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副会長の話

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 副会長の話をまとめると以下の通りだ。


 半月前に失踪した生徒会長は、その日遅くまで寮に戻ってこなかった。

 それ自体は珍しくないらしい。
 生徒会長は作業のため、放課後も校舎に残っていることが多いからだ。

 けれどその日に限って普段と比べてもあまりに遅かったため、副会長は不審に思って探しにいった。

 ちょうど寮の出入りが禁止になる時間の少し前くらいだったそうだ。

 副会長は、中庭で何者かに襲撃を受ける生徒会長を目撃した。

「会長を襲っていたのは、とんでもない強さの剣士だった。……魔術を剣で斬るなんて、常人にはできっこない。
 会長だって相当強いのに、あっという間に気絶させられていた」

 副会長がそんなことを言う。

 魔術を剣で斬る!?
 そんなことができる人なんて――

「……セルビア。一応聞いておくが、ハルクあいつは半月前どこにいた?」
「半月前のハルクさんあの人なら、この街に向かって移動している途中でしたよ」
「? 二人とも、なんの話をしているんですか?」

 私とオズワルドさんのやり取りを見て、ロゼさんが不思議そうな顔をしていた。

 いや、いくら魔術を斬るような剣士だからってハルクさんは犯人じゃない。
 とはいえ、魔術を斬るなんて誰にでもできるようなことじゃないだろう。
 間違いなくその剣士は凄まじい実力者だ。

 副会長は言葉を続ける。

「会長がやられるのを見て、僕は思わず声を上げてしまった。それでその剣士に気付かれて……一瞬で首を切り裂かれた。
 運よく助かったけど、あと少し剣の軌道がずれていたら僕の首は落ちていただろう……」

 そのときのことを思い出したのか、副会長は顔から血の気を引かせている。

「それで、どうなったんですか?」
「たまたま見回りの警備員が来て、剣士は会長を抱えてどこかに行ってしまった。だから僕は助かったんだ。
 ……それから半月、僕はほとんどずっと寮に閉じこもっていたよ。
 いつ口封じのために、あの剣士に襲われるかわからないからね」

 副会長がふさぎ込んでいるという噂は聞いていたけど、まさかそんな事情だったとは。
 話を聞き終えたあと、オズワルドさんが口を開く。

「いくつか聞きたいことがある」
「何でしょうか」
「まず、生徒会長を襲ったという剣士の外見はどんなものだった?」

 副会長は首を横に振った。

「……わかりません。仮面をつけていましたから、顔が見えなかったんです」
「仮面の模様は? 覚えている限りでいい、その剣士について話せ」

 オズワルドさんが紙とペンを渡し、副会長はそれに仮面の図柄や細かい点を書いていく。

 ただし仮面以外に印象に残った点は特にないようで、犯人の正体につながるような情報はなかった。
 その紙を受け取りながらオズワルドさんはさらに尋ねる。

「次の質問だ。どうしてその話を今までしなかった? 生徒会長が失踪した後、お前にも聴取は行ったはずだ。
 だがお前は『何も知らない』の一点張りだっただろう」

 生徒会長が失踪した際、仲がよかったというこの副会長にも当然聞き取り調査があったはず。
 けれどその際には副会長はこの話を明かさなかったようだ。

「……申し訳ありません。けど、どうしても言えませんでした。話せばあの剣士に報復されるのではないかと、恐ろしくて」

 副会長の言葉にオズワルドさんは目を細める。

「では、なぜ今日に限って急に話す気になった?」
「この傷が原因です」

 そう言い、副会長は首元の包帯を解く。
 するとそこには何かに斬られたような傷があった。私は目を見開く。

「傷が塞がってない……? そ、その傷って半月前のものなんですよね!?」

 そう、副会長の首元の裂け目は生傷のように真新しいのだ。
 傷はいっさい治癒しておらず、今も傷口からは血が流れている。

「……塞がらないんだ、あの剣士につけられた傷が。自然治癒もしないし、ポーションを飲んでも利かない。
 自分が日に日に衰弱しているのがわかるんだ……」

 傷が塞がらないのは、首元にまとわりついている呪いと何か関係があるんだろうか。

「自分で調べた結果、毒物の影響じゃなかった。となると、残るのは魔術的な『呪い』の可能性くらいだ。
 けれど市販されている解呪ポーション聖水程度じゃ効き目がない。
 困り果ててオズワルド先生に相談しようとしたとき――僕はこの部屋の前でオズワルド先生と転入生の会話を聞いたんだ」
「私とオズワルド先生の会話を?」
「そうだ。転入生、きみは浄化魔術が使えると」

 そんな話、しただろうか。
 ……あ、した。
 確かルーカスとの模擬戦の前日、オズワルドさんから『お前は障壁魔術やら浄化魔術やらでどうやって勝つつもりだ』みたいな質問をされた気がする。

「それ以降、僕はきみの後をつけていた。どうにか人目を忍んで、この傷を治療してもらえないかと思ってね」
「そういうことだったんですか……」

 確かにこの人の立場なら人目のあるところで私に傷の説明なんてできないだろう。

 私が視線を送ると、オズワルドさんが頷いてくる。

「では副会長さん。その傷を治療しますね」

 副会長は頷き、それから自嘲気味に言った。

「ああ、頼むよ。……まあ、聖水でも治せなかった傷だ。もちろん簡単には治せないとは思うが、少しでも回復に向かうなら僕はそれだけで――」
「【聖位浄化《セイクリッドピュリフィケーション》】」

 私が魔術を使うと副会長の首元についていた呪いは消え去った。
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