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学院を案内してくれるようです
しおりを挟むオズワルド先生の研究室を出た私とロゼさんはそのまま工学棟から出た。
さて、これからどうしようかな。
次の講義まで少し時間があるんだけど……
「……あの、もう学院には慣れましたか?」
時間の潰し方を考えていると、ロゼさんがそんな話題を振ってくれる。
私は絶句してしまった。
「……」
「なんで固まるんですか……」
「いえ……ロゼさんから話しかけてくれるなんて思っていなかったので」
ロゼさんとの私の主なコミュニケーションといえば、
初対面:ルーカスの仲間に絡まれているのを助けたら逃げられる
二度目:挨拶をしたら最低限の返事だけで終了
さっき:無言と会話の境界線にある何か
という感じだったので、こんなふうに話を振ってくれるとは思っていなかった。
ロゼさんは視線を落として呟くように言った。
「……すみません、わたしなんかが話しかけたら迷惑ですよね。友達いませんし、暗いですし、魔術もぜんぜん上手くありませんし声小さいですし」
「言ってません! そんなこと私はまったく言ってませんよ!」
ちょっと言葉に詰まっただけでなんて卑屈なんですかこの人は!
「単に驚いただけですよ。えーと、学院に慣れたか、ですよね。……実はまだそんなに馴染めていないんですよね」
勉強は難しいし、ルーカスとの模擬戦のせいで私を避ける生徒もいるくらいだし。
「それに、学院が広すぎていまだに迷子になってしまうことがあります」
「……それなら、わたしが学院の中を案内しましょうか?」
「いいんですか?」
私が聞き返すとロゼさんは頷いた。
「ルーカスさんの一件でも感謝していますし……おじい様から、セルビアさんたちを手助けするよう頼まれていて」
「賢者様から?」
「はい。セルビアさんは学院には不慣れだろうから、と」
どうやらロゼさんの申し出は賢者様からの厚意でもあるようだ。
ロゼさんは自嘲気味に付け加える。
「まあ、案内するのがわたしなんかでよければ、ですけど」
「――ありがとうございます、すごく助かります!」
私は思わずロゼさんの手を握って感謝していた。
この学院ときたら本当に広いのだ。道に迷って講義に遅刻してしまうこともあった。
案内してもらえるならこんなに嬉しいことはない!
「…………」
「……? ロゼさん、どうかしたんですか?」
ロゼさんはなぜか落ち着かなさそうに視線をさまよわせている。
「…………き、気にしないでください。ただの『陰の者』の特性です。『陽の者』のオーラを間近で浴びて目がくらんでいるだけなので……」
「は、はあ」
陰の者とか陽の者というのはどういう意味なんだろう。
よくわからなかったけど、それから少ししたらロゼさんも落ち着いたので、私はロゼさんの案内で学院を見て回る運びとなった。
▽
ロゼさんは丁寧に学院内の施設について教えてくれた。
敷地西にある第一~第六寮。
東にある講堂、薬学棟、工学棟、実験用の魔獣保管棟。
中央にある中庭、時計塔のような外観をした図書館など。
「あと、敷地の奥には『ダンジョン』があります」
「ダンジョン、ですか?」
耳慣れない言葉に私が首を傾げると、ロゼさんが説明してくれる。
「ダンジョンというのは、演習用の施設のことです。入り口は地上にありますが、本体は地下に広がっています。
中には生徒が戦闘訓練を行うための魔物がたくさんいます」
「え? こ、この学院の地下に魔物がいるんですか?」
思わず足元に目をやってしまう。
そんなことをして危険じゃないんだろうか。
「ダンジョンはとても頑丈にできていますから、魔物が地上に上ってくることはありません。ダンジョンの壁や天井は、代々の賢者が補修しているんです」
「賢者様が、ですか」
「はい。賢者の家系は全員が土魔術を扱えるんです」
無表情のまま、少しだけ得意そうに言うロゼさん。
なるほど。学院の敷地内に魔物を入れるなんて危険だと思ったけど、賢者様……つまり凄腕魔術師の作った壁や天井で閉じ込めているなら問題ないようだ。
「それなら安心ですね。ちなみに、ロゼさんも土の魔術が使えるんですか?」
「一応は。……大した威力ではありませんけど」
「そうなんですか。じゃあ、ロゼさんのご両親も?」
「……」
一瞬、ロゼさんの表情がこわばる。
それからロゼさんは呟くように言った。
「……そうですね。母は強力な土魔術の使い手でした」
過去形で告げられる言葉。
その意味を私は直感で察することができた。
何をいったらいいかわからなくなる。軽率な質問をしてしまっただろうか。
私が何とも言えない気まずさを感じていると――
ぐうう、と私のお腹から情けない音が鳴った。
「……お腹、減ったんですか?」
「…………すみません……」
よりによってこのタイミングでお腹が鳴るなんてかなり恥ずかしいんですが。
ロゼさんはくすりと笑って、こんな提案をしてきた。
「いい時間ですし、それなら食堂に行きましょう」
「はい……」
さっきまでの気まずさはなく、ごく自然に歩くロゼさんの後ろを私は追うのだった。
十数分後。
「フハハハハハッ! 光栄に思うがいいセルビア! このボクと相席できる機会なんてそうそうないぞ!」
「…………さて、どこか空いている席は……」
「どこを見ているセルビア! ほうらここに空いている席があるぞ! この『炎の貴公子』ルーカス・ライオットの隣がな!」
私が無視しているのにも構わず大声で呼んでくる金髪の男子生徒。
そう、以前ロゼさんをいじめていた主犯格のルーカスである。
……どうしてこうなるんでしょうか。本当に。
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