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カリナ・ブラインの誤算2
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よく考えれば、別に王都を出る必要はないのよ。
私は王都の教会本部へとやってきた。
ここには修行中の聖女候補がたくさんいる。
彼女たちを慰問して尊敬を集めればいい。教会での地位が確かなものになれば、私が素晴らしい聖女であることは疑いようもなくなるんだから。
「カリナ様、ようこそおいでくださいました」
「司祭様。お久しぶりです」
出迎えた司祭に挨拶をする。
この司祭は私が聖女候補だった頃は見向きもしなかったくせに、私が聖女になった途端にすり寄ってきた人物だ。腹の立つ態度だけど、利用しやすいのは悪くない。
私が苦手なのは教皇だ。あの老人は勘がいいので、直接話したら私がミリーリアの力を奪ったことに気付かれるかもしれない。しかも国王に匹敵する権力を持っている。
要注意ね。
「こちらです」
司祭によって聖女候補たちがいる部屋に案内される。
聖女候補たちは十歳くらいのものから私よりも年上の者までいる。
彼女たちは聖女の仕事の補佐をしたり、簡単な仕事を受けたりするのだ。
「こんにちは、みなさん。新しく聖女になったカリナ・ブラインよ。今日はいずれ立派な聖女になるであろうあなたたちを応援するために――」
侍女に考えさせたスピーチを読み上げる。
「今日はあなたたちに手本を見せようと思うわ。見ていなさい」
聖女候補たちの尊敬を集めるには、力を見せつければいいはず。
今の私にはミリーリアから奪った力がある。正直まだ完璧には操れていないけど、まあ、見習い連中相手なら十分ハッタリになるでしょ。
意識を集中させ、神聖魔力を操る。
すると……パアアッ、と輝く緑色の光の玉が現れた。
これは治癒魔術の光ではなく、精霊だ。
「どう? これが治癒の老精霊よ。こんなもの見たことないでしょう?」
治癒の老精霊。ミリーリアと契約していた精霊だ。吸魔の針でミリーリアから神聖魔力を奪い続けているおかげで、精霊たちは私を契約相手だと勘違いしているのだ。
「「「……」」」
あ、あれ?
何だか反応がよくないわね。
一番幼い聖女候補が手を挙げて尋ねてくる。
「カリナ様は精霊王とは契約していないのですか?」
「は? 何それ?」
「老精霊よりすごい存在だそうです」
そんなもの聞いたことがない。司祭が小声で教えてくれる。
「その……実は最近、ある聖女候補が破魔の精霊王と契約したのです。洗礼の儀をのぞき見していた聖女候補がいたらしく、大変な噂になっておりまして。アイリスという少女なのですが」
アイリス。
聞き覚えがあるわね。
――って、それ、ミリーリアの弟子の名前じゃない!
「そ、そんな存在がいるはずないじゃない。精霊の中て一番優れているのは老精霊よ」
「私、確かに見たんです。精霊王様は喋ってました」
「っ……何よ!? それじゃあ私の力がすごくないと言うわけ!?」
「す、すみません。そんなつもりでは」
鬱陶しい……! 私の予定では老精霊を見た聖女候補たちが私を尊敬するはずだったのに!
これも失敗だ。
何か他に私の力を証明できることは……
▽
私が水源の浄化なんてやっている間に、王都の北旅人区で爆発事故があったらしい。
北旅人区に住んでるのは貧しい住民たち。
正直けがらわしいから近寄りたくもないけど、この際構っていられない。
むしろけがらわしいからこそ、私のような聖女がやってきたら感動するはずよ。
すみかを失って悲しんでいる貧民たちと適当に交流しておけば、私の人気もあっという間に上がることでしょう。
建物の撤去作業をしている適当な住民に話かける。
「こんにちは、災難でしたね。何か困っていることがあれば教会を頼ってくださいね」
教会は貧者救済とかやっていたはずだし、何かしてくれるだろう。
私はこんな貧民を手助けするなんてごめんだけど。
すると住民はきょとんとした顔をしていたけど、納得したように言った。
「ああ、もしかしてミリーリア様のお知り合いの方ですか?」
「え?」
「おーい、みんな! 教会の方が来てくださったぞ!」
住民が声を張り上げると、住民たちがわらわら寄ってくる。
けがらわしいけど、我慢してその場にとどまる。
「その服、もしや聖女様ですか?」
「ミリーリア様のお知り合いなのでは?」
「こんにちは、来てくださってありがとうございます!」
ふーん?
貧民相手っていうのはマイナスだけど、私の好感度高いじゃない。
そうそう、やっぱり聖女っていうからにはこうじゃなきゃ。
「ミリーリア……様はこの場所に何か縁があるの?」
私が聞くと、住民の一人が答えた。
「ミリーリア様とお弟子さんのアイリス様は、以前事故があった時に我々を助けてくれたんです! 数十人のけが人を癒し、逃げられるようにしてくださいました。おかげで死者も出ず……我々にとってお二人は救いの女神様なのです!」
そうだそうだと声を上げる住民たち。
口を開けばミリーリアミリーリアって……ここにいるのは私なんだけど? 不愉快ね。
というか、数十人を治療した?
今のミリーリアにそんな力があるはずない。
ああ、わかった。
おそらく何かトリックを使ったんだろう。
そうやって住民を味方につけて、元の地位に戻ろうとしているんじゃないかしら? フン、くだらない浅知恵ね。
「騙されてはいけませんよ。ミリーリア様はとても計算高い方です。そうやって皆様に恩を売ったのです」
「……」
「下手をすれば、事故さえミリーリア様が仕込んだものだった可能性もあります」
私がそう言った瞬間――住民たちの笑顔が消失した。
「「「……は?」」」
「え」
「今、ミリーリア様を……我々の恩人を愚弄しましたか?」
「な、何よ」
住民たちの雰囲気が一瞬で剣呑なものに変わる。
何よ。さっきまで友好的な雰囲気だったじゃない。
「ふざけるな! ミリーリア様を悪く言うやつは貴族だって許さねえぞ!」
「そうだそうだ!」
「出てけ、馬鹿女!」
「ちょっ……やめなさい! やめなさいってば!」
すさまじい迫力で詰め寄られ、私は走って逃げ出す羽目になった。
どうしてこうなるのよ!?
私は王都の教会本部へとやってきた。
ここには修行中の聖女候補がたくさんいる。
彼女たちを慰問して尊敬を集めればいい。教会での地位が確かなものになれば、私が素晴らしい聖女であることは疑いようもなくなるんだから。
「カリナ様、ようこそおいでくださいました」
「司祭様。お久しぶりです」
出迎えた司祭に挨拶をする。
この司祭は私が聖女候補だった頃は見向きもしなかったくせに、私が聖女になった途端にすり寄ってきた人物だ。腹の立つ態度だけど、利用しやすいのは悪くない。
私が苦手なのは教皇だ。あの老人は勘がいいので、直接話したら私がミリーリアの力を奪ったことに気付かれるかもしれない。しかも国王に匹敵する権力を持っている。
要注意ね。
「こちらです」
司祭によって聖女候補たちがいる部屋に案内される。
聖女候補たちは十歳くらいのものから私よりも年上の者までいる。
彼女たちは聖女の仕事の補佐をしたり、簡単な仕事を受けたりするのだ。
「こんにちは、みなさん。新しく聖女になったカリナ・ブラインよ。今日はいずれ立派な聖女になるであろうあなたたちを応援するために――」
侍女に考えさせたスピーチを読み上げる。
「今日はあなたたちに手本を見せようと思うわ。見ていなさい」
聖女候補たちの尊敬を集めるには、力を見せつければいいはず。
今の私にはミリーリアから奪った力がある。正直まだ完璧には操れていないけど、まあ、見習い連中相手なら十分ハッタリになるでしょ。
意識を集中させ、神聖魔力を操る。
すると……パアアッ、と輝く緑色の光の玉が現れた。
これは治癒魔術の光ではなく、精霊だ。
「どう? これが治癒の老精霊よ。こんなもの見たことないでしょう?」
治癒の老精霊。ミリーリアと契約していた精霊だ。吸魔の針でミリーリアから神聖魔力を奪い続けているおかげで、精霊たちは私を契約相手だと勘違いしているのだ。
「「「……」」」
あ、あれ?
何だか反応がよくないわね。
一番幼い聖女候補が手を挙げて尋ねてくる。
「カリナ様は精霊王とは契約していないのですか?」
「は? 何それ?」
「老精霊よりすごい存在だそうです」
そんなもの聞いたことがない。司祭が小声で教えてくれる。
「その……実は最近、ある聖女候補が破魔の精霊王と契約したのです。洗礼の儀をのぞき見していた聖女候補がいたらしく、大変な噂になっておりまして。アイリスという少女なのですが」
アイリス。
聞き覚えがあるわね。
――って、それ、ミリーリアの弟子の名前じゃない!
「そ、そんな存在がいるはずないじゃない。精霊の中て一番優れているのは老精霊よ」
「私、確かに見たんです。精霊王様は喋ってました」
「っ……何よ!? それじゃあ私の力がすごくないと言うわけ!?」
「す、すみません。そんなつもりでは」
鬱陶しい……! 私の予定では老精霊を見た聖女候補たちが私を尊敬するはずだったのに!
これも失敗だ。
何か他に私の力を証明できることは……
▽
私が水源の浄化なんてやっている間に、王都の北旅人区で爆発事故があったらしい。
北旅人区に住んでるのは貧しい住民たち。
正直けがらわしいから近寄りたくもないけど、この際構っていられない。
むしろけがらわしいからこそ、私のような聖女がやってきたら感動するはずよ。
すみかを失って悲しんでいる貧民たちと適当に交流しておけば、私の人気もあっという間に上がることでしょう。
建物の撤去作業をしている適当な住民に話かける。
「こんにちは、災難でしたね。何か困っていることがあれば教会を頼ってくださいね」
教会は貧者救済とかやっていたはずだし、何かしてくれるだろう。
私はこんな貧民を手助けするなんてごめんだけど。
すると住民はきょとんとした顔をしていたけど、納得したように言った。
「ああ、もしかしてミリーリア様のお知り合いの方ですか?」
「え?」
「おーい、みんな! 教会の方が来てくださったぞ!」
住民が声を張り上げると、住民たちがわらわら寄ってくる。
けがらわしいけど、我慢してその場にとどまる。
「その服、もしや聖女様ですか?」
「ミリーリア様のお知り合いなのでは?」
「こんにちは、来てくださってありがとうございます!」
ふーん?
貧民相手っていうのはマイナスだけど、私の好感度高いじゃない。
そうそう、やっぱり聖女っていうからにはこうじゃなきゃ。
「ミリーリア……様はこの場所に何か縁があるの?」
私が聞くと、住民の一人が答えた。
「ミリーリア様とお弟子さんのアイリス様は、以前事故があった時に我々を助けてくれたんです! 数十人のけが人を癒し、逃げられるようにしてくださいました。おかげで死者も出ず……我々にとってお二人は救いの女神様なのです!」
そうだそうだと声を上げる住民たち。
口を開けばミリーリアミリーリアって……ここにいるのは私なんだけど? 不愉快ね。
というか、数十人を治療した?
今のミリーリアにそんな力があるはずない。
ああ、わかった。
おそらく何かトリックを使ったんだろう。
そうやって住民を味方につけて、元の地位に戻ろうとしているんじゃないかしら? フン、くだらない浅知恵ね。
「騙されてはいけませんよ。ミリーリア様はとても計算高い方です。そうやって皆様に恩を売ったのです」
「……」
「下手をすれば、事故さえミリーリア様が仕込んだものだった可能性もあります」
私がそう言った瞬間――住民たちの笑顔が消失した。
「「「……は?」」」
「え」
「今、ミリーリア様を……我々の恩人を愚弄しましたか?」
「な、何よ」
住民たちの雰囲気が一瞬で剣呑なものに変わる。
何よ。さっきまで友好的な雰囲気だったじゃない。
「ふざけるな! ミリーリア様を悪く言うやつは貴族だって許さねえぞ!」
「そうだそうだ!」
「出てけ、馬鹿女!」
「ちょっ……やめなさい! やめなさいってば!」
すさまじい迫力で詰め寄られ、私は走って逃げ出す羽目になった。
どうしてこうなるのよ!?
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