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悪女ミリーリア2

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「フォード様もアイリスが疎ましかったのではありませんか? 呪いに侵された子供など」

「……」

 フォードはため込んだ怒気を制御するように、小さく息を吐く。

「話にならない。俺はノクトール家に行く」

「アイリスを連れ戻すつもりですか? あなたはアイリスのことが邪魔だったのでは?」

「そんなことは言っていない」

「では、なぜアイリスを冷遇するのです?」

「お前には関係のないことだ」


「――亡くなったナイア・レオニス様妹君の代わりとして、手元に置いておきたいのですか?」


 一線を越えた。

「……っ」

 私の喉元に巨大な金属の刃が突きつけられる。

 一応言っておくと、フォードは動いていない。
 フォードの鋼を操る魔術によって地面から大剣の刃が三つも生え、それが三方向から私を囲んでいるのだ。少しでも動けば私は串刺しになるだろう。

「それ以上口を開くな。その名はお前が口にしていいものではない」

 冷静に聞こえるけど、フォードの迫力が一瞬前とは比べ物にならない。
 間違いなく、フォードは怒り狂っている。
 意思の力で無理やり無表情を保っているだけだ。

 怖い。
 本当に怖い。
 けど、言うことは聞かない。

「質問の答えを、もらっていませんが」

「口を開くな、と言ったぞ」

「アイリスはナイア様の代わりですか?」

「――そんなはずがないだろう!」

 とうとうフォードが怒鳴り声を上げた。

「アイリスはアイリスだ。ナイアの代わりであるはずがない」

「では、連れ戻す必要などないでしょう」

「アイリスはナイアの娘だ。非道な目に遭うと言われて放置できるはずがないだろう」

「では、アイリスが大切だとでも言うのですか?」

「俺は今、アイリスのために生きているようなものだ。そうでなければ自分の首をとっくに自分で刎ねている。アイリスの親――妹とその夫を死なせたその日にでも」

 そう告げるフォードの声には深い後悔の色があった。

「……やっぱり、フォード様はアイリスが大切だったんですね」

「黙れ」

「よかったわね、アイリス」

「………………待て。今何と言った?」

「おじさま……」

「……!?」

 おずおずと物陰から出てくるアイリス。
 石像のように固まるフォード。

「だ、だ、大丈夫ですかミリーリア様!?」

「まさかフォード様をここまで怒らせるとは……ミリーリア様は本当に底が知れませんね」

 アイリスを追うように現れる協力者のリタと、いざという時にフォードを諫めてもらう役として待機してくれていたケビン。
 フォードはじろりと私を見た。

「……謀ったな?」

「偶然です」

「堂々と嘘を吐くな」

 悪女のフリをしてフォードの本音を引き出す作戦、成功!




 ……後から教えてもらったんだけど、リタは私の台詞がアイリスに聞こえないよう、アイリスの耳をほとんどずっと塞いでくれていたらしい。

 最後のほうはフォードの言葉を聞かせるために、耳を塞ぐのをやめていたそうだけど。

 なんて気の利くメイドなのかしら。
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