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悪役聖女アイリス
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「「「お待ちしておりました、ミリーリア様」」」
「ええ、ありがとう」
メイドと使用人がずらりと並ぶ中、私はレオニス家の屋敷へと入っていく。
広い……いくら王都が広大だっていっても、街の中にあっていい建物じゃないと思う。さすがは名門レオニス家の屋敷ね。
屋敷に入ると銀髪碧眼の美丈夫が出迎えてくれる。
「ようこそ、我が妻ミリーリア。この屋敷は今日からお前の住まいでもある。何か不満があれば遠慮なく言ってくれ。可能な限り対応しよう」
スマートに歓迎の意を示すこの屋敷の主、フォード・レオニス。
けれど顔は完全に無表情で、礼儀だから言っているだけなのが丸わかりなんだけど?
「まあ、これはご丁寧に。本日よりよろしくお願いいたしますね、旦那様?」
「こちらこそ。よき伴侶となれるよう努めよう」
「あら、うふふ」
「ははは」
「「「……!」」」
愛想笑い全開の私と、無表情のフォードをメイドたちがごくりと息を呑みながら見ている。
「では、俺は執務があるのでこれで。何かあれば執務室に」
フォードは挨拶を済ませると、あっさりその場を去っていった。
メイドの一人が申し訳なさそうに言ってくる。
「申し訳ありません、ミリーリア様。フォード様は本当にお忙しい方で、決してミリーリア様をないがしろにする意思があるわけでは……」
「大丈夫ですわ。フォード様のお仕事については存じておりますもの」
フォードの仕事は王立騎士団の副団長。
代々武力を司るレオニス家の当主は、若いうちは騎士団で現場を学び、その後は軍務卿など軍事にかかわる仕事につく。そのうえ公爵家当主の政務もあるのだから、フォードが多忙なのは有名な話だ。
「そう言っていただけると助かります。何か要望があれば、遠慮なくお申し付けください。ミリーリア様は、今日よりこの屋敷のもうひとりの主なのですから」
この国では妻が家政を取り仕切るのが一般的とされている。
「心得ていますわ。それではさっそく一つ頼みたいことがあるのだけど」
「何でしょうか?」
「私の弟子になる予定の子……アイリスと言うのよね? その子の元に案内してほしいの」
原作ラスボス、悪役聖女のアイリスはフォードの妹の子供――姪だ。
アイリスは物心つく前に両親を亡くしており、伯父であるフォードが世話をしているのである。
私にとってはフォードよりアイリスのほうが重要だ。
何しろアイリスと良好な関係を築けるかどうかで、私の運命が決まるのだから。
「……かしこまりました。こちらです」
メイドは頷き、私を連れて屋敷の中を移動していった。
たどりついたのは屋敷の端にある部屋。
ドアノブを前に、私はごくりと喉を鳴らす。
この部屋の中にアイリスがいるのね。
氷の聖女。
原作ではそんなふうに呼ばれた、一切感情を表に出さない人物。
その十年前の姿は原作でも語られていない。
どんな姿なんだろうか。
よし、行くわよ!
ガチャッ。
私は扉を開けて、アイリスのいる部屋に足を踏み入れた。
そこにいたのは……
「は、はじめまして。わたしは、あいりす・れおにすといいます。きょうから、よろしくおねがいします、せんせい!」
「………………え?」
フォードと同じ銀髪碧眼の、お人形さんみたいに可愛い女の子。
腰までの髪はサラサラで、大きな目は宝石のよう。
肌は白くて陶器を思わせるけれど、ほっぺはぷにっとしていて愛らしい。
今日から教育係が来ることを聞いていたのか、緊張しつつも、礼儀正しく挨拶してくれる。
か……
「可愛いいいいいいいいい!」
「きゃああああ!?」
私は思わず目の前の天使を抱きしめた。
え? 十年前のアイリスってこんなに可愛いの!? 予想と全然違うんだけど!
「ええ、ありがとう」
メイドと使用人がずらりと並ぶ中、私はレオニス家の屋敷へと入っていく。
広い……いくら王都が広大だっていっても、街の中にあっていい建物じゃないと思う。さすがは名門レオニス家の屋敷ね。
屋敷に入ると銀髪碧眼の美丈夫が出迎えてくれる。
「ようこそ、我が妻ミリーリア。この屋敷は今日からお前の住まいでもある。何か不満があれば遠慮なく言ってくれ。可能な限り対応しよう」
スマートに歓迎の意を示すこの屋敷の主、フォード・レオニス。
けれど顔は完全に無表情で、礼儀だから言っているだけなのが丸わかりなんだけど?
「まあ、これはご丁寧に。本日よりよろしくお願いいたしますね、旦那様?」
「こちらこそ。よき伴侶となれるよう努めよう」
「あら、うふふ」
「ははは」
「「「……!」」」
愛想笑い全開の私と、無表情のフォードをメイドたちがごくりと息を呑みながら見ている。
「では、俺は執務があるのでこれで。何かあれば執務室に」
フォードは挨拶を済ませると、あっさりその場を去っていった。
メイドの一人が申し訳なさそうに言ってくる。
「申し訳ありません、ミリーリア様。フォード様は本当にお忙しい方で、決してミリーリア様をないがしろにする意思があるわけでは……」
「大丈夫ですわ。フォード様のお仕事については存じておりますもの」
フォードの仕事は王立騎士団の副団長。
代々武力を司るレオニス家の当主は、若いうちは騎士団で現場を学び、その後は軍務卿など軍事にかかわる仕事につく。そのうえ公爵家当主の政務もあるのだから、フォードが多忙なのは有名な話だ。
「そう言っていただけると助かります。何か要望があれば、遠慮なくお申し付けください。ミリーリア様は、今日よりこの屋敷のもうひとりの主なのですから」
この国では妻が家政を取り仕切るのが一般的とされている。
「心得ていますわ。それではさっそく一つ頼みたいことがあるのだけど」
「何でしょうか?」
「私の弟子になる予定の子……アイリスと言うのよね? その子の元に案内してほしいの」
原作ラスボス、悪役聖女のアイリスはフォードの妹の子供――姪だ。
アイリスは物心つく前に両親を亡くしており、伯父であるフォードが世話をしているのである。
私にとってはフォードよりアイリスのほうが重要だ。
何しろアイリスと良好な関係を築けるかどうかで、私の運命が決まるのだから。
「……かしこまりました。こちらです」
メイドは頷き、私を連れて屋敷の中を移動していった。
たどりついたのは屋敷の端にある部屋。
ドアノブを前に、私はごくりと喉を鳴らす。
この部屋の中にアイリスがいるのね。
氷の聖女。
原作ではそんなふうに呼ばれた、一切感情を表に出さない人物。
その十年前の姿は原作でも語られていない。
どんな姿なんだろうか。
よし、行くわよ!
ガチャッ。
私は扉を開けて、アイリスのいる部屋に足を踏み入れた。
そこにいたのは……
「は、はじめまして。わたしは、あいりす・れおにすといいます。きょうから、よろしくおねがいします、せんせい!」
「………………え?」
フォードと同じ銀髪碧眼の、お人形さんみたいに可愛い女の子。
腰までの髪はサラサラで、大きな目は宝石のよう。
肌は白くて陶器を思わせるけれど、ほっぺはぷにっとしていて愛らしい。
今日から教育係が来ることを聞いていたのか、緊張しつつも、礼儀正しく挨拶してくれる。
か……
「可愛いいいいいいいいい!」
「きゃああああ!?」
私は思わず目の前の天使を抱きしめた。
え? 十年前のアイリスってこんなに可愛いの!? 予想と全然違うんだけど!
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