悪役聖女の教育係~推しの破滅フラグは私が全部へし折ります!~

ヒツキノドカ

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公爵様に報告

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「それじゃ、フォード様に報告に行ってくるわね」

「はい。いってらっしゃい、せんせい」

「い、いいい、いってくるわね!」

 いってらっしゃいって言われた! 普通の言葉のはずなのに、アイリスに言われるとすごい幸せな気分になる! 返事がちょっと気持ち悪くなった気もするけどそこは忘れよう。
 執務室に向かい、扉をノックする。

「ミリーリアです。フォード様、今よろしいですか?」

「……入れ」

「失礼します」

 執務室に入る。そこではフォードと、その腹心であるケビンが仕事をしていた。

「何か用か?」

 私のことなんて興味なさそうな顔で見てくるフォード。

 ふふん、私の報告を聞けば、そのすまし顔も崩れ去ることでしょう。
 きっとこの男も、アイリスが元気になったと聞けば大喜びするに違いない。
 何せ一緒に暮らしている姪のことなんだから。

「アイリスですが、サルクト山地の遺跡から回収した石の力で、呪いの影響を抑えられるようになりました。これからは屋敷の外に出ても大丈夫だと思います」

 フォードは書類から顔を上げずに言った。

「そうか。それで他に言うことは?」

「え?」

「ないなら下がれ。執務の邪魔だ」

「は……」

 はぁああああああああああああああああああ!?

「そんな言い方はないでしょう! あなたはアイリスの保護者じゃないんですか!?」

「十分な食事も、寝心地のいい寝具も、退屈しのぎの本も与えている。保護者としての責務は果たしている」

「なっ……!」

「用がないなら下がれ、と俺は言ったぞ。それとも他に何か用があるのか?」

 何この男、ひっぱたきたいんだけど! ああでも、手をあげるとうちの実家にも迷惑が!
 私は深呼吸して怒りを追い出し、「失礼いたしました!」と言い捨てて執務室を出た。

「何なのよあの男……!」

 アイリスが健康になったんだから、ここは少しくらい喜ぶべきところじゃないの!? あの男の血は一体何色をしているのだろうか。

 食事、寝具、本。確かにそれらは大切だ。でも、アイリスの実の両親はもう亡くなっている。なら一番必要なのは家族からの愛情じゃないの?
 フォードの態度に腹立たしさを感じていると……

「ミリーリア様」

「ケビン様?」

 執務室から追ってきたのか、フォードの部下のケビンが声をかけてきた。
 くせのある茶髪が特徴的な、どこか世慣れた雰囲気の男性だ。フォードと方向性は異なるけれど、彼もなかなかの美男である。

「……何でしょうか?」

 虫の居所が悪かった私は、じろりと彼を睨んでしまうけど――ケビンは申し訳なさそうに言ってきた。

「フォード様を、嫌わないでいてくれませんか」

「え?」

「あの方にも込み入った事情があるのです。アイリス様に愛情を向けられない事情が」

「……」

 私は黙り込む。
 原作においてフォードはそこまで深く掘り下げられないキャラだ。しかし設定資料集には短いながらもフォードのことも取り上げられており、私は完全ではないにせよ、彼の抱える過去を知っている。

 はっきり言うけど……かなり重い。
 アイリスに冷たく当たる理由も、理解はできる。
 でも納得はできない。

 私はケビンに言った。

「しばらく待ちます」

「待つ、ですか?」

「はい。フォード様が自ら事情を明かしてくれるのを。それまでは嫌ったりしません」

 とりあえず腹を割って話すまでは評価は保留、ということでどうだろう。
 結婚して――というか知り合って間もない私に、何でも話せというのは無理がある。
 だから待つのだ。そしてフォードが事情を明かした時にきちんと話す。

「うまく話し合いができて、それでもフォード様がアイリスへの態度を変えないなら――」

「変えないなら……?」

「アイリスを連れて実家に帰ります」

 別居だ。
 まあうちの屋敷も王都にあるので、物理的な距離はそんなに離れないけど。

 ケビンは目を丸くした後、噴き出すのをこらえるような顔で、「寛大な処置に感謝いたします」と言うのだった。
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