魔術戦闘学。
その実習として、今日はダンジョンに潜っての実践的な演習を行うのだ。
以前ルーカスが何やら言っていたあれである。
『まず二人から五人のチームを組め! これまでの成績を加味し、そのチームに応じた「標的」を与える。
諸君たちには、ダンジョンでその標的である魔物を仕留めてもらう!』
教師の言う通りこの演習はチームで行われる。
さすがに魔物の放されているダンジョンで単独行動は危険だからだろう。
私は隣に向かって声をかける。
「ロゼは私とでいいですか?」
「うん。……というか、わたしが他の誰かに組んでもらえると思う……?」
「お、落ち着いてくださいロゼ。なんだか瘴気みたいなものが漏れてますから」
どんよりした雰囲気を発するロゼ。
なんだろう。「仲のいい子と組んでね」という指示にトラウマでもあるかのようだ。
とりあえず私はロゼと二人でチームを組み、教師に報告する。
「ではこれを支給する。学院の備品だから大切に使うように」
「わかりました」
すると教師からは撮影機、防御リング、標的を示すカードの三つを渡された。
撮影機は魔物を討伐したあと、証拠の写真を撮るためのもの。
防御リングは模擬戦のとき同様いざというときに身を守るためのもの。
今日の演習の場合は、これを押したら教師に伝わり、すぐに助けにきてくれるそうだ。
……と、まあ、ここまではいいとして。
標的を示すカードに魔力を込めると、何やら映像が浮かび上がってきた。
「『岩ゴブリン』ですか。ロゼ、知ってますか?」
「あんまり詳しくないけど……確かバルクス地方南部に多く棲息するゴブリンの一種で、魔力鉱石を食べる性質のおかげで体は岩のように硬く、反面動きはあまり速くない魔物だったかな」
「どこが詳しくないんですか」
この子の知識の幅はもう勉強熱心とかのレベルではない気がする。
そうこうしていると、背後から聞き覚えのある声が。
「セルビア! とうとうこの日が来たね。さあ、ボクと雌雄を決しようじゃないか!」
「じゃあロゼ、そろそろ行きましょうか」
「うん、そうだね」
「待ちたまえセルビア――というか賢者の孫までその扱いはなんだ!? ちゃんとこっちを向け二人とも!」
「……何か用ですか」
振り返ると、そこにいたのはルーカスとその一味だった。
彼らは合わせて四人なので同じチームになったようだ。
「決まっているだろう。ボクたちとどちらが先に獲物を仕留めるか勝負するんだ、我がライバルよ」
「またそれですか……」
この人は以前の模擬戦以降、こうしてことあるごとに勝負を挑んでくるようになった。
ロゼのいじめっこから私のストーカーにクラスチェンジというわけだ。
本当にやめてほしい。私だって暇じゃないというのに。
私は溜め息を吐いた。
「はあ、わかりました。ではその勝負受けて立ちます」
「フッ、その言葉を待っていた! 今回こそリベンジさせてもらうからな! 行くぞお前たち!」
「「「はい、ルーカス様!」」」
勢いよくダンジョンに突撃していくルーカス一味。
「セルビア、あんなこと言っていいの? ルーカスさんと勝負なんて」
ロゼが心配そうに尋ねてくる。
私は普通に頷いた。
「はい。別に何も賭けてませんし。勝っても負けても問題なしです」
「あ、あしらい慣れてきてる……!」
ああも四六時中絡まれたら、誰だって慣れますよ。
戦慄するロゼと一緒に私はダンジョンに向かうのだった。
5
お気に入りに追加
12,209
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」


聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。