泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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森の中

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「見えてきたね。あれがシャレアの街だよ」
「「おおーっ!」」

 ハルクさんの言葉にシャンの背中に乗る私とレベッカが歓声を上げる。

 メタルニアを出発してから半月ほどが過ぎ、私たちは目的地であるシャレアの街のすぐそばまでやってきていた。
 ハルクさんの言う通り、前方には立派な外壁とその奥の街並みが見えてきている。

 このぶんならあと一時間もしないうちに着くことだろう。

「シャン、もう少しだけ頑張ってくださいね」
『ぐるるっ』

 そんな感じで背に乗せてくれているシャンに声をかけていると。

「よし、このあたりで一旦降りよう」

 タックにまたがるハルクさんがそんなことを言った。

「降りる? どうしてですか?」
「詳しいことは地上で説明するよ」

 ハルクさんはそう言ってタックに乗ったまま下降していく。
 その意図は私にはわからなかったけれど、とりあえずハルクさんについていくようシャンに指示を出した。

 数分後、私たちは地上に降りた。

「それでハルクさん、どうして下りたんですか?」

 場所は森の中。街まではまだ少し距離がある。
 私の疑問にハルクさんはこんな答えを返した。

「街に行く前にシャンとタックはここに置いていったほうがいい」
「なぜですか?」

 飛竜は確かに珍しい生物だけど、別に街に入れてはいけないというものではないはず。
 実際にメタルニアでは怖がられこそしたものの、宿の厩舎で馬と同じように預かってくれたわけだし。

「シャレアでは竜が恐れられているんだ。数年前、街が竜の大群に襲われたことがあったからね」
「……そんなことがあったんですか」
「うん。竜がいると街に入れてもらえない可能性もあるくらいだ」

 ハルクさんの重々しい言葉に何も言えなくなってしまう。

 街に魔物が大量に攻めてくる、というのは他人事じゃない。つい先日、王都で似たような光景を見たばかりだ。

 迷宮暴走の一件を思い出せば、シャレアの人たちの心情も想像できる。

 シャンたちは決して無暗に人を襲ったりしない。
 けれどシャレアの人たちにそれを理解してもらうのは難しいのかもれしない。

 私はちらりとシャンとタックに視線を移した。

「ですが、シャンたちもこんなところに置いて行ったら寂しがると――」


『グゥ……スゥ……(シャン:眠っている)』
『グァアアアアアア……(タック:疲れを癒すように伸びをしている)』


「……なあセルビア。わりと平気そうじゃね?」
「そうですねレベッカ。私もそんな気がしてきました」

 シャンとタックは木漏れ日を浴びながらのんびりと休憩していた。

 思えばこの二体にはメタルニアからずっと私たちを運ばせてしまっていた。
 メタルニアでは厩舎で窮屈な思いもさせてしまったし、今回はこのあたりで羽を伸ばしてもらうのもいいかもしれない。

「けど、こんなところに放置したら逃げてっちまうんじゃねえか?」
「そうだね。いくらしつけた生き物でも、長期間放っておかれればいつまでも待っていてはくれないだろう」

 そんな二体の姿を見て、ハルクさんとレベッカがそんなことを話している。

「そんなことないと思いますけど……シャン、タック、すみませんがしばらくこの森で待っていてくれますか? あとで迎えに来ますから」
『ぐるるる』
「『ブラッシングはどうするんだ』ですか? ……うーん、それなら数日に一度ここに来て私がやりますよ」
『フシューッ』
「わかりました。晴れた日のお昼ごろですね。ちゃんと来ますから、私が呼んだら戻ってきてくださいね」

 私はやり取りを終えてハルクさんたちを振り返った。

「二体ともこの森で待っていてくれるみたいです」
「……おいハルクどうすんだよこれ。ついに竜と会話し始めたぞ」
「もう懐いてるとかいう次元を超えつつあるよね……」
「あれ、あの、二人とも? 聞いてますか?」

 シャンとタックにきちんと待機してもらう手はずが整ったというのに、二人はなぜか呆れたような視線を向けてきていた。

 ちなみに私は別にシャンたちと会話できているわけではなく、向こうがこっちの言葉を理解してきちんと意思表示をしてくれているだけである。

 案外この二体は頭がよかったりするのだ。

「ともかく行こうか。ここからシャレアまではそこまで遠くないからすぐ着くよ」
「「はーい」」

 そんなわけで私たちはシャンとタックと別れて街に向かうのだった。



 ……。

「ところでハルクさん、何で布を巻いて顔を隠しているんですか?」
「セルビアの言う通りだぜ。何でそんなこそこそしてんだよ、ハルク」

 私とレベッカが尋ねる。

 ハルクさんはターバンのように頭に布を巻いていた。
 普段はそんなことはしていないはずなのに。まるで正体がバレるとまずいことでもあると言わんばかりだ。

「いや、まあ、その……気にしないでくれると嬉しいかな」
「「?」」

 誤魔化すように笑うハルクさんに、私とレベッカは顔を見合わせるのだった。
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