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交換条件
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『お待たせいたしましたお客様方。こちら紅茶とクッキーでございます』
「「「………………」」」
場所は通された屋敷の客間。
湯気の立つティーカップやクッキーを並べた皿をテーブルに載せつつ、とても綺麗な口調で喋る『それ』を目の当たりにして私たちは困惑してしまう。
「何だお前たち、揃って間抜けな顔を浮かべて。そんなにその『執事ゴーレム』が珍しいか」
「いや、珍しいでしょこんなの」
「他の街では見たことありませんもんね」
「つーかまたゴーレムかよ……この街どんだけこれがいるんだよ……」
オズワルドさんの言葉に私たちはそれぞれそんなコメントを返す。
そう、紅茶やお茶菓子を並べているそれは執事服を着ているものの明らかに人間ではなかった。
仮面をつけている顔はともかく、手や首元からは焦げ茶色が覗いている。
一言で表すと『執事服を着た展示人形』という感じだ。
どうやらこれもゴーレムらしい。
「これもオズワルドが作ったの?」
「試作品だがな。熟練した執事の思考パターンをトレースしてある。かなり便利ではあるが、一体作るのに二億ユールかかるから普及はまだ先だろうな。
……そういうわけだから絶対に壊すなよそこの赤髪」
「何であたしだけなんだよ」
「一番粗暴そうだからだ」
「言ってくれるじゃねえか……」
ひくひくと口元を引きつらせるレベッカ。
「つーか外見に関してとやかく言われたくねえなあ。あたしが粗暴ならお前はどこぞのお坊ちゃまかよ、家の中でまでそんなカッチリした服着やがって」
「……なんだと?」
「やんのか?」
レベッカとオズワルドさんが早くも険悪な雰囲気になりつつある。どうやらよっぽど相性が悪いらしい。
そんな中、ぱんぱんと手を叩く音が響き渡る。
「――ねえ二人とも、まさか家の中で喧嘩なんてしないよね?」
「「…………、」」
ハルクさんのにっこり笑顔にレベッカとオズワルドさんは揃って顔を背けた。
不思議だ。あんなに朗らかな笑顔なのに凶暴な猛獣を前にしたような威圧感を覚える。
「それからオズワルド。彼女たちは今の僕にとって大切な仲間だよ。侮辱しないでほしい」
「……フン」
オズワルドさんはつまらなさそうに鼻を鳴らしたけど、それ以上何か言ってくることはなかった。
「やーい怒られてやんの!」
「………………、」
「レベッカそこまでです。オズワルドさんの額に青筋が浮かんでいますから」
せっかく落ち着いたのにどうして煽るのか。初対面でこの仲の悪さは想定外だ。
オズワルドさんは舌打ちをしてハルクさんに向き直った。
「まあいい。それよりさっさとここに来た事情を話せ。手紙では何か俺に協力してほしいことがあると言っていたな」
オズワルドさんに促され、ハルクさんが頷く。ようやく本題だ。
私たちは頷き合い、代表してハルクさんが説明を始める。
「僕たちの目的は魔神を討伐することで――」
ハルクさんが事情を話す。
オズワルドさんは黙って聞き、ハルクさんが話し終えた後にフンと鼻を鳴らした。
「つまりその魔神とやらと戦うための場所が欲しいわけか」
「うん。迂闊に魔神を復活させると被害が馬鹿にならないからね。けれど、ただ広い場所に移せばいいというわけでもない」
「そこで隔離結界というわけか。魔神の被害が及ばないよう、この世界とは異なる場所を作って閉じ込めると。……確かに、その方法なら魔神とやらの悪影響も無視できるな」
オズワルドさんは納得したように頷く。
「それでこの二人が元『聖女候補』に『神造鍛冶師』というわけ――……」
『それにしてもこのクッキー美味しいですね』
『そうだな――ってセルビア! お前食いすぎだろ!? さっきまで三十枚くらいあったのが空になってるじゃねーか!』
『え? あ、これはその、教会で甘いものが禁止されてた反動というか……す、すみません……』
『――コチラ追加ノ焼キ菓子ニナリマス』
『わーい!』『よっしゃーっ!』
「……世も末だな」
「二人とも……」
何だろう。何だかオズワルドさんとハルクさんから呆れた視線を向けられているような気が。
気を取り直すようにハルクさんは説明を続ける。
「と、とにかく。魔神を隔離できるほど大規模な結界を作れる人物なんてそうはいない。オズワルド、これはきみにしか頼めないことなんだ。もちろん相応の謝礼はさせてもらう」
「……」
オズワルドさんは少し考え込むように黙り込んだ。
「(……そういうことなら丁度いいか)」
あれ、何かオズワルドさんが小声で呟いたような?
何事もなかったかのようにオズワルドさんが言う。
「普段なら間違いなく断っているところだが、今回に限り受けてやらんでもない」
「ありがとうオズワルド。きみならそう言ってくれると――」
「ただし一つ条件がある」
「条件?」
ハルクさんが尋ね返すとオズワルドさんは頷いた。
「俺は現在、面倒な『依頼』を抱えていてな。その解決に手を貸すなら協力してやる」
どうやらオズワルドさんは別件で何か仕事を抱えているようだ。
この街にワープゲートなんてものを設置するような人だし、多忙なのは不思議なことじゃない。
ハルクさんに視線を向けられたので私とレベッカも頷き返す。
「わかった。僕たちにできることなら協力するよ。具体的に何をしたらいい?」
「細かい話についてはこれからする。――が、依頼人も交えて話したほうが手っ取り早いだろうな」
「依頼人?」
ハルクさんの質問にオズワルドさんは端的に答えた。
「この街の長。当代の『賢者』だ」
「「「………………」」」
場所は通された屋敷の客間。
湯気の立つティーカップやクッキーを並べた皿をテーブルに載せつつ、とても綺麗な口調で喋る『それ』を目の当たりにして私たちは困惑してしまう。
「何だお前たち、揃って間抜けな顔を浮かべて。そんなにその『執事ゴーレム』が珍しいか」
「いや、珍しいでしょこんなの」
「他の街では見たことありませんもんね」
「つーかまたゴーレムかよ……この街どんだけこれがいるんだよ……」
オズワルドさんの言葉に私たちはそれぞれそんなコメントを返す。
そう、紅茶やお茶菓子を並べているそれは執事服を着ているものの明らかに人間ではなかった。
仮面をつけている顔はともかく、手や首元からは焦げ茶色が覗いている。
一言で表すと『執事服を着た展示人形』という感じだ。
どうやらこれもゴーレムらしい。
「これもオズワルドが作ったの?」
「試作品だがな。熟練した執事の思考パターンをトレースしてある。かなり便利ではあるが、一体作るのに二億ユールかかるから普及はまだ先だろうな。
……そういうわけだから絶対に壊すなよそこの赤髪」
「何であたしだけなんだよ」
「一番粗暴そうだからだ」
「言ってくれるじゃねえか……」
ひくひくと口元を引きつらせるレベッカ。
「つーか外見に関してとやかく言われたくねえなあ。あたしが粗暴ならお前はどこぞのお坊ちゃまかよ、家の中でまでそんなカッチリした服着やがって」
「……なんだと?」
「やんのか?」
レベッカとオズワルドさんが早くも険悪な雰囲気になりつつある。どうやらよっぽど相性が悪いらしい。
そんな中、ぱんぱんと手を叩く音が響き渡る。
「――ねえ二人とも、まさか家の中で喧嘩なんてしないよね?」
「「…………、」」
ハルクさんのにっこり笑顔にレベッカとオズワルドさんは揃って顔を背けた。
不思議だ。あんなに朗らかな笑顔なのに凶暴な猛獣を前にしたような威圧感を覚える。
「それからオズワルド。彼女たちは今の僕にとって大切な仲間だよ。侮辱しないでほしい」
「……フン」
オズワルドさんはつまらなさそうに鼻を鳴らしたけど、それ以上何か言ってくることはなかった。
「やーい怒られてやんの!」
「………………、」
「レベッカそこまでです。オズワルドさんの額に青筋が浮かんでいますから」
せっかく落ち着いたのにどうして煽るのか。初対面でこの仲の悪さは想定外だ。
オズワルドさんは舌打ちをしてハルクさんに向き直った。
「まあいい。それよりさっさとここに来た事情を話せ。手紙では何か俺に協力してほしいことがあると言っていたな」
オズワルドさんに促され、ハルクさんが頷く。ようやく本題だ。
私たちは頷き合い、代表してハルクさんが説明を始める。
「僕たちの目的は魔神を討伐することで――」
ハルクさんが事情を話す。
オズワルドさんは黙って聞き、ハルクさんが話し終えた後にフンと鼻を鳴らした。
「つまりその魔神とやらと戦うための場所が欲しいわけか」
「うん。迂闊に魔神を復活させると被害が馬鹿にならないからね。けれど、ただ広い場所に移せばいいというわけでもない」
「そこで隔離結界というわけか。魔神の被害が及ばないよう、この世界とは異なる場所を作って閉じ込めると。……確かに、その方法なら魔神とやらの悪影響も無視できるな」
オズワルドさんは納得したように頷く。
「それでこの二人が元『聖女候補』に『神造鍛冶師』というわけ――……」
『それにしてもこのクッキー美味しいですね』
『そうだな――ってセルビア! お前食いすぎだろ!? さっきまで三十枚くらいあったのが空になってるじゃねーか!』
『え? あ、これはその、教会で甘いものが禁止されてた反動というか……す、すみません……』
『――コチラ追加ノ焼キ菓子ニナリマス』
『わーい!』『よっしゃーっ!』
「……世も末だな」
「二人とも……」
何だろう。何だかオズワルドさんとハルクさんから呆れた視線を向けられているような気が。
気を取り直すようにハルクさんは説明を続ける。
「と、とにかく。魔神を隔離できるほど大規模な結界を作れる人物なんてそうはいない。オズワルド、これはきみにしか頼めないことなんだ。もちろん相応の謝礼はさせてもらう」
「……」
オズワルドさんは少し考え込むように黙り込んだ。
「(……そういうことなら丁度いいか)」
あれ、何かオズワルドさんが小声で呟いたような?
何事もなかったかのようにオズワルドさんが言う。
「普段なら間違いなく断っているところだが、今回に限り受けてやらんでもない」
「ありがとうオズワルド。きみならそう言ってくれると――」
「ただし一つ条件がある」
「条件?」
ハルクさんが尋ね返すとオズワルドさんは頷いた。
「俺は現在、面倒な『依頼』を抱えていてな。その解決に手を貸すなら協力してやる」
どうやらオズワルドさんは別件で何か仕事を抱えているようだ。
この街にワープゲートなんてものを設置するような人だし、多忙なのは不思議なことじゃない。
ハルクさんに視線を向けられたので私とレベッカも頷き返す。
「わかった。僕たちにできることなら協力するよ。具体的に何をしたらいい?」
「細かい話についてはこれからする。――が、依頼人も交えて話したほうが手っ取り早いだろうな」
「依頼人?」
ハルクさんの質問にオズワルドさんは端的に答えた。
「この街の長。当代の『賢者』だ」
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