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魔術都市②
しおりを挟む「おうおうお前、両脇に女侍らせやがっていいご身分だな!」
「ここが俺たち『第二魔術学院』のナワバリだってわかってんのかぁ?」
「「「ぎゃははははははははっ!」」」
揃いの服を着た三人組の青年たちが、そんなことを言って私たちの前で笑っている。
ハルクさんは珍しいものでも見たようにきょとんとしていて、レベッカは「あん?」と臨戦態勢に入りつつある。
……経緯を説明すると。
私たちは賢者広場からハルクさんの屋敷に向かう途中だった。
途中で人けの少ない裏道に入ったところ、見事に絡まれたという状況だ。
「お前ら見ねえ顔だな? よそ者か?」
「ここを通りたかったら有り金全部寄越しやがれ!」
「逃げられるなら逃げてもいいぞ。ま、『第二学院』の俺たちから逃げきれるなら、だけどなぁ」
ニヤニヤと笑いながら迫ってくる三人組。
ふーむ。
「ハルクさん。第二学院って何のことですか?」
「この街にある魔術学院の一つだね。第一学院と第二学院があって、どちらも世界的に有名な教育機関なんだ。魔術学院は立派な建物だし、あとで見学に行ってみる?」
「それはいいですね! 是非行きたいです!」
「おうそこの二人、俺たちの話聞いてるか!? 何でそんなに余裕なんだコラァ!」
三人組の一人が顔を真っ赤にして喚いている。
残念ながら迷宮の主やらドラゴンゾンビやらを相手取ってきた身としては、今更街の不良くらいではもう動揺したりしないのである。
それにしても、魔術学院の生徒か。
彼らは三人とも軍人のような服装をしている。きっとあれが『第二学院』の制服なんだろう。
「いい度胸だなてめぇら! ブッ飛ばしてやる!」
三人組が杖を取り出して構える。
それに対してハルクさんが何かする前に、レベッカが前に出た。
「丁度いいぜ。あたしも武器の使い心地を試しときたかったんだ」
「……あんまりやり過ぎないでね、レベッカ」
「わーってるよ」
第二学院の三人組が魔術を使う。
風や氷を操る魔術だ。炎なんかじゃないのは、街中であることに気を遣ったのかもしれない。
――それをレベッカが背中から抜き放った大刀で見事に弾き飛ばした。
「なっ!?」
「この女、剣で俺たちの魔術を防ぎやがった!?」
驚愕する三人組。
まあ、魔術を力づくで吹き飛ばされれば驚きますよね。
『神造鍛冶師』の権能――常人離れした怪力――は今日も絶好調のようだ。
余談だけど、レベッカはメタルニアを出るにあたって自分の工房から武器を持ちだしている。今彼女が持っている刃渡り一Мを軽く超す大刀がそれである。
「何だよ歯ごたえねーなあ。そんじゃこっちの番な」
「「「ぎゃああああああああああああああっ!」」」
レベッカの反撃によって三人組はあっさりやられてしまった。
「……あの、レベッカ。彼らはちゃんと生きてるんでしょうか」
「みねうちだから大丈夫だろ」
「レベッカの腕力だとそれでも十分痛いような……」
というか薄々思っていたけど、レベッカって相当強いのでは? レベッカとハルクさん相手に絡んでしまった不良三人組はかなり運が悪かったと言わざるを得ない。
そうこうしていると、道の奥から何かが現れる。
『――、』
「うおっ、何だこいつ!?」
「魔物ですか……? こんな場所に!?」
私とレベッカが思わず臨戦態勢に入る。
それは異様な存在だった。ずんぐりした体形で、高さは二Мを超えている。
二足歩行だけど、人型というには重量感があり過ぎる。
それを見てハルクさんが後ろから声をかけてきた。
「ああ、違う違う。それは魔物じゃなくて警備用ゴーレムだよ」
「警備用ゴーレム……」
……って、何だろう?
私の疑問顔に苦笑しながらハルクさんが説明してくれる。
「この街では衛兵の代わりに魔力で動くゴーレムが街中を巡回するんだ。事前に衛兵の行動パターンを埋め込んであって、その通りに動く。ここの騒ぎを聞きつけて様子を見に来たんじゃないかな」
「はあー……そんなものがあるんですか」
人間の衛兵の代わりにゴーレムが警備を行うなんて、さすが魔術都市。他の街ではこんなもの見たことがない。
そんなことを話している間、警備用ゴーレムは気絶している不良少年たちを一か所に集めている。まとめて詰め所まで引きずっていくつもりだろうか。
それはいいんだけど――
「ちょっ、何であたしまで掴むんだよ」
『街中デノ乱闘ハ禁止サレテイマス。詰メ所マデ同行願イマス』
「いや、だからあたしは絡まれただけで」
『繰リ返シマス。街中デノ乱闘ハ禁止サレテイマス。詰メ所マデ同行願イマス』
「何だこいつ全然話通じねえ!」
なぜか警備用ゴーレムはレベッカまで連れて行こうとしていた。
どうやらレベッカも乱闘騒ぎの現行犯扱いされているらしい。
こっちは絡まれた被害者側だというのに!
「は、ハルクさん、どうしましょう」
「うーん……警備用ゴーレムは融通が利かないからなあ。とりあえず詰め所まで言って事情を説明するしかないかな」
「それで大丈夫なんですか?」
「うん。うっかり攻撃さえしなければ大丈夫なはずだよ」
なんて私とハルクさんが話していると。
「こんのっ……いい加減にしやがれこのポンコツ!」
『ガッ!?』
あ、レベッカが警備用ゴーレムを蹴飛ばした。
『神造鍛冶師』の怪力によって吹き飛ばされた警備用ゴーレムは壁に叩きつけられ胴体部分に亀裂が走っている。
「「……」」
それを見て沈黙する私とハルクさん。
あれ? これまずいことになってません?
確か攻撃はしないほうがいいってさっきハルクさんが言っていたような。
「へっ、ざまあみやがれ! 人の話を聞かねえからだ!」
レベッカがそんな声を上げる前で、警備用ゴーレムの瞳部分がぎらりと光り――
『――防衛機能ヘノ攻撃ヲ確認。対象を警邏妨害者トシテ捕縛シマス』
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッッ!!
突如として警備用ゴーレムが大音量を鳴らし始めた。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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