悪役聖女の教育係~推しの破滅フラグは私が全部へし折ります!~

ヒツキノドカ

文字の大きさ
上 下
2 / 29

悪役聖女アイリス

しおりを挟む
「「「お待ちしておりました、ミリーリア様」」」

「ええ、ありがとう」

 メイドと使用人がずらりと並ぶ中、私はレオニス家の屋敷へと入っていく。

 広い……いくら王都が広大だっていっても、街の中にあっていい建物じゃないと思う。さすがは名門レオニス家の屋敷ね。
 屋敷に入ると銀髪碧眼の美丈夫が出迎えてくれる。

「ようこそ、我が妻ミリーリア。この屋敷は今日からお前の住まいでもある。何か不満があれば遠慮なく言ってくれ。可能な限り対応しよう」

 スマートに歓迎の意を示すこの屋敷の主、フォード・レオニス。
 けれど顔は完全に無表情で、礼儀だから言っているだけなのが丸わかりなんだけど?

「まあ、これはご丁寧に。本日よりよろしくお願いいたしますね、旦那様?」

「こちらこそ。よき伴侶となれるよう努めよう」

「あら、うふふ」

「ははは」

「「「……!」」」

 愛想笑い全開の私と、無表情のフォードをメイドたちがごくりと息を呑みながら見ている。

「では、俺は執務があるのでこれで。何かあれば執務室に」

 フォードは挨拶を済ませると、あっさりその場を去っていった。
 メイドの一人が申し訳なさそうに言ってくる。

「申し訳ありません、ミリーリア様。フォード様は本当にお忙しい方で、決してミリーリア様をないがしろにする意思があるわけでは……」

「大丈夫ですわ。フォード様のお仕事については存じておりますもの」

 フォードの仕事は王立騎士団の副団長。

 代々武力を司るレオニス家の当主は、若いうちは騎士団で現場を学び、その後は軍務卿など軍事にかかわる仕事につく。そのうえ公爵家当主の政務もあるのだから、フォードが多忙なのは有名な話だ。

「そう言っていただけると助かります。何か要望があれば、遠慮なくお申し付けください。ミリーリア様は、今日よりこの屋敷のもうひとりの主なのですから」

 この国では妻が家政を取り仕切るのが一般的とされている。

「心得ていますわ。それではさっそく一つ頼みたいことがあるのだけど」

「何でしょうか?」

「私の弟子になる予定の子……アイリスと言うのよね? その子の元に案内してほしいの」

 原作ラスボス、悪役聖女のアイリスはフォードの妹の子供――姪だ。
 アイリスは物心つく前に両親を亡くしており、伯父であるフォードが世話をしているのである。

 私にとってはフォードよりアイリスのほうが重要だ。
 何しろアイリスと良好な関係を築けるかどうかで、私の運命が決まるのだから。

「……かしこまりました。こちらです」

 メイドは頷き、私を連れて屋敷の中を移動していった。
 たどりついたのは屋敷の端にある部屋。
 ドアノブを前に、私はごくりと喉を鳴らす。
 この部屋の中にアイリスがいるのね。

 氷の聖女。
 原作ではそんなふうに呼ばれた、一切感情を表に出さない人物。

 その十年前の姿は原作でも語られていない。
 どんな姿なんだろうか。
 よし、行くわよ!

 ガチャッ。

 私は扉を開けて、アイリスのいる部屋に足を踏み入れた。
 そこにいたのは……


「は、はじめまして。わたしは、あいりす・れおにすといいます。きょうから、よろしくおねがいします、せんせい!」


「………………え?」

 フォードと同じ銀髪碧眼の、お人形さんみたいに可愛い女の子。
 腰までの髪はサラサラで、大きな目は宝石のよう。
 肌は白くて陶器を思わせるけれど、ほっぺはぷにっとしていて愛らしい。
 今日から教育係が来ることを聞いていたのか、緊張しつつも、礼儀正しく挨拶してくれる。

 か……

「可愛いいいいいいいいい!」

「きゃああああ!?」

 私は思わず目の前の天使を抱きしめた。

 え? 十年前のアイリスってこんなに可愛いの!? 予想と全然違うんだけど!
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

王子の呪術を解除したら婚約破棄されましたが、また呪われた話。聞く?

十条沙良
恋愛
呪いを解いた途端に用済みだと婚約破棄されたんだって。ヒドクない?

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

婚約者の心の声が聞こえるようになったが手遅れだった

神々廻
恋愛
《めんどー、何その嫌そうな顔。うっざ》 「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」 婚約者の声が聞こえるようになったら.........婚約者に罵倒されてた.....怖い。 全3話完結

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...