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1巻

1-2

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 なるほど。私は魔術しか使ったことがなかったけど、魔力にはそんな使い道があったのか。
 どうりでさっきのハルクさんのジャンプがすごかったわけだ。

「剣士の僕は、身体強化がないと途轍とてつもなく弱くなる。その分は経験と技術でどうにかおぎなっていたけど……パーティメンバーたちはそんな僕に苛立いらだっているようだった。それで今日、とうとう僕はパーティを追い出されたというわけ」
「そうだったんですね……」

 冒険者は魔物と戦う機会が多い職業だと聞くから、確かに怪我けがをしたままで続けるのは難しいだろう。
 ……あれ?

「でも、怪我けがが治ったならまたパーティに戻れるんじゃないですか?」

 ハルクさんが弱くなる原因になった魔力回路の傷は、もう治してある。身体強化も使えていたし、剣を使うにも支障はないはずだ。
 なのに、ハルクさんは首を横に振った。

「残念ながらそうでもないんだ」
「え?」 
「僕はもともとあのパーティでは嫌われてたからね。一度パーティを抜けた以上、彼らは僕が戻ってくることを全力で拒絶するはずだ」

 復帰するのを全力で拒絶って……いったいどんな関係なんだろう。
 ハルクさんって、あんまり人に嫌われるタイプには見えないんだけど。
 そのあたりのことを聞こうとしたところで――

「お待たせしました。ご注文の品です」

 店員さんがお盆に皿をいくつものせてやってきた。
 湯気の立っているスープ、パン、肉料理がテーブルに並べられていく。
 お、お肉だ……! 教会では滅多に食べられなかった旨味うまみかたまりがこんなにたくさん……!

「そんなに嬉しそうにしてもらえると、こっちも嬉しいよ」
「か、顔に出てましたか」
「セルビアはわかりやすいね」

 ハルクさんが口元に手を当てて小さく笑う。
 仮にも淑女教育を受けた元聖女候補の私より、この人のほうが上品な気がしてならない。
 そんなハルクさんは再びメニューを眺め始めた。

「お酒もあるけど、セルビアはどうする?」
「い、いえ、お酒はさすがに――」
「飲むと嫌なこと忘れられるよ」

 あ、ハルクさんがうつろな目をしてる。

「……飲みます」

 私だって今日はさんざんだったのだ。
 教会ではご法度だったけど、私だって一応成人している。
 せっかくだから飲んでみるとしよう。

「じゃあ、乾杯かんぱい
乾杯かんぱいです」

 私とハルクさんは、店員さんに渡された果実酒入りの木製ジョッキを小さな音を立てて合わせ――
 三十分後。

「だから本当ひどいんだって! 『金色こんじき獅子しし』なんて格好いいパーティ名つけてるけど、あいつらみんなワガママばっかりで! ギルドに教育係やれって言われたけどもうやってらんなくて!」
「わかりますわかります! 私のところだってひどいですよ、毎日頑張ってしんどいお祈りを続けてたのに、こんなにあっさり捨てられるなんて思ってもみませんでした!」
「ああ、お互いひどいことがあったねセルビア! 飲んで忘れよう!」
「もちろんですハルクさん!」

 テーブルをはさんで私とハルクさんは愚痴ぐちをぶちまけまくっていた。
 これがもう、盛り上がる盛り上がる。
 ああ、つらい気持ちを分かち合える相手がいるって素晴らしい。

「こんなに話がはずんだのは久しぶりだよ」
「私もです」

 しみじみ言われて、思わず同意した。
 ハルクさんは、そんな私に尋ねる。

「セルビアは、これからどうするか決めてるのかい?」
「うーん……回復魔術を売って、どうにか生きていければいいなあ、という感じですね」

 正直、自分でもどうしたらいいのかよくわからない。
 けれど教会を追い出された以上は自分の力で頑張るしかない。
 私がそう考えていると、ハルクさんは意を決したように言った。

「それなら――僕と一緒に旅でもしない?」
「旅、ですか?」
「うん。いろんな場所に行って、美味おいしいものを食べたり、観光名所を見物したり」

 な、なんて心惹こころひかれる提案だろう。
 長らく教会に閉じ込められていた私にとって、旅なんてあこがれそのものだ。

「私は嬉しいですけど……いいんですか? 私、かなり世間知らずですよ?」
「僕がフォローするから大丈夫。それに追放された者同士、きっとうまくやれると思うんだ」

 まっすぐ目を見てくるハルクさんに言われ、私は思わず頷いていた。

「はい。よろしくお願いします!」

 私の答えを聞いて、ハルクさんは嬉しそうに微笑んでくれる。

「よかった。さっそく、旅をする具体的な方法なんだけど……」
「はい」

 テーブルをはさんだまま、ハルクさんと今後の予定について話し合う。

「まず旅をすると、移動費やら滞在費やらお金がかかる。外国に行くときは身分証明のためにややこしい手続きもやらなくちゃいけない」
「なんだか大変そうですね……」

 ただ歩いていろんな街を巡るだけかと思ったら、旅っていうのはそんなに簡単じゃないみたいだ。

「そこで提案なんだけど、セルビアも冒険者にならない?」
「私が冒険者に、ですか?」
「ああ。冒険者は国に縛られない仕事だし、冒険者登録をしておけば身元も保証される。旅をするには一番都合がいいんだ」

 ハルクさんはそう言うけど……私としては不安が大きい。

「……私なんかが、冒険者になれるんでしょうか」

 魔物と戦うなんて、とてもできる気がしない。
 すると、ハルクさんはあっけらかんと声を立てて笑う。

「あはは、心配いらないよ。戦うのは全部僕がやるから」
「そ、それはさすがに申し訳なさすぎますよ! 私もちゃんと戦います!」
「気持ちは嬉しいけど、そのあたりは本当に大丈夫だよ。これでも僕、戦うのは得意なんだ」

 にっこり笑ってそう言い切られてしまうと、私は何も言い返せない。……まあ、実際に私に戦いができるかっていうと、きっとなんの役にも立てないだろうし。

「じゃあ、せめて回復魔術を頑張ります」
「うん、助かるよ」

 というわけで、今後の予定が決定。
 どうやら私は冒険者になるようです。
 不安ではあるけど……ハルクさんはすごく頼りになりそうだし、大丈夫かな?

「けど、冒険者ってどうやってなったらいいんですか?」
「ギルドに行って登録するだけだよ。お金もいらない。ただしちょっとしたテストがある」
「テスト、ですか」

 なんだか不穏ふおんな響きだ。

「うん。まあ、そのあたりは明日話すよ。随分ずいぶん飲んだし、今日はもう休もうか」

 ハルクさんはそう言い、店員さんを呼んで会計を済ませてしまう。

「……すみません。お金もないのに好きに食べてしまって……」

 いくらテンションが上がっていたからって、さすがにちょっと食べ過ぎてしまった。
 なんだか自分がすごく図々しい人間に思えてくる。少しは遠慮しますよね、普通。
 けれどハルクさんはさわやかに笑う。

「はは、きみの回復魔術のおかげで、絶対治らないと思ってた怪我けがが治ったんだ。この程度じゃ全然足りないくらいだよ」
「うー……そう言ってもらえると助かります」

 私は恐縮しつつ、ハルクさんと一緒に店を出る。
 酔いが回ってふらふらだった私は、ハルクさんに手を引かれて宿屋まで連れて来てもらった。

「それじゃあ、お休み。僕は隣の部屋にいるから何かあったら呼んでね」
「はいぃ……」

 私はへろへろの声でそう返事をする。
 酔っ払って集中できないので、回復魔術でましをすることもできない。
 ハルクさんは苦笑して、部屋を出て行った。

(……ご飯だけじゃなく、宿代まで出してもらっちゃった……それに介抱まで……)

 今日はハルクさんに頼りっぱなしだ。

「なんとか役に立てるように頑張らないと」

 そんなことを考えながら、私は眠りに落ちた。



 第二章 冒険者ギルド


 ハルクさんと出会った日の翌朝、私たちは街の冒険者ギルドにやってきていた。
 教会ほどではないものの、かなり大きな木造の建物を見上げて、私は思わず声を漏らす。

「ここが冒険者ギルドですか」
「そうだね。見るのは初めてかい?」
「はい」

 ハルクさんに連れられてスイングドアをくぐると、中ではがやがやと喧噪けんそうが広がっていた。

「はー……なんだかにぎやかですね」
「ギルドの支援なしには冒険者は成り立たないからね。依頼の斡旋あっせんとか、素材の買い取りとか、冒険者の用件はとりあえずここで片付くって覚えておくといいよ」

 なるほど、詳しいことはまだよくわからないけど、困ったらとりあえずギルドに頼ればいいと。

「冒険者登録は、あっちの窓口で――」

 すると、ハルクさんが受付窓口を指さしたところで、熊みたいな大柄おおがらな男性がギルドの奥からずかずか歩み寄ってきた。
 刈り込んだ短髪や頬の大きな傷が、只者ただものじゃない感をこれでもかというほど伝えてくる。
 ハルクさんの知り合いだろうか?
 というか、あの、ちょっと怖いんですが。
 この方、なんだか怒ってませんか?

「ハルク殿。お待ちしておりましたぞ」

 短髪の男性は、ハルクさんの前までやってくると――いきなり勢いよく平伏した。

「このたびは、『金色の獅子』の馬鹿どもがすみませんでしたァァァァァァァァァ!」
「ぴっ」

 み、耳が痛い!

「あ、頭を上げてください、ギルマス。いち冒険者に過ぎない僕相手にそんなことをしては、まずいでしょう」
「それはできません! 『金色の獅子』の連中からすべて事情を聞きました。ハルク殿が怪我けがをしたとはいえ、パーティから追い出すなど……! 何度頭を下げても足りませぬ!」

 ハルクさんが恐縮しているけれど、短髪の男性はかたくなに平伏したまま姿勢を崩さない。
 私は突然のことに戸惑とまどいながら、ハルクさんに尋ねる。

「あの、ハルクさん。こちらはお知り合いの方ですか……?」
「あー。うん。この人はエドマークさんといって、冒険者ギルドの支部長マスターなんだ。簡単に言えば、この国のギルドで一番偉い人だよ」

 教会でいう教皇様のような地位の人、ということだろうか。

「そんなすごい方が、なぜこんなことを……?」
「話せば長くなるんだけど……僕がパーティを追い出されたって話はしたよね?」
「は、はい」

 ハルクさんが言っているのは、怪我けがが原因でパーティにいられなくなった、という経緯のことだろう。
 私が頷いたのを見て、ハルクさんは話を続けた。

「実は、そのパーティに入ったもともとの理由が、ギルマスに頼まれたからだったんだ。将来有望なパーティがあるから面倒見てくれって。それで僕はしばらくパーティに参加していろいろ教えていたんだけど、怪我けがのせいで僕はパーティを追い出されることになった。だからギルマスは、僕が嫌な思いをした原因は自分にあるって考えてるんだ」
「……なるほど」

 ハルクさんがパーティに参加したのは、ギルドマスターであるエドマークさんの依頼があったから。
 それがなければ、ハルクさんがパーティを追い出されるなんて悲劇も起こらなかった。
 そのことに責任を感じて、エドマークさんは謝罪をしているということらしい。
 エドマークさんは必死にハルクさんに頭を下げ続けている。

「本来ならば『金色の獅子』の馬鹿どもには厳罰を与えねばなりません。しかし、Sランクパーティである彼らにはどうしても強く出られないのです……! わしにできることならなんでもしますゆえ、どうかご容赦ようしゃを……!」
「ギルドの事情はわかってます。心配しなくても、僕はもう気にしていませんよ」
寛大かんだいなお言葉に感謝いたします、ハルク殿!」

 ハルクさんの言葉に、エドマークさんは安堵あんどしたように言った。
 ふーむ……今のやり取りを聞く限り、ハルクさんを追い出したパーティもかなりの地位にあるようだ。
 ギルドのおさであるエドマークさんが簡単に処分できないって、とんでもない話なのでは。

「それにしても将来有望なパーティの教育係を任されるって……ハルクさんはエドマークさんに信頼されているんですね」

 組織のトップに名指しで頼まれごとをされるなんて、ただごとじゃないと思う。
 私の発言に、エドマークさんが胸を張って頷いた。

「当然ですとも! なぜならこのハルク殿は、パーティ単位ではなく個人でSランクなのですからな!」
「……えっと、それってどのくらいすごいんですか?」

 私が首を傾げていると、エドマークさんは得意げに続ける。

「世界に何千人といる冒険者の中で、個人でSランクなのはハルク殿ただ一人だけです!」
「えっ」
「あはは……まあ、一応そういうことになってるね」

 驚きながら隣を見ると、ハルクさんが苦笑しながら答えた。
 ……どうやらこの人、私の想像よりはるかにとんでもない人だったようだ。
 その後、エドマークさんはしばらくハルクさんの逸話いつわを語ってくれたけど、ハルクさんはたまれなくなってきたらしくおもむろに口を開く。

「ぎ、ギルマス。僕のことはもういいでしょう。それより用件を聞いてください」
「そう、その鬼神きじんのごとき剣撃は海を割り山をくだき、あらゆる魔物をまたたく間に――む、なんですかなハルク殿?」

 ハルクさんはエドマークさんの話をさえぎると、私を手で示す。

「彼女の冒険者登録をお願いします。彼女は今日から僕とパーティを組むので」
「……なんですと?」

 ハルクさんが言った瞬間、エドマークさんがぎろりと私を見た。
 あれ、なんだか急に視線がするどくなったような……

「ほう、あなたがハルク殿と……ほほう?」
「な、何が言いたいんですか?」

 エドマークさんに意味深に見つめられて思わずたじろぐと、彼はビシィッ! と私に指をつきつけてきた。

「でははっきり言いましょう。貴方あなたまさか、ハルク殿をたぶらかしたりしてないでしょうな?」
「してないですよ!?」

 急にどんな疑いをかけてくるんですかこの人は!

「ではなぜハルク殿が貴方あなたのような戦闘慣れしていなそうな少女をパーティメンバーに選ぶのです!? ハルク殿は冒険者なら誰もがあこがれる『剣神』! パーティメンバーなんて選び放題だというのに! これは何かあったに違いありません!」
「いや、あの、何かあったと言えばあったんですが……」
「『何かあった』!? やはり貴方あなたはハルク殿をその幼くもはかなげな美貌びぼうで誘惑したと!?」
「してませんってば!」

 どうしよう。話が全然通じない。最初はすごくいい人そうな感じだったのに!
 ……なんて、私が困っていると。

「――ギルマス?」

 ハルクさんが笑顔でエドマークさんに声をかけた。
 途端にエドマークさんが固まる。
 あれ、なんだろう。
 ハルクさんは笑ってるのに、妙に迫力が……
 エドマークさんは、ぎこちない動きでハルクさんに顔を向けた。

「は、はい……」
「セルビアは僕の恩人です。彼女にあまり失礼なことを言わないでもらえますか?」
「お、恩人ですと? いったい何があったのです?」

 エドマークさんに聞かれ、ハルクさんは昨日のできごとを説明した。

「……というわけで、彼女は回復魔術で僕の怪我けがを治してくれたんです」
「あ、ああ、あああ……わしはなんということを……!」

 エドマークさんはがくりとひざをつき、私に向かって勢いよく頭を下げた。

「すみませんでしたァアアア! 知らぬこととはいえ大変な失礼を……どうか気の済むまでわしなぐっていただきたい!」
「そんなことしませんよ!? 頭を上げてください!」

 私はあわててそう言うけど、エドマークさんはかたくなに姿勢を変えようとしない。
 私は戸惑とまどいつつ、エドマークさんに聞こえないよう小声でハルクさんに尋ねる。

「ハルクさん、この人は本当になんなんですか……?」
「……何年か前に、まだ現役冒険者だったギルマスを僕が助けたことがあってね。それ以来ずっとこんな感じだよ……」
「……なんだか納得しました」

 ハルクさんも私と同じように小声で答えながら、遠い目をしていた。
 私の中でエドマークさんへの印象は、すでに『ハルクさん信者』に固定されつつある。
 ハルクさんは苦笑いしながらエドマークさんに声をかけた。

「それでギルマス、セルビアの冒険者登録の話ですが」
「そ、そうでしたな。それでは登録テストをおこなうとしましょう」

 ようやくエドマークさんは立ち上がると、私たちを先導して、カウンターの椅子に座らせる。
 その後「準備してきますので少々お待ちを」と建物の奥に消えていった。
 待ち時間を使って、私はハルクさんに今更な質問をする。

「ところで、このテストってどんなものなんですか?」
「簡単に言うと、冒険者のランクを決めるためのものだね。与えられたランクによって、ギルドの待遇や受けられる依頼の内容が変わってくる」

 ハルクさんの説明によれば、ランクはSが最高位でA、B、C、D、E、Fの順に下がっていく。基本的にはFランクからスタートする冒険者が多いらしい。

「……ちなみに、テストの内容というのは?」
「それは個人の得意分野によって変わるから、なんとも言えないなあ」

 私が聞くと、ハルクさんは考え込むように腕を組んだ。

「僕みたいな剣士だったら模擬戦もぎせんだし、攻撃魔術が得意なら的当てなんだけど……もしセルビアの試験が回復魔術になるとしたら、その場合はどうなるかわからない。何せ見たことないからね」
「そうですか……」

 先にテストの内容を聞いて心の準備をしておきたかったけど、ハルクさんも知らないらしい。
 うう、胃が痛い。

「お待たせしました。試験内容はこれです」

 すると、エドマークさんが受付窓口の奥から何かを取ってきた。
 これは……植物の種?
 ハルクさんがそれを見て、エドマークさんに尋ねる。

「見たところ魔力植物の種ですね。これをどうするんですか、ギルマス」
「このマキアの種に回復魔術をかけ、発芽させるのです」

 どうやらこの種はマキアという植物のもののようだ。……というのはいいとして。

「あの、エドマークさん。魔力植物ってなんですか? 普通の植物とは違うんでしょうか」
「魔力を発生させる植物、と説明するのが手っ取り早いですな。大気中に満ちた魔力を我々は吸収し、魔力回路を通して利用しているわけですが、生物が放出した魔力はそのまま再び使うことができません。そのような『死んだ魔力』を『生きた魔力』に変換し、大気中に戻しているのが魔力植物です」
「はぁー……そんなものがあるんですね」

 思えば魔力なんてなんの気なしに使っていたけど、その大本おおもとなんて考えたこともなかった。そんな仕組みになっているんですね。
 ちなみに説明をしてくれている間、エドマークさんは生暖なまあたたかい目で私を見ていた。心なしか物知らずな子供に対する眼差まなざしに見えなくもない。
 話を戻すようにハルクさんがエドマークさんに尋ねる。

「それでギルマス、発芽とは?」
「はい。回復魔術は生命力を与えるもの。普通の動植物に使っても治療以外の効果はありませんが、マキアのような魔力植物にかければ別です。魔力植物は魔力を取り込んで育つため、回復魔術によって成長をうながすことができるのです。今からセルビア殿にはこのマキアの種に回復魔術をかけてもらい、その成長度合いに応じてランクを決定いたします」

 ハルクさんの質問に資料を見ながら応じるエドマークさん。どうやら支部長であるエドマークさんも回復魔術使いのテストは初めてらしい。
 私はエドマークさんに確認するように尋ねた。

「えっと、この種に回復魔術をかければいいんですよね?」
「その通りです、セルビア殿。しかし生半可なまはんかな回復魔術ではいけませんぞ。何しろこのマキアという植物は、本来の成長速度が相当に遅いですからな。思いっきりやってください」
「思いっきりですか。わかりました」

 エドマークさんの言葉に頷く。ここまで言うからには、マキアの種を成長させるには相当多くの魔力が要求されるんだろう。これは気合いを入れなくては。

「あ、セルビアちょっと」
「はい?」

 さあやるぞと意気込んでいたら、ハルクさんに手招きされた。なんだろう。

「……セルビア。一応言っておくけど、昨日僕に使った【聖位回復セイクリッドヒール】は禁止だ。元聖女候補だってバレてしまうからね」
「……なるほど」

 ハルクさんの耳打ちに頷いておく。
 私が元聖女候補だとバレたら色々と面倒なことになる。ここはハルクさんの言う通りにしておこう。


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