上 下
42 / 113
連載

失踪事件と今後のこと

しおりを挟む

 オズワルドさんは言葉を続ける。

「現在この街では警備が厳重になっている。たとえば警備用ゴーレムの反応が過激になっていたりな。お前たちは違和感を覚えなかったか?」
「違和感も何も、さっき追い回された直後だよ……。けど、そういう理由だったのか。ようやく腑に落ちたよ」

 納得したように言うハルクさん。

 さっき警備用ゴーレムに追い回されている途中、確かにハルクさんもそんなことを言っていた気がする。
 警備用ゴーレムの様子が過敏すぎるとかなんとか。

 あれはこの街で起きている事件が背景になっていたようだ。

「つまりその行方不明事件の調査をオズワルドが賢者様に依頼されたと?」
「その通りだ」
「……よく引き受けたね? きみ、普段は自分の研究が第一じゃないか」
『それについては交換条件じゃな』

 ハルクさんの疑問には映像の向こうから賢者様が答える。

「交換条件?」
『オズワルド君の研究する【空間】魔術には、希少な魔術素材が必要になる。儂の持つそれを譲る代わりに事件の解決を依頼しとったんじゃよ』
「なるほど。そういうことでしたか」
「『古龍の眼球』を二つ譲渡すると言われたのだぞ。依頼を受けないわけにもいかん」

 何となく事情が見えてきた。

 オズワルドさんの研究分野はかなり特殊だと事前に聞いていた。
 その研究のために必要な素材を取引材料に、賢者様はオズワルドさんに事件解決を頼んでいたと。

 オズワルドさんはさらに言う。

「それにこの事件が解決できない限り、お前たちの頼みもどのみち叶わん」
「どういう意味だい、オズワルド」
「簡単な話だ。『隔離結界』を作るためには強力な魔術素材が必要になる。それこそ事件の解決報酬である『古龍の眼球』クラスでなくてはな。
 つまりこの事件を解決しないことには、隔離結界は作れない」
「……なるほどね」

 行方不明事件を解決すれば『古龍の眼球』が手に入る。
 それを使わなければ、魔神討伐用の隔離結界を作ることはできない。

 つまり私たちがこの街に来た目的を果たすためには、事件の解決が必須というわけだ。

『結界? 何のことじゃオズワルド君』
「こっちの話だ。黙っていろメイド狂い」
『ふっ、メイドさんに狂うなら本望じゃと思わんか?』
「わかったからもう本当に黙っていろ」

 賢者様とのやり取りに疲れたように溜め息を吐くオズワルドさん。

 これは普段から色々と苦労していそうだ。

 と、ここで映像の向こうで賢者様を呼ぶ声がする。

『――む、もうこんな時間か。すまんがオズワルド君、あと頼むぞい』
「ああ、もう十分だ。とりあえずこの三人が調査に協力するということだけ伝えたかった」
『ハルク君が協力してくれるなら百人力じゃな。期待しとるよ』

 プツッ。
 ここで映像が切れて賢者様の姿は見えなくなった。

 オズワルドさんが向き直ってくる。

「ともかく、そういう理由だ。お前たちにも行方不明事件の調査を手伝ってもらう」
「うん、構わないよ」
「わかりました。お役に立てるよう頑張ります」
「じゃーねえ、いっちょやるか!」

 ハルクさん、私、レベッカの順にそう応じる。
 せっかくここまで来たんだから、当初の目的を果たしてみせる!

(……まあ、オズワルドさんが本当に欲しているのはハルクさんの力でしょうけど)

 ハルクさんは戦闘力だけでなく【生体感知】による探査能力にも秀でている。

 鑑定能力持ちのレベッカはともかく、今回の件で私がそこまで役に立てるとは――

「ちなみにお前たち三人でもっとも魔力が高いのは誰だ?」
「セルビアだね」
「間違いなくセルビア一択だな」
「よし、では金髪。お前がもっとも重要な役割だ。絶対に失敗するなよ」
「えっ」

 何だか流れるように予想外の展開になった気がする。

「ま、待ってください! 私が重要な役割ってどういうことですか!?」

 この場にはハルクさんもいるというのに私が重要なポジションにつく理由がわからない。

 私の疑問にオズワルドさんはこう言った。


「結論から言うぞ。セルビア、お前にはこの街にある魔術学院の一つ――『国立シャレア第一魔術学院』に潜入してもらう。事件の調査をするためにな」


 魔術学院に潜入。……私が?

「本気で言っていらっしゃいますか?」
「当然だ」

 頷くオズワルドさん。

 ……えっと。
 行方不明事件の調査のはずなのになぜそんな話になるんだろう?

 というか私、学校に通ったことも、魔術について学んだこともないんですが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。