泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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『第一学院』③

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「まあ、ここにいない連中のことを考えていても仕方あるまい。お前は自分のことだけ考えていろ」
「は、はい」

 オズワルドさんが呆れたように言う。

 確かにその通りだ。『第一学院』での潜入任務にあたるのは私一人。今までのようにハルクさんに頼ることはできない。

 いや、まあ、緊急連絡用の魔道具うでわを鳴らせば数秒で駆け付けてくれそうではあるけど……原則的に、今回は私の独力でことに臨む必要がある。

 思えば教会を出てからずっと、隣にはハルクさんがいてくれた。
 私がひとりで何かをするなんて初めてのことだ。
 けれどこれも魔神討伐に必要なこと。頑張らなくては。

 ――と。


「おはようございます、オズワルド先生!」
「今日は早いんですね。何かの研究ですか!?」
「そっちの子はお知り合いですか? 制服着てませんけど、もしかして転入生とか?」


 黒いローブを羽織った女の子が三人、オズワルドさんの姿を見て駆け寄ってきた。
 『第一学院』の生徒だろうか?

 そんな三人に、オズワルドさんは淡々とした様子で応じる。

「研究のために早く来たわけではない。こいつは知り合いの連れだ。転入生になるかどうかは、これから受ける試験の結果による」
「そうなんですかー」
「もし受かったらよろしくね、きみ!」
「は、はい」

 気さくな感じで女子生徒たちに話しかけられる。

 一方私は思わず目を見開いてしまう。

 な――何という『学園』っぽい反応! 教会に置かれていた乙女向けロマンス小説で読んだ世界は実在したんですね……!

 謎の感動に包まれる私をよそに、オズワルドさんは女子生徒たちに面倒くさそうに告げた。

「いいからさっさと行け。お前たちも朝練か何かなのだろう。時間がなくなるぞ」
「「「はーい!」」」

 しっしっとオズワルドさんに追い払われ、女子生徒たちは去っていった。

 去り際、彼女たちが揃って「オズワルド先生と朝から話せちゃった!」と嬉しそうにしていたあたり、オズワルドさんの人気がうかがえる。

 それを見送って私は呟いた。

「オズワルドさんって、本当にここの先生なんですね」
「疑っていたのか」
「あ、いえ。そういうわけではありませんけど」

 そう、オズワルドさんはこの『第一学院』で教鞭をとっているらしいのだ。

 魔術学者であるオズワルドさんだけど、個人で研究をするより、どこかに所属したほうが素材調達や実験施設の確保などで有利なんだとか。

 今も私の付き添いというよりは、単なる出社のついでみたいな感じである。

「今更ですけど、オズワルドさんがこの学院にいるなら私はいらなかったんじゃ?」
「昨日説明しただろう。この学院には教師・生徒合わせて千人以上が在籍している。一人で監視しきれるものか」

 この『第一学院』は所属人数が多い。生徒だけでなく、一流の授業を行うために多数の教員を抱えているからだ。
 よってオズワルドさんは教員、私は生徒を観察して負担を分け合う方針である。

「そうでしたね。すみません」
「くだらん質問をしている暇があったら先を急ぐぞ」
「はい」

 オズワルドさんの案内で学院を移動していく。

 途中で生徒や教師とすれ違い、そのたびにオズワルドさんは尊敬の眼差しを浴びていた。
 ワープゲートやらセキュリティーホンやら、数々の魔道具を発明したオズワルドさんはやっぱりここの人間にとって憧れの的のようだ。

 ふーむ。

「オズワルドさんって普通にこの街に溶け込んでるんですね」

 私が質問すると、オズワルドさんは怪訝そうな顔をした。

「何が言いたい?」
「いえ、ハルクさんにはオズワルドさんは希少種族エルフだと聞いていたので、てっきり距離を置かれているものかと――むぐぐぐ」

 言い切る前にオズワルドさんの手で口をふさがれた。

 頭脳派らしいオズワルドさんだけど、男性だけあって予想より力が強い。……というよりギリギリと締め上げられて痛いんですが……っ!

 オズワルドさんは私の口をふさいだまま、その端正な顔を近づけて小声で言ってくる。

「……俺がエルフであることは周囲には隠している。絶対に他言するな」
「す、すみません。でも隠すって……?」
「エルフの特徴は耳の形状だ。だからその部分だけ変異させる魔道具を使えば、簡単に誤魔化せる」

 証拠を見せるように、オズワルドさんがさらさらの長髪をどかして耳を見せてくれる。

 するとそこにあったのは人間にしか見えない形の耳。

 ただしそこには不思議な色の石がついたピアスがつけられている。どうやらそれによって人間の耳の形に偽装しているらしい。

「なるほど。でも、そこまでして正体を隠す必要ってあるんですか?」
「ここをどこだと思っている? 魔術学者の聖地だぞ。エルフであるとバレれば、『細胞を寄越せ』『人体実験させろ』と言い出す研究中毒者バカがどれだけ現れることか」
「現れるんですか?」
「おそらく百人以上が押しかけてくるだろう」

 もしかしたら私は予想以上にとんでもない街に訪れているのかもしれない。

「この街は研究熱心な人が多いんですね」
「そんな生易しい表現では足りんがな。まあ、とりあえずこの件は黙っていろ。喋ればただでは済まさん」
「わ、わかりました」

 わざわざオズワルドさんを困らせる理由がない。大人しく従っておこう。

 そんなことを話しつつ移動していくと、目的の場所についた。

「ここだ」

 オズワルドさんが足を止めたのは、校舎の中のとある教室の前。

 上を見ると『測定室』と書かれたプレートがかかっている。

「あら、オズワルド先生。その子が例の?」
「ああ。後のことは頼むぞ、学院長」

 部屋の中に入ると、恰幅のいい年配の女性が待っていた。
 大きなつば広の帽子と丸眼鏡が特徴的で、何となく『魔女』っぽい外見だ。

 学院長……ってことは、この人はこの学院のトップということだろうか。
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