65 / 113
連載
ロゼの過去
しおりを挟む
「賢者の一族は代々シャレアの長を務めます。そして有事の際にはその強力な魔術で敵を打ち払い、街を守るのです。
五年前、街を襲った竜を倒すために衛兵や街の魔術師たちが団結しました。
その先頭にはおじい様や、お母様、お父様が立っていました。
街の人たちは賢者の一族に鼓舞されながら、恐ろしい竜に立ち向かったんです」
ロゼさんは平坦な声で話し続ける。
「街の人は大勢死に、先代の『剣神』様も竜と刺し違えました。
……わたしの両親もその時に死んでいます。街の人を守り、立派な最期を遂げたそうです」
「……すごいご両親だったんですね」
私が言うと、ロゼさんは力なく頷いた。
「そうですね。でも、わたしは両親のようにはなれませんでした」
「――、」
「わたしは賢者の一族でありながら、弱くて、臆病です。竜が攻めてきたとき、わたしは怖くて避難所に逃げ込みました。
そして戦いが終わるまでずっと震えていたんです。
たくさんの人が死んでいくのをわたしは見殺しにしたんです。街を守る賢者の一族でありながら……!」
以前ルーカスがロゼさんに関して口にした言葉を思い出す。
敵は待ってくれない。
賢者の孫であるロゼさんが目の前の脅威に縮こまっていていい道理はない。
……あれは五年前のことを指していたのだ。
「竜との戦いが終わったあと、わたしは大勢の人に責められました。
賢者の一族でありながらどうして戦わなかったのかと。
わたしが戦わなかったせいで大勢の人が死んだ、とも」
「なっ……!」
続けられたロゼの言葉に、私は唖然とした。
「そんなの無茶苦茶じゃないですか! いくら賢者の一族だからって、ロゼさんは当時まだ子供だったはずです!」
「賢者の血筋は強い魔力を持つのが普通ですから。
おじい様も、わたしの母も、子供の頃から強力な魔術が使えたそうです。
わたしのように生まれつき魔力が少ないほうが珍しいんです」
だから責められて当然です、と。
ロゼさんは小さく笑った。
もう痛みには慣れてしまっているかのように達観した笑みだった。
「わたしは街の人に嫌われ、学院でもいじめを受けるようになりました。今思えば、竜に親しい人を殺された恨みをどこかにぶつけたかっただけかもしれません。
そして、おじい様もわたしを庇うことはできませんでした」
「……なぜですか?」
私が聞くとロゼさんはこう解説した。
「賢者は血筋によって選ばれます。両親がいない今、おじい様が亡くなれば次の賢者はわたしです。
そんなわたしが、おじい様に守られる弱者のままでは立ち行きません。
わたしは自分自身の力で、自分が賢者にふさわしいと周囲に認めさせなくてはならないんです」
「……」
「……でも、なかなかうまくいきません。わたしはやっぱり出来損ないで、落ちこぼれなんです。
だから今のわたしは誰かに優しくされる資格なんてありません」
声を落としてそう告げるロゼさん。
その姿に私は我慢ならなかった。
「――それは違うと思います」
「違う……? 何がですか?」
私は言葉を続ける。
「ロゼさんが賢者にふさわしいかどうかは、私にはわかりません。ですが優しくされるべき人ではあると思います。
ロゼさんは努力家で、人の役に立とうと一生懸命で……そんな人が虐げられていい理由はありません」
ロゼさんの教科書はたくさん書き込みがされていた。
オズワルドさんに水害対策の研究レポートを見てもらってもいた。
彼女は誰かの役に立ちたいと思っているのだ。
「私はロゼさんのことを尊敬しています。だから、そんなふうに自分のことを貶めないでください」
「――、」
私が言うと、ロゼさんが息を呑むような気配がした。
その後シャンが地面に戻るまで、ロゼさんが口を開くことはなかった。
五年前、街を襲った竜を倒すために衛兵や街の魔術師たちが団結しました。
その先頭にはおじい様や、お母様、お父様が立っていました。
街の人たちは賢者の一族に鼓舞されながら、恐ろしい竜に立ち向かったんです」
ロゼさんは平坦な声で話し続ける。
「街の人は大勢死に、先代の『剣神』様も竜と刺し違えました。
……わたしの両親もその時に死んでいます。街の人を守り、立派な最期を遂げたそうです」
「……すごいご両親だったんですね」
私が言うと、ロゼさんは力なく頷いた。
「そうですね。でも、わたしは両親のようにはなれませんでした」
「――、」
「わたしは賢者の一族でありながら、弱くて、臆病です。竜が攻めてきたとき、わたしは怖くて避難所に逃げ込みました。
そして戦いが終わるまでずっと震えていたんです。
たくさんの人が死んでいくのをわたしは見殺しにしたんです。街を守る賢者の一族でありながら……!」
以前ルーカスがロゼさんに関して口にした言葉を思い出す。
敵は待ってくれない。
賢者の孫であるロゼさんが目の前の脅威に縮こまっていていい道理はない。
……あれは五年前のことを指していたのだ。
「竜との戦いが終わったあと、わたしは大勢の人に責められました。
賢者の一族でありながらどうして戦わなかったのかと。
わたしが戦わなかったせいで大勢の人が死んだ、とも」
「なっ……!」
続けられたロゼの言葉に、私は唖然とした。
「そんなの無茶苦茶じゃないですか! いくら賢者の一族だからって、ロゼさんは当時まだ子供だったはずです!」
「賢者の血筋は強い魔力を持つのが普通ですから。
おじい様も、わたしの母も、子供の頃から強力な魔術が使えたそうです。
わたしのように生まれつき魔力が少ないほうが珍しいんです」
だから責められて当然です、と。
ロゼさんは小さく笑った。
もう痛みには慣れてしまっているかのように達観した笑みだった。
「わたしは街の人に嫌われ、学院でもいじめを受けるようになりました。今思えば、竜に親しい人を殺された恨みをどこかにぶつけたかっただけかもしれません。
そして、おじい様もわたしを庇うことはできませんでした」
「……なぜですか?」
私が聞くとロゼさんはこう解説した。
「賢者は血筋によって選ばれます。両親がいない今、おじい様が亡くなれば次の賢者はわたしです。
そんなわたしが、おじい様に守られる弱者のままでは立ち行きません。
わたしは自分自身の力で、自分が賢者にふさわしいと周囲に認めさせなくてはならないんです」
「……」
「……でも、なかなかうまくいきません。わたしはやっぱり出来損ないで、落ちこぼれなんです。
だから今のわたしは誰かに優しくされる資格なんてありません」
声を落としてそう告げるロゼさん。
その姿に私は我慢ならなかった。
「――それは違うと思います」
「違う……? 何がですか?」
私は言葉を続ける。
「ロゼさんが賢者にふさわしいかどうかは、私にはわかりません。ですが優しくされるべき人ではあると思います。
ロゼさんは努力家で、人の役に立とうと一生懸命で……そんな人が虐げられていい理由はありません」
ロゼさんの教科書はたくさん書き込みがされていた。
オズワルドさんに水害対策の研究レポートを見てもらってもいた。
彼女は誰かの役に立ちたいと思っているのだ。
「私はロゼさんのことを尊敬しています。だから、そんなふうに自分のことを貶めないでください」
「――、」
私が言うと、ロゼさんが息を呑むような気配がした。
その後シャンが地面に戻るまで、ロゼさんが口を開くことはなかった。
5
お気に入りに追加
12,209
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。