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昼食
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ロゼさんから学院を案内してもらった後、私たちは食堂で昼食をとることにした。
「じゃあ、わたしが注文を取ってきますから……セルビアさんは席を取ってもらっていいですか?」
「わかりました」
昼食どきだけあって食堂の中はかなり混雑している。
とりあえず注文をロゼさんに伝えて私は指示された通り席の確保に向かう。
うーん、どこも満席だけど、どこか空いてる場所は……
ぞくり、と背筋に走る寒気。
「……っ、またですか」
さっきの廊下と同様、また何かに見られていたような感覚があった。
素早く視線を周囲に走らせるけど、食堂の中は生徒や教員で溢れかえっているため視線の主はわからない。
こんな短時間に二度も視線を感じるなんて、誰かに尾行でもされているんだろうか。
立場が立場だけに否定しきれないのが怖い。
やっぱり後でオズワルドさんに報告しておこうか。
最悪の場合はさっきもらった魔力植物の種や、ハルクさんに緊急連絡できる腕輪を使って何とかするとしよう。
そんな感じで警戒心を高めていると。
「ん? おお、セルビアではないか! キミも昼食か?」
「……げっ」
なんだか聞き覚えのある声に呼び止められた。
声の主はルーカスだ。
どうやら彼も昼食中だったようで、窓際の居心地の良さそうなテーブルを仲間三人と占拠している。
「なんだねその反応は。いや、まあいい。それよりこれから昼食というのなら是非この席に座るといい。ボクの隣の特等席が空いているぞ」
なぜか好意的に相席を持ち掛けてくるルーカス。
「……なんで私があなたの隣に座らないといないんですか」
「つれないな。模擬戦をした仲ではないか」
「私にとってそれは敵同士という意味です」
それにしてもこのルーカスの親しげな雰囲気はなんなんだろう。
ルーカスは私に模擬戦で、公衆の面前で気絶するという醜態をさらした。
私のことなんて恥をかかせた怨敵くらいに認識しているとばかり思っていたのに。
「そう警戒しないでくれセルビア。ボクは嬉しいんだ。キミのような存在に出会えてね」
「……はい?」
ルーカスは目を閉じ、神妙な雰囲気で語り出した。
「ボクは生まれながらにしてエリートだった……同年代で魔術の腕では並ぶ者なく、常に勝者の立ち位置にいた。
だが、それは孤独と同義だ。
ボクはずっと望んでいたのだよ。自分と対等以上に戦える存在――つまりライバルをね。
そしてキミは見事、模擬戦でボクを打ち負かした。
その意味がわかるかいセルビア? キミこそボクが待ち望んだ好敵手なんだ!」
ふむふむ。
「あっちの方はもう少し空いていそうですね」
「少しは興味を示したまえセルビア! ボクは今かなり重要な話をしたんだぞ!」
ルーカスが立ち上がって食って掛かってくる。
知りませんよルーカスの生い立ちなんて。
私はこの人たちがロゼさんをいじめていたことを許したわけじゃないですし。
ただ他に空席があるかというと、残念ながら見当たらない。
「……仕方ありませんね。他に空いている席はないようですし――」
「そうだな。この時間帯の食堂はいつも満席だからな」
「――あなた方を追い出して私たちがそこに座るとしましょう」
「落ち着くんだセルビア、その魔力量は食堂で発していいレベルじゃない……!」
ちなみにルーカスたちの占領しているテーブル席は六人掛けなので、私とロゼさんの相席も数字の上では不可能じゃない。
だからどうということもないけど。
「……これはなんの騒ぎですか」
そんなやり取りをしていると、二人ぶんの定食セットを持ったロゼさんがやってきた。
「すみませんロゼさん、少し待っていてください。今席を空けますから」
「だからそれはやめろと言っている! ボクたちと相席すればいいだけじゃないか!」
「お誘いはありがたいんですが、控えめに言って反吐が出ます」
「その言葉のどのあたりが控えめなんだ!?」
そんな私とルーカスとのやり取りを見て、ロゼさんは溜め息を吐いた。
「……要するに、ルーカスさんのところ以外席が空いていないんですね。
わたしはいいですよ、ルーカスさんたちと相席でも」
「で、でも、ロゼさんはあの人たちに酷い扱いを」
「ふふ、何言ってるんですかセルビアさん」
「え? どういう意味ですか?」
ロゼさんの言葉の真意がわからず聞き返してしまう。
この人たちは確かにロゼさんにひどいことをしていたはずで――
「あの程度いつものことですよ。わたしがこの学院でどれだけいじめられてきたと思っているんですか?」
それは絶対に笑顔で言う内容ではないと思う。
「じゃあ、わたしが注文を取ってきますから……セルビアさんは席を取ってもらっていいですか?」
「わかりました」
昼食どきだけあって食堂の中はかなり混雑している。
とりあえず注文をロゼさんに伝えて私は指示された通り席の確保に向かう。
うーん、どこも満席だけど、どこか空いてる場所は……
ぞくり、と背筋に走る寒気。
「……っ、またですか」
さっきの廊下と同様、また何かに見られていたような感覚があった。
素早く視線を周囲に走らせるけど、食堂の中は生徒や教員で溢れかえっているため視線の主はわからない。
こんな短時間に二度も視線を感じるなんて、誰かに尾行でもされているんだろうか。
立場が立場だけに否定しきれないのが怖い。
やっぱり後でオズワルドさんに報告しておこうか。
最悪の場合はさっきもらった魔力植物の種や、ハルクさんに緊急連絡できる腕輪を使って何とかするとしよう。
そんな感じで警戒心を高めていると。
「ん? おお、セルビアではないか! キミも昼食か?」
「……げっ」
なんだか聞き覚えのある声に呼び止められた。
声の主はルーカスだ。
どうやら彼も昼食中だったようで、窓際の居心地の良さそうなテーブルを仲間三人と占拠している。
「なんだねその反応は。いや、まあいい。それよりこれから昼食というのなら是非この席に座るといい。ボクの隣の特等席が空いているぞ」
なぜか好意的に相席を持ち掛けてくるルーカス。
「……なんで私があなたの隣に座らないといないんですか」
「つれないな。模擬戦をした仲ではないか」
「私にとってそれは敵同士という意味です」
それにしてもこのルーカスの親しげな雰囲気はなんなんだろう。
ルーカスは私に模擬戦で、公衆の面前で気絶するという醜態をさらした。
私のことなんて恥をかかせた怨敵くらいに認識しているとばかり思っていたのに。
「そう警戒しないでくれセルビア。ボクは嬉しいんだ。キミのような存在に出会えてね」
「……はい?」
ルーカスは目を閉じ、神妙な雰囲気で語り出した。
「ボクは生まれながらにしてエリートだった……同年代で魔術の腕では並ぶ者なく、常に勝者の立ち位置にいた。
だが、それは孤独と同義だ。
ボクはずっと望んでいたのだよ。自分と対等以上に戦える存在――つまりライバルをね。
そしてキミは見事、模擬戦でボクを打ち負かした。
その意味がわかるかいセルビア? キミこそボクが待ち望んだ好敵手なんだ!」
ふむふむ。
「あっちの方はもう少し空いていそうですね」
「少しは興味を示したまえセルビア! ボクは今かなり重要な話をしたんだぞ!」
ルーカスが立ち上がって食って掛かってくる。
知りませんよルーカスの生い立ちなんて。
私はこの人たちがロゼさんをいじめていたことを許したわけじゃないですし。
ただ他に空席があるかというと、残念ながら見当たらない。
「……仕方ありませんね。他に空いている席はないようですし――」
「そうだな。この時間帯の食堂はいつも満席だからな」
「――あなた方を追い出して私たちがそこに座るとしましょう」
「落ち着くんだセルビア、その魔力量は食堂で発していいレベルじゃない……!」
ちなみにルーカスたちの占領しているテーブル席は六人掛けなので、私とロゼさんの相席も数字の上では不可能じゃない。
だからどうということもないけど。
「……これはなんの騒ぎですか」
そんなやり取りをしていると、二人ぶんの定食セットを持ったロゼさんがやってきた。
「すみませんロゼさん、少し待っていてください。今席を空けますから」
「だからそれはやめろと言っている! ボクたちと相席すればいいだけじゃないか!」
「お誘いはありがたいんですが、控えめに言って反吐が出ます」
「その言葉のどのあたりが控えめなんだ!?」
そんな私とルーカスとのやり取りを見て、ロゼさんは溜め息を吐いた。
「……要するに、ルーカスさんのところ以外席が空いていないんですね。
わたしはいいですよ、ルーカスさんたちと相席でも」
「で、でも、ロゼさんはあの人たちに酷い扱いを」
「ふふ、何言ってるんですかセルビアさん」
「え? どういう意味ですか?」
ロゼさんの言葉の真意がわからず聞き返してしまう。
この人たちは確かにロゼさんにひどいことをしていたはずで――
「あの程度いつものことですよ。わたしがこの学院でどれだけいじめられてきたと思っているんですか?」
それは絶対に笑顔で言う内容ではないと思う。
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