泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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『第一学院』

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 翌日。

「ここが『第一学院』だ」
「本当に来てしまいました……」

 私とオズワルドさんの目の前には荘厳な建物がそびえたっている。

 国立シャレア第一魔術学院。
 通称『第一学院』。

 その校舎を見上げながら、私は複雑な気持ちでオズワルドさんに尋ねた。

「確認ですがオズワルドさん。本当に私が一人でここに潜入するんですか?」
「その通りだ」
「ハルクさんもレベッカもいない状態で?」
「あいつらにはあいつらの役割がある。諦めろ」
「うう……」

 ばっさり切り捨てられた。ですよね。昨日そう言ってましたもんね。

「お前のするべきことはわかっているな?」
「第一学院の生徒に混ざって行方不明事件に関する情報を探る、ですよね」
「わかっているならいい。いつまでも門の前に立っていても時間の無駄だ。さっさと行くぞ」
「は、はい」

 つかつかと学院の中に歩いていくオズワルドさん。

 その背中を追いながら、私は昨日のやり取りを思い出していた。





「最初から説明してやる。まず、この行方不明事件の犯人だが、おそらく街中に潜伏している・・・・・・・・・・・・・

 場所はハルクさんの屋敷の客間。
 私に『第一学院に潜入しろ』と告げたあと、オズワルドさんはそう話し出した。

「な、何でそんなことがわかるんですか?」
「街への不自然な出入りがないからだ。外部から来た人間が街の人間をさらい、再び外に出ていく――そんなことが何度もあればどう考えても目立つ。
 しかし衛兵に張り込ませてもそんな形跡はなかった。よって犯人は街の中にいると考えられる」

 オズワルドさんの言葉にハルクさんが首を傾げる。

「オズワルド。行方不明者って何人だっけ?」
「七人だ」
「そんな人数をさらっておいて潜伏なんてできるの? 街中の捜査くらいしたんでしょ?」
「ここは魔術研究の最先端を行く街だ。何があってもおかしくはない。たとえば『人間を縮小するポーション』などな」
「あー……」

 オズワルドさんの言葉に、ハルクさんが呆れ半分納得半分のような声を出した。

 そんな可能性まで考慮しなくちゃならないんですかこの街は。

「そんなこと言い出したら、犯人が変なアイテム使ってこっそり街の外に出てる可能性もあるじゃねーか」

 レベッカの質問に、オズワルドさんは忌々しそうな表情で頷く。

「確かにその通りだ。……が、現在、街の外は首都から派遣された『中央魔術騎士団』によって検問や捜査が行われている。やつらの網を抜けて犯行を繰り返すのは難しいだろう」
「『中央魔術騎士団』ってーのは?」
「この国の誇る魔術の精鋭たちだ」

 リーベル王国でいう王立騎士団みたいなものだろうか。

 オズワルドさんいわく、その中央魔術騎士団は魔術を駆使して捜査を行うらしい。

 その調査能力はこの国屈指。

 何でも彼らは『地下に行方不明者を収容する施設があるケース』、『街の外から瞬間移動によってどこかに被害者を運んでいるケース』などすら想定して調べているんだとか。

 そんな人たちが見張っているなら、犯人が街の外に出ている可能性は低そうだ。

 レベッカが納得いかなさそうに腕組みをする。

「そんな連中がいるなら、街中もそいつらに調べてもらえばいいじゃねーか」
「愚問もいいところだな赤髪。そんな人手があればとっくにそうしている。連中は首都を守る仕事もある以上、この街には最低限の人数しか割り当てられていないのだ。
 少し考えればわかると思うが?」
「てめーは一言多いんだよなあ……!」

 ビキビキとこめかみを引きつらせるレベッカ。
 この二人は長時間会話させないほうがいいのかもしれない。

「それに分担の問題もある。街の外は騎士たちが、街の内部は賢者が調査することになっているのだ。その点からも、賢者の依頼を受けている俺たちが調べるのは街の中以外にない」
「……なるほど」

 犯人が街中にいようが街の外にいようが、私たちの調査範囲はあくまで街中ということらしい。

「話を戻すが、街中を調べるうえで外せないのが『シャレア国立第一魔術学院』――通称、『第一学院』だ」

 ようやく本題である。
 オズワルドさんの言葉に、ハルクさんが尋ねる。

「どうして学院が重要になるんだい? 事件が起きているのは街全体なんじゃないの?」
「行方不明者には共通点がある。それは魔力が高いことだ」
「……ふむ」
「『第一学院』は魔力量を入学の基準にしている関係上、高い魔力の持ち主が多い。犯人の目的が高魔力保持者なら、今後も『第一学院』の生徒が狙われる可能性は高いだろう。
 また、行方不明者である七人のうち、四人がここの生徒だ」
「七人中四人って、また随分と露骨だね……」

 失踪者には魔力の高さという共通点があり、この街には魔力の高い人間が集まる場所がある。
 さらに行方不明者の過半数がそこの所属。

 ハルクさんの言う通り、随分わかりやすい構図と言っていいだろう。

 レベッカが呆れたように言った。

「つーか、そこまでわかってたなら色々手は打てたんじゃねーの?」
「打ったに決まっているだろう。学院中に録画機能つきの小型ゴーレムを多数放ち、監視映像装置を設置した。さらに敷地全体と寮に頑丈な結界を張った。
 ……まあ、それでも事件は終わらなかったがな」

 苦虫を嚙みつぶしたような顔でオズワルドさんが言う。

 聞いた限りは相当厳重な警備をしていたようなのに、それでも生徒の失踪は続いたようだ。
 正直、とても信じられない。そんなことが有り得るのだろうか。

「ああ、それで潜入っていう話になるんだね」
「そういうことだ」
「え? ど、どういうことですか?」

 急に話が飛んだ気がする。
 なぜか納得しているハルクさんに尋ねると、ハルクさんはこう説明してくれた。

「ここまで警備を強めても事件が続くってことは、内部に犯人側の人間がいる可能性が高いってことだよ」
「!」
「監視装置の位置、学校や寮への侵入経路……関係者でないなら、そのあたりはわかりっこないからね」

 確かにハルクさんの言う通りだ。オズワルドさんの説明したような強固な警備を突破してきた以上、内部に情報提供者がいる可能性は高い。

「もちろん調査はしたが、外部からの聴取では怪しい者は見つからなかった。となるとこちらも内部に潜り込み、調査する必要があるだろう」

 ハルクさんの言葉にオズワルドさんも頷く。

「あの、オズワルドさん。潜入する理由はわかりましたけど、どうして私なんでしょうか?」

 正直、そんな大役を務める自信はまったくない。

「『第一学院』に入学できるのは高い魔力を持つ者だけだ。もし魔力の低い人間が編入すれば、内部にいるであろう犯人や共犯者に違和感を与え、警戒されてしまう」
「……なるほど」

 ハルクさんは剣士であり、この街ではすでに顔が割れている。
 レベッカは『神造鍛冶師』として特別な力を持っているけど、魔力は高くない。

 消去法で私というわけだ。
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