26 / 29
悪女ミリーリア2
しおりを挟む
「フォード様もアイリスが疎ましかったのではありませんか? 呪いに侵された子供など」
「……」
フォードはため込んだ怒気を制御するように、小さく息を吐く。
「話にならない。俺はノクトール家に行く」
「アイリスを連れ戻すつもりですか? あなたはアイリスのことが邪魔だったのでは?」
「そんなことは言っていない」
「では、なぜアイリスを冷遇するのです?」
「お前には関係のないことだ」
「――亡くなったナイア・レオニス様の代わりとして、手元に置いておきたいのですか?」
一線を越えた。
「……っ」
私の喉元に巨大な金属の刃が突きつけられる。
一応言っておくと、フォードは動いていない。
フォードの鋼を操る魔術によって地面から大剣の刃が三つも生え、それが三方向から私を囲んでいるのだ。少しでも動けば私は串刺しになるだろう。
「それ以上口を開くな。その名はお前が口にしていいものではない」
冷静に聞こえるけど、フォードの迫力が一瞬前とは比べ物にならない。
間違いなく、フォードは怒り狂っている。
意思の力で無理やり無表情を保っているだけだ。
怖い。
本当に怖い。
けど、言うことは聞かない。
「質問の答えを、もらっていませんが」
「口を開くな、と言ったぞ」
「アイリスはナイア様の代わりですか?」
「――そんなはずがないだろう!」
とうとうフォードが怒鳴り声を上げた。
「アイリスはアイリスだ。ナイアの代わりであるはずがない」
「では、連れ戻す必要などないでしょう」
「アイリスはナイアの娘だ。非道な目に遭うと言われて放置できるはずがないだろう」
「では、アイリスが大切だとでも言うのですか?」
「俺は今、アイリスのために生きているようなものだ。そうでなければ自分の首をとっくに自分で刎ねている。アイリスの親――妹とその夫を死なせたその日にでも」
そう告げるフォードの声には深い後悔の色があった。
「……やっぱり、フォード様はアイリスが大切だったんですね」
「黙れ」
「よかったわね、アイリス」
「………………待て。今何と言った?」
「おじさま……」
「……!?」
おずおずと物陰から出てくるアイリス。
石像のように固まるフォード。
「だ、だ、大丈夫ですかミリーリア様!?」
「まさかフォード様をここまで怒らせるとは……ミリーリア様は本当に底が知れませんね」
アイリスを追うように現れる協力者のリタと、いざという時にフォードを諫めてもらう役として待機してくれていたケビン。
フォードはじろりと私を見た。
「……謀ったな?」
「偶然です」
「堂々と嘘を吐くな」
悪女のフリをしてフォードの本音を引き出す作戦、成功!
……後から教えてもらったんだけど、リタは私の台詞がアイリスに聞こえないよう、アイリスの耳をほとんどずっと塞いでくれていたらしい。
最後のほうはフォードの言葉を聞かせるために、耳を塞ぐのをやめていたそうだけど。
なんて気の利くメイドなのかしら。
「……」
フォードはため込んだ怒気を制御するように、小さく息を吐く。
「話にならない。俺はノクトール家に行く」
「アイリスを連れ戻すつもりですか? あなたはアイリスのことが邪魔だったのでは?」
「そんなことは言っていない」
「では、なぜアイリスを冷遇するのです?」
「お前には関係のないことだ」
「――亡くなったナイア・レオニス様の代わりとして、手元に置いておきたいのですか?」
一線を越えた。
「……っ」
私の喉元に巨大な金属の刃が突きつけられる。
一応言っておくと、フォードは動いていない。
フォードの鋼を操る魔術によって地面から大剣の刃が三つも生え、それが三方向から私を囲んでいるのだ。少しでも動けば私は串刺しになるだろう。
「それ以上口を開くな。その名はお前が口にしていいものではない」
冷静に聞こえるけど、フォードの迫力が一瞬前とは比べ物にならない。
間違いなく、フォードは怒り狂っている。
意思の力で無理やり無表情を保っているだけだ。
怖い。
本当に怖い。
けど、言うことは聞かない。
「質問の答えを、もらっていませんが」
「口を開くな、と言ったぞ」
「アイリスはナイア様の代わりですか?」
「――そんなはずがないだろう!」
とうとうフォードが怒鳴り声を上げた。
「アイリスはアイリスだ。ナイアの代わりであるはずがない」
「では、連れ戻す必要などないでしょう」
「アイリスはナイアの娘だ。非道な目に遭うと言われて放置できるはずがないだろう」
「では、アイリスが大切だとでも言うのですか?」
「俺は今、アイリスのために生きているようなものだ。そうでなければ自分の首をとっくに自分で刎ねている。アイリスの親――妹とその夫を死なせたその日にでも」
そう告げるフォードの声には深い後悔の色があった。
「……やっぱり、フォード様はアイリスが大切だったんですね」
「黙れ」
「よかったわね、アイリス」
「………………待て。今何と言った?」
「おじさま……」
「……!?」
おずおずと物陰から出てくるアイリス。
石像のように固まるフォード。
「だ、だ、大丈夫ですかミリーリア様!?」
「まさかフォード様をここまで怒らせるとは……ミリーリア様は本当に底が知れませんね」
アイリスを追うように現れる協力者のリタと、いざという時にフォードを諫めてもらう役として待機してくれていたケビン。
フォードはじろりと私を見た。
「……謀ったな?」
「偶然です」
「堂々と嘘を吐くな」
悪女のフリをしてフォードの本音を引き出す作戦、成功!
……後から教えてもらったんだけど、リタは私の台詞がアイリスに聞こえないよう、アイリスの耳をほとんどずっと塞いでくれていたらしい。
最後のほうはフォードの言葉を聞かせるために、耳を塞ぐのをやめていたそうだけど。
なんて気の利くメイドなのかしら。
24
お気に入りに追加
2,018
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~
柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。
こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。
「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」
そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。
だって、浮気をする人はいずれまた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる