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視線の主

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「ですから、ここはこの法則を踏まえると理解しやすいんです」
「ああ、なるほど! それならわかります」

 ロゼさんに学院を案内してもらった数日後、私は学院内の図書塔で宿題をしていた。

 ……本来なら行方不明事件の調査に集中したいんだけど、出された課題もやらず事件を嗅ぎまわっていたら怪しまれるから仕方ない。

 ありがたいことに、ロゼさんも私の宿題に付き合ってくれている。

「何とか終わりました……! ロゼさん、教えてくれてありがとうございます」

 私が言うとロゼさんは小さく首を横に振る。

「いえ、セルビアさんはわたしたちの街のために頑張ってくれているんですから、これくらいは当然です」
「ロゼさん……!」
「……それに、わたしみたいな友達のない落ちこぼれでも誰かの役に立てるって思えて嬉しいですから……ふふ……」
「すみませんロゼさん。急に目から光を消すのをやめてもらえませんか」

 虚ろな笑みを浮かべるロゼさん。この人の抱える闇が深すぎる。

「というか、ロゼさんはよく自分に友達がいないって言いますけど」
「? はい。それがどうかしましたか?」
「いえ、まあ何というかですね――」

 私が何というべきか言葉を探し――途中でそれを打ち切って勢いよく振り向く。

 けれど案の定、誰も怪しい人物は発見できない。

「……またですか」

 私が呟くと、ロゼさんが尋ねてきた。

「またというと、例の謎の視線ですか?」
「はい。もう数日間ずっとです。さすがに気のせいではないと思うんですが……」

 そう、何日か前から私は何者かにつけられている感覚があるのだ。

「そろそろ正体をはっきりさせたいですね」
「何かするつもりですか? 危ないんじゃ……」
「わかってます、無茶はしません。ロゼさんも協力してもらえませんか?」

 私が言うと、ロゼさんは少し迷ったような素振りをしてから頷いてくれた。




 ロゼさんと別れ、学院の中を適当に歩き回る。

(……やっぱりついてきていますね)

 姿は決して見せないけれど、時折不気味な気配を感じる。

 私はそのまま歩き、適当な曲がり角を折れる。
 そしてまっすぐ進むのではなく曲がったその場で待機。

 そのままじっとしていると――

「あっ……」

 足音を殺すような不審な挙動でその人物は現れた。

 眼鏡をかけ、首にスカーフを巻いた真面目そうな男子生徒だ。
 私を見て、しまった、というような表情を浮かべている。

 私はその男子生徒に尋ねた。

「私に何か用ですか? 最近ずっと後をつけていましたよね?」
「そ、それは……」

 男子生徒が言葉に迷う素振りを見せていると、その背後から二人ぶんの足音が響く。

「――ごまかしても無駄だぞ。すでにお前の存在は監視装置の映像で確認済みだ」
「セルビアさん、怪我はありませんか?」

 現れたのはオズワルドさんとロゼさんの二人。
 男子生徒の逃げ道をふさぐように彼の少し後ろで足を止める。

 つまり、私の作戦はこうだ。

 私があえて一人になって相手をおびき寄せる。
 そのさらに後ろから尾行している人を特定するためにロゼさんについてきてもらう。

 相手が特定できたとしても、土壇場で何をしてくるかわからないので念のためオズワルドさんもロゼさんに同行してもらう。

 ……というわけである。

 これで男子生徒と私たちは三対一。逃げ場はない。

「まさか生徒会の副会長が犯人とはな」
「そうですね。この人がどうしてこんなことを」

 オズワルドさんとロゼさんがそんなことを言っている。

 生徒会の副会長……? あれ、なんだか最近そんな人が話題に上ったような。

 確か、行方不明事件の被害者と仲がよかったんだっけ。
 友人が失踪したことにショックを受けてふさぎ込んでいるとかなんとか……なぜその人がこんな真似を?

 まあいいや。それもすべては目の前の男子生徒に話を聞けばわかることだ。

「さあ、観念して目的を話してください!」

 私がびしっと指をつきつけると、男子生徒――生徒会の副会長は諦めたように頷いた。

「わ、わかった……けどその前に一つ確認させてくれ。転入生、きみが浄化魔術を使えるというのは本当か?」
「え? なんでそれを知ってるんですか?」

 障壁魔術はともかく、浄化魔術はこの学院では使ってないはずだけど。

 副会長は首元のスカーフを外す。

 私はそれを見て驚いた。彼の首元には包帯が巻かれ、真っ赤な血がにじんでいた。

 そしてそこには、確かに『呪い』の気配を感じ取れた。

 副会長は誰かに聞かれることを恐れるように、小さな声で言った。


「……転入生。きみをつけ回していたのは、これを治してほしいからなんだ。僕は半月前、行方不明事件の犯人に殺されかけた」


「「「………………」」」

 行方不明事件の犯人に、殺されかけた……?

 どうしよう。
 もしかしてこの人、ものすごく重要なことを言っていませんか。
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