泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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魔術都市③

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 警備用ゴーレムが大音量を鳴らしたあと、すぐにその効果が表れ始める。


『捕縛対象ヲ確認』
『住民顔認証コードニ反応シマセン』
『タダチニ捕エマス』
『ナンバー5、ナンバー17ガ西通リカラ急行中デス』


 何だか続々と警備用ゴーレムが増え始めた。

 現れた警備用ゴーレムたちは背から巨大な剣を構えて完全に臨戦態勢だ。会話の余地があるようにはまったく見えない。というか、会話する機能があるかもわからない。

「あの、ハルクさん。これって……」
「仕方ない、逃げるよ! レベッカもついてきて!」

 ですよね!

 ハルクさんが私を抱え上げ、そのままレベッカと揃って警備用ゴーレムとは真逆に走り出す。

「ハルクさん、これ逃げちゃって大丈夫なんですか!?」
「この街の警備用ゴーレムはとにかく手加減できないことで有名なんだ! あんな状態のゴーレムたちに無抵抗で捕まったりしたら大変なことになる!
 ここは一旦撒いて、詰め所で管理者に説明したほうがいい!」
「なるほど!」

 確かに大剣を振り上げて追いかけてくるあのゴーレムたちがこちらの事情を聞いてくれるとは思えない。

「くそ、あいつら厄介すぎだろ!? 何でこんなことになったんだ……!」
「「――レベッカのせいだ(です)よ!」」

 レベッカの言葉に私とハルクさんの突っ込みがシンクロした。
 レベッカが警備用ゴーレムを蹴飛ばしたりしなければこんなことにはならなかったはず!

 そのまま逃げ続ける私たち。


『住民ノ皆サマニ伝達。現在、警備用ゴーレムニ攻撃シタ者タチガ『英雄広場』付近ヲ逃走中デス。注意シテクダサイ』


 街の各所に存在する拡声器から声が響く。どうしよう、どんどん大事になってる!

「ハルクさん、この街は普段からこんな感じなんですか!?」
「いや、さすがにここまで大袈裟じゃなかったと思うんだけど……」

 私が聞くと、ハルクさんも首を傾げている。

 レベッカが警備用ゴーレムを攻撃したのは事実だけど、あれは一方的にレベッカを捕まえようとしたゴーレム側にも非があると思う。
 こんなことでいちいち騒ぎになっていたら住民も大変じゃないだろうか。

 やがて私たちは大きな広場に出た。

 いたって普通の広場だけど、中央に大きな銅像が立っている。
 片方が男性、もう片方が女性だ。

 どちらも剣士のようで、銅像は勇ましく剣を振り上げるポーズを取っている。

(……あれ? あの像って……)

 何だろう。
 あの男性の方の像、何だか見覚えのある顔をしているような……?

「目標発見! 『英雄広場』に急行せよ!」

 と、広場の端から鋭い声が飛んだ。

 そこにいたのは鎧を纏った人間の男性。
 どう見ても衛兵だ。この街には人間の衛兵が少ないと聞いていたけどゼロではないらしい。

 続いて私たちを追っていた警備用ゴーレムたちも追いついてくる。

「ど、どうすんだよハルク、セルビア。やっちまうか?」
「お願いですから大人しくしていてくださいレベッカ……」

 これ以上事態をややこしくするわけにはいかない。

「……仕方ないか」

 続々と集まってくる衛兵、警備用ゴーレムたちを見てハルクさんが溜め息を吐いた。

 それから、ずっと頭に巻いていた布を取り払う。

「――! あ、あなたは……『剣聖』様! 『剣聖』様ではありませんか!?」

 ハルクさんの顔を見て衛兵が顔色を変える。

 どうやらこの衛兵はハルクさんのことを知っていたようだ――ってあれ? 今何だか呼び方がおかしくありませんでした?

「覚えていていただけたようで何よりです」
「もちろんですとも! この街の人間で『剣聖』様を知らない者はいません! 五年前、『剣神』様とともに悪しき竜から街を守ってくれた救世主ですからね!」

 衛兵が感動したように言っている。

 広場にいた街の住民たちも、さっきまでの緊迫した空気が嘘のように「『剣聖』様だ」「あの『剣聖』様が帰ってきてくれたんだ!」と騒ぎ出し始める。

 どうやらハルクさんはこの街の人たちに人気があるようだ。

 そしてやっぱりハルクさんのことを剣『聖』と呼んでいる。

 ハルクさんの二つ名は剣『神』のはずなのに、これは一体どういうことだろうか。
 何だかよくわからない。

「それよりも騒ぎを起こしてすみません。仲間に対して警備用ゴーレムの説明をしていなかった自分の落ち度です」
「いえいえ何の何の! 『剣聖』ハルク様のお連れの方でしたらもちろん不問にさせていただきます!」
「感謝します」
「では自分たちはこれで!」

 衛兵は警備用ゴーレムを操り去っていった。
 どうやら何とかなったようだ。

 そこで私はふと気付いた。

 この広場の真ん中にそびえる銅像。
 男女一対のそれのうち、男性のほうに見覚えがあった理由について。

 同じことを思ったらしい、レベッカが話しかけてくる。

「なあセルビア、ここ英雄広場っていうらしいな」
「そうですね」
「で、その真ん中にある銅像の片方、どう見てもハルクだよなこれ」
「どう見てもそうですね」

 レベッカの言う通り、男性のほうの銅像はハルクさんにそっくりだ。

「それにこの銅像、ハルクの方が『剣聖』で、女のほうが『剣神』ってなってるぞ。『剣神』はハルクの二つ名じゃなかったのか?」
「そのはずですが……」

 もう何が何だかわからない。

 レベッカと一緒に視線を向けると、ハルクさんは力なく笑いながら言った。

「……とりあえず、歩きながら説明するよ」
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