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VSルーカス・ライオット
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「――よくぞ来たなセルビア! 逃げなかったことは褒めてやる!」
というわけで翌日、魔術戦闘学の講義。
私とルーカスは模擬戦を行うために一定距離を空けて向かい合っていた。
場所は『第一学院』のグラウンドだ。
今は模擬戦のために四角形に線で区切られ、この中で戦闘を行うことになっている。
「ルーカスと転入生が模擬戦やるって噂、本当だったのかよ」
「ルーカスってこの学院に来てから模擬戦じゃ無敗だったよな?」
「怖いもの知らずだなー、あの転入生」
すでに私とルーカスの賭けの話は知れ渡っており、他の生徒の話し声が漏れ聞こえてくる。
「……あの、セルビアさん。本当に今からでもやめたほうが……」
「心配してくれてありがとうございます、ロゼさん」
そんな中、唯一心配そうに私に声をかけてくる人物が一人。
ロゼさんである。
彼女もこの講義を取っていたのだ。
荒事の苦手そうな彼女が『魔術戦闘学』に参加していたのは正直驚いた。
講義前に話したところによると、「苦手だからこそ克服できたらいいなって……」とのこと。
……なんて健気な。
やっぱりロゼさんが虐められている現状は間違っている。
私はさらに決意を固くしつつ、ルーカスに尋ねた。
「賭けのことは覚えていますか?」
「ボクが勝てばキミがボクの研究室に入る。そっちが勝てば、ボクはなんでもキミの言うことを聞く。
……まあ、後者になることは有り得ないと思うがね」
「覚えているならいいです。早く始めましょう」
「いいだろう」
私とルーカスさんが視線を送ると、審判役の教師が頷き声を張った。
「それでは、ルーカス・ライオット対セルビアの模擬戦――はじめ!」
合図とともに模擬戦が始まる。
ルールはとても簡単で、まず私たちが今いる戦闘スペースから出たら場外負け。
一定以上ダメージを受け、講義の際に貸し出される『防御リング』による防御魔術が破壊されても負け。
さらに降参宣言や、審判が危険と判断した場合もそこで試合は終了する。
私が狙うのはもちろん、障壁魔術で閉じ込めてルーカスに『参った』と言わせることだ。
というわけで、私は開始宣言とともに魔力を集中させた。
「いきますよ! 【最上位障――」
「【火球】」
瞬間。
ルーカスの手から何十もの人の頭ほどもある火球が出現し、私に向かって撃ち出された。
………………え?
「は、【上位障壁《ハイバリア》】!」
咄嗟に私は発動する魔術を切り替え、ランクを落とした障壁魔術で身を守る。
ズドドドドドドッ! と障壁越しに爆発の衝撃が伝わってきた。
とんでもない威力だ。
さらにその手数も凄まじい。
「まだ行くぞ! 【火球】!」
ルーカスの声とともにさらに火球が追加される。
それらはまっすぐ私を守る障壁に命中し、ビキリと不穏な音が響く。
まずい、障壁が壊れる!
「ひええええ」
慌てて横に転がってその場を離れる。
間髪入れず、ガラスが砕けるような音とともに【上位障壁《ハイバリア》】が割れ、直前まで私が立っていた場所に火球が次々突き刺さった。
着弾と同時に地面が爆ぜ、激しい砂煙が巻き起こる。
煙が晴れた後には爆発によって陥没し、黒く焦げた地面が残っていた。
ちょっ……なんですかあの攻撃力! あんな強力な魔術を使ってくる人、今まで見たこともないんですが!
「ボクの魔術を防ぐなんてやるじゃないか。だが、防ぐだけでは勝てないぞ! 【火球】!」
再度ルーカスが火球を放ってくる。
「【最上位障《イクスバリ》――きゃあっ!」
【最上位障壁《イクスバリア》】を使って火球を防ごうとするけど間に合わない。
私が障壁を張るより早く火球が迫ってきて、私はやむを得ず魔術を中断して飛びのく。
「逃がさん!」
「ああもう、【上位障壁《ハイバリア》】!」
私が逃げた先にさらに火球が撃ち込まれる。それを私はさっきと同じく咄嗟の【上位障壁《ハイバリア》】で防御。
結果はさっきと同じだ。
火球の雨に耐え切れず、【上位障壁《ハイバリア》】は数秒で砕け散った。
「ふはははははっ、どうしたセルビア! ボクに勝つのではなかったのか!? さっきから防戦一方ではないか!」
「ちょ、調子に乗っていられるのも今のうちですよ! すぐに逆転しますから!」
絶えず火球を飛ばしながら嘲笑ってくるルーカスにそう強がりを言っておく。
それにしてもこれはまずい。
私は【最上位障壁《イクスバリア》】でルーカスを閉じ込めて降参させるつもりだったけど、現状ではそもそも【最上位障壁《イクスバリア》】を使う余裕がない。
ルーカスの魔術発動が速すぎるのだ。
高威力の火球を数秒おきに何十発も撃ち込んでくるあの技術は尋常じゃない。
強いとは聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。
ランクを落とした【上位障壁《ハイバリア》】なら何とか発動も間に合うけれど、それでも相手の攻撃を防ぐのがやっとだ。
とてもルーカスを閉じ込めている暇なんてない。
なんとか隙を作らないと……!
(……戦うのってこんなに大変だったんですね)
ルーカスの火球から逃げ回りつつ、頭の片隅で自嘲する。
思えば今までは楽だった。
ハルクさんの陰に隠れて、指示されたタイミングで魔術を使うだけ。
相手の攻撃は全部ハルクさんが防いでくれるから、私は魔術を使うことだけ考えていればよかった。
けれど今はそうはいかない。
ここにいるのは自分だけなんだから、自分で何とかしないと。
「チッ、【火球】では埒が明かないな……ならこれでどうだ! 【火炎矢】!」
逃げ回る私に苛立ってルーカスが使う魔術を変えてくる。
炎の矢だ。一つ一つは火球より小さいけれど、代わりに数が圧倒的に多い。
しかも軌道がまっすぐじゃなく、障壁を飛び越してくる曲射だ。
「――っ!」
私はそれに対して障壁を張らなかった。
覚悟を決めて思い切り後ろに跳ぶ。
その直後に大量の炎の矢が着弾し、爆発によって盛大に地面を抉った。
砂煙が上がり、視界がゼロになる。
「フハハハハハッ! どうだ、これなら防ぎようがないだろう!」
高笑いをしているルーカスの声からある程度の位置を探る。
それから私は来ていた制服の上着を脱ぎ、思い切りルーカスのいる方向目がけて投げつけた。
「なんだ、破れかぶれの突進など――いや違う!? これは制服の上着か!?」
ルーカスが驚くような気配。
砂煙で視界が悪い中、突如飛びだしてきた上着は人影に見えたことだろう。砂煙と合わせてルーカスの注意を一瞬引くくらいの効果はあるはずだ。
よし、隙ができた!
私は即座に魔力を手に集中させる。
「――【最上位回復《イクスヒール》】」
発動させるのは、ルーカスを閉じ込めるための【最上位障壁《イクスバリア》】ではなく【最上位回復《イクスヒール》】。
【最上位障壁《イクスバリア》】でルーカスを閉じ込めるには、最低でも前後左右と上で障壁を五枚張らなくてはならない。
この一瞬の隙でそれはさすがに不可能だ。
だから私が頼るのは、昨日オズワルドさんから受け取っていた魔力植物の種。
魔力を吸う魔力植物であれば、回復魔術によって急成長させることができる。
前に冒険者ギルドで試験を受けた際に知ったことだ。
実際、あのとき渡された『マキアの種』は一瞬で大木にすることができた。
冒険者ギルドで試験を受けたときと同様、今回も私は回復魔術によって魔力植物を急速成長させることに成功した。
『フシュウウウウウウウウウウウウッ……』
砂煙を突き破るように出現した『それ』が唸り声のような音を上げる。
「「「……は?」」」
その場にいた教員、生徒が揃って唖然とした。
私とルーカスのいる戦闘スペースに現れたのは、高さ十Мを超すほどの禍々しい巨大植物だった。
太いツルが触手のように伸び、幹(?)のてっぺんにある花びらの真ん中では猛獣のように牙がずらりと並んでいる。
ルーカスがそれを見上げながら口元を引きつらせる。
「な、なんだこの化け物は!? セルビア、これは貴様が呼び出したのか!?」
「まあそうですね。あ、ひとつ忠告しますがそれに炎の魔術を使うと――」
「ここまで巨大なものを召喚する樹属性魔術は初めて見たが、しょせんは植物! 燃やし尽くしてやるぞ! くらえ【火球】!」
私の言葉を聞かずにルーカスが火球を魔力植物に対して撃ち込む。
瞬間、撃ち込まれたそれを魔力植物は巨大な花びらで吸い込んだ。
「なぁっ!? ぼ、ボクの【火球】を食った!?」
『♪♪♪』
唖然とするルーカスと、嬉しそうに触手を揺らめかせる魔力植物が対照的だ。
「これは『ヒクイソウ』という魔力植物です。名前の通り火が大好物で、燃えないうえに火を見つけると大喜びで食べるそうです」
「なんだそのふざけた植物は!?」
オズワルドさんいわく、魔力植物というのは魔力を多く溜めこむ性質上、特別な能力を持つことが多いらしい。
このヒクイソウは名前の通り火を食べて栄養にする。
さらに、火を食べると興奮して暴れ回るのだ。
『フシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!』
あ、ヒクイソウが蔓でルーカスを掴んで持ち上げた。
「うわああああああああああああああっ!? やめろ、ボクを掴んでどうするつもりだ貴様ぁ!? 離せ、この触手を離せぇっ!」
「ヒクイソウは興奮すると、火の魔力を持つ生き物にも襲い掛かります。きっとルーカスさんの体中の魔力に反応しているんでしょうね。
このままだと食べられてしまいますよ」
「食べっ……!? わかった、降参だ! 降参する! ボクの負けでいいから助けてくれええええええ!」
ルーカスの悲鳴が響き渡る。
まあ、どんなにルーカスが優れた魔術師でも、ヒクイソウ相手に炎は通じない。
自力で逃げられないんだから降参するしかないだろう。
「そ、そこまで! ルーカス・ライオットの降参により、勝者セルビア!」
「ありがとうございました!」
審判役の先生に勝ち名乗りを上げられ、私はルーカスとの模擬戦に無事勝利することができたのだった。
……余談だけど、ヒクイソウからルーカスを取り戻すのが一番大変だった。
私は魔力植物を成長させることはできても、種に戻すことはできないのだ。
結局教師含めてその場の全員が一斉攻撃することでヒクイソウは無事にやっつけられたけれど、そのころにはルーカスはすっかり白目を剥いていたのだった。
というわけで翌日、魔術戦闘学の講義。
私とルーカスは模擬戦を行うために一定距離を空けて向かい合っていた。
場所は『第一学院』のグラウンドだ。
今は模擬戦のために四角形に線で区切られ、この中で戦闘を行うことになっている。
「ルーカスと転入生が模擬戦やるって噂、本当だったのかよ」
「ルーカスってこの学院に来てから模擬戦じゃ無敗だったよな?」
「怖いもの知らずだなー、あの転入生」
すでに私とルーカスの賭けの話は知れ渡っており、他の生徒の話し声が漏れ聞こえてくる。
「……あの、セルビアさん。本当に今からでもやめたほうが……」
「心配してくれてありがとうございます、ロゼさん」
そんな中、唯一心配そうに私に声をかけてくる人物が一人。
ロゼさんである。
彼女もこの講義を取っていたのだ。
荒事の苦手そうな彼女が『魔術戦闘学』に参加していたのは正直驚いた。
講義前に話したところによると、「苦手だからこそ克服できたらいいなって……」とのこと。
……なんて健気な。
やっぱりロゼさんが虐められている現状は間違っている。
私はさらに決意を固くしつつ、ルーカスに尋ねた。
「賭けのことは覚えていますか?」
「ボクが勝てばキミがボクの研究室に入る。そっちが勝てば、ボクはなんでもキミの言うことを聞く。
……まあ、後者になることは有り得ないと思うがね」
「覚えているならいいです。早く始めましょう」
「いいだろう」
私とルーカスさんが視線を送ると、審判役の教師が頷き声を張った。
「それでは、ルーカス・ライオット対セルビアの模擬戦――はじめ!」
合図とともに模擬戦が始まる。
ルールはとても簡単で、まず私たちが今いる戦闘スペースから出たら場外負け。
一定以上ダメージを受け、講義の際に貸し出される『防御リング』による防御魔術が破壊されても負け。
さらに降参宣言や、審判が危険と判断した場合もそこで試合は終了する。
私が狙うのはもちろん、障壁魔術で閉じ込めてルーカスに『参った』と言わせることだ。
というわけで、私は開始宣言とともに魔力を集中させた。
「いきますよ! 【最上位障――」
「【火球】」
瞬間。
ルーカスの手から何十もの人の頭ほどもある火球が出現し、私に向かって撃ち出された。
………………え?
「は、【上位障壁《ハイバリア》】!」
咄嗟に私は発動する魔術を切り替え、ランクを落とした障壁魔術で身を守る。
ズドドドドドドッ! と障壁越しに爆発の衝撃が伝わってきた。
とんでもない威力だ。
さらにその手数も凄まじい。
「まだ行くぞ! 【火球】!」
ルーカスの声とともにさらに火球が追加される。
それらはまっすぐ私を守る障壁に命中し、ビキリと不穏な音が響く。
まずい、障壁が壊れる!
「ひええええ」
慌てて横に転がってその場を離れる。
間髪入れず、ガラスが砕けるような音とともに【上位障壁《ハイバリア》】が割れ、直前まで私が立っていた場所に火球が次々突き刺さった。
着弾と同時に地面が爆ぜ、激しい砂煙が巻き起こる。
煙が晴れた後には爆発によって陥没し、黒く焦げた地面が残っていた。
ちょっ……なんですかあの攻撃力! あんな強力な魔術を使ってくる人、今まで見たこともないんですが!
「ボクの魔術を防ぐなんてやるじゃないか。だが、防ぐだけでは勝てないぞ! 【火球】!」
再度ルーカスが火球を放ってくる。
「【最上位障《イクスバリ》――きゃあっ!」
【最上位障壁《イクスバリア》】を使って火球を防ごうとするけど間に合わない。
私が障壁を張るより早く火球が迫ってきて、私はやむを得ず魔術を中断して飛びのく。
「逃がさん!」
「ああもう、【上位障壁《ハイバリア》】!」
私が逃げた先にさらに火球が撃ち込まれる。それを私はさっきと同じく咄嗟の【上位障壁《ハイバリア》】で防御。
結果はさっきと同じだ。
火球の雨に耐え切れず、【上位障壁《ハイバリア》】は数秒で砕け散った。
「ふはははははっ、どうしたセルビア! ボクに勝つのではなかったのか!? さっきから防戦一方ではないか!」
「ちょ、調子に乗っていられるのも今のうちですよ! すぐに逆転しますから!」
絶えず火球を飛ばしながら嘲笑ってくるルーカスにそう強がりを言っておく。
それにしてもこれはまずい。
私は【最上位障壁《イクスバリア》】でルーカスを閉じ込めて降参させるつもりだったけど、現状ではそもそも【最上位障壁《イクスバリア》】を使う余裕がない。
ルーカスの魔術発動が速すぎるのだ。
高威力の火球を数秒おきに何十発も撃ち込んでくるあの技術は尋常じゃない。
強いとは聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。
ランクを落とした【上位障壁《ハイバリア》】なら何とか発動も間に合うけれど、それでも相手の攻撃を防ぐのがやっとだ。
とてもルーカスを閉じ込めている暇なんてない。
なんとか隙を作らないと……!
(……戦うのってこんなに大変だったんですね)
ルーカスの火球から逃げ回りつつ、頭の片隅で自嘲する。
思えば今までは楽だった。
ハルクさんの陰に隠れて、指示されたタイミングで魔術を使うだけ。
相手の攻撃は全部ハルクさんが防いでくれるから、私は魔術を使うことだけ考えていればよかった。
けれど今はそうはいかない。
ここにいるのは自分だけなんだから、自分で何とかしないと。
「チッ、【火球】では埒が明かないな……ならこれでどうだ! 【火炎矢】!」
逃げ回る私に苛立ってルーカスが使う魔術を変えてくる。
炎の矢だ。一つ一つは火球より小さいけれど、代わりに数が圧倒的に多い。
しかも軌道がまっすぐじゃなく、障壁を飛び越してくる曲射だ。
「――っ!」
私はそれに対して障壁を張らなかった。
覚悟を決めて思い切り後ろに跳ぶ。
その直後に大量の炎の矢が着弾し、爆発によって盛大に地面を抉った。
砂煙が上がり、視界がゼロになる。
「フハハハハハッ! どうだ、これなら防ぎようがないだろう!」
高笑いをしているルーカスの声からある程度の位置を探る。
それから私は来ていた制服の上着を脱ぎ、思い切りルーカスのいる方向目がけて投げつけた。
「なんだ、破れかぶれの突進など――いや違う!? これは制服の上着か!?」
ルーカスが驚くような気配。
砂煙で視界が悪い中、突如飛びだしてきた上着は人影に見えたことだろう。砂煙と合わせてルーカスの注意を一瞬引くくらいの効果はあるはずだ。
よし、隙ができた!
私は即座に魔力を手に集中させる。
「――【最上位回復《イクスヒール》】」
発動させるのは、ルーカスを閉じ込めるための【最上位障壁《イクスバリア》】ではなく【最上位回復《イクスヒール》】。
【最上位障壁《イクスバリア》】でルーカスを閉じ込めるには、最低でも前後左右と上で障壁を五枚張らなくてはならない。
この一瞬の隙でそれはさすがに不可能だ。
だから私が頼るのは、昨日オズワルドさんから受け取っていた魔力植物の種。
魔力を吸う魔力植物であれば、回復魔術によって急成長させることができる。
前に冒険者ギルドで試験を受けた際に知ったことだ。
実際、あのとき渡された『マキアの種』は一瞬で大木にすることができた。
冒険者ギルドで試験を受けたときと同様、今回も私は回復魔術によって魔力植物を急速成長させることに成功した。
『フシュウウウウウウウウウウウウッ……』
砂煙を突き破るように出現した『それ』が唸り声のような音を上げる。
「「「……は?」」」
その場にいた教員、生徒が揃って唖然とした。
私とルーカスのいる戦闘スペースに現れたのは、高さ十Мを超すほどの禍々しい巨大植物だった。
太いツルが触手のように伸び、幹(?)のてっぺんにある花びらの真ん中では猛獣のように牙がずらりと並んでいる。
ルーカスがそれを見上げながら口元を引きつらせる。
「な、なんだこの化け物は!? セルビア、これは貴様が呼び出したのか!?」
「まあそうですね。あ、ひとつ忠告しますがそれに炎の魔術を使うと――」
「ここまで巨大なものを召喚する樹属性魔術は初めて見たが、しょせんは植物! 燃やし尽くしてやるぞ! くらえ【火球】!」
私の言葉を聞かずにルーカスが火球を魔力植物に対して撃ち込む。
瞬間、撃ち込まれたそれを魔力植物は巨大な花びらで吸い込んだ。
「なぁっ!? ぼ、ボクの【火球】を食った!?」
『♪♪♪』
唖然とするルーカスと、嬉しそうに触手を揺らめかせる魔力植物が対照的だ。
「これは『ヒクイソウ』という魔力植物です。名前の通り火が大好物で、燃えないうえに火を見つけると大喜びで食べるそうです」
「なんだそのふざけた植物は!?」
オズワルドさんいわく、魔力植物というのは魔力を多く溜めこむ性質上、特別な能力を持つことが多いらしい。
このヒクイソウは名前の通り火を食べて栄養にする。
さらに、火を食べると興奮して暴れ回るのだ。
『フシュウウウウウウウウウウウウウウッ!!』
あ、ヒクイソウが蔓でルーカスを掴んで持ち上げた。
「うわああああああああああああああっ!? やめろ、ボクを掴んでどうするつもりだ貴様ぁ!? 離せ、この触手を離せぇっ!」
「ヒクイソウは興奮すると、火の魔力を持つ生き物にも襲い掛かります。きっとルーカスさんの体中の魔力に反応しているんでしょうね。
このままだと食べられてしまいますよ」
「食べっ……!? わかった、降参だ! 降参する! ボクの負けでいいから助けてくれええええええ!」
ルーカスの悲鳴が響き渡る。
まあ、どんなにルーカスが優れた魔術師でも、ヒクイソウ相手に炎は通じない。
自力で逃げられないんだから降参するしかないだろう。
「そ、そこまで! ルーカス・ライオットの降参により、勝者セルビア!」
「ありがとうございました!」
審判役の先生に勝ち名乗りを上げられ、私はルーカスとの模擬戦に無事勝利することができたのだった。
……余談だけど、ヒクイソウからルーカスを取り戻すのが一番大変だった。
私は魔力植物を成長させることはできても、種に戻すことはできないのだ。
結局教師含めてその場の全員が一斉攻撃することでヒクイソウは無事にやっつけられたけれど、そのころにはルーカスはすっかり白目を剥いていたのだった。
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