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教え子が健康になりました
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「からだが……くるしく、ありません」
アイリスが呆然と呟いた。
よしっ! と心の中でガッツポーズ。
ここはアイリスの部屋。数日かけてサルクト山地から戻ってきた私は、さっそく浄化結晶の効き目を実感していた。
アイリスの胸元にあるのは、浄化結晶を用いたペンダントだ。
浄化結晶そのものに穴を空けるのは怖いので、全体を囲むようにカプセル状の容れ物を用意し、それを使ってペンダントにした。作成は王都に魔道具職人である。
「せんせい、からだが、くるしくないです! せきも、めまいも、ないです!」
目を輝かせてアイリスが嬉しそうに言う。
「よかったわね、アイリス」
「はい!」
アイリスは健康な体が新鮮なのか、その場でぴょんぴょん跳ねたり、くるくる回ったりしている。可愛い……もう、本当に可愛い……
「遠出した甲斐があったわね!」
「……そうですね、ミリーリア様」
「あら、あなたはどうしてそんなにげっそりしているの、リタ?」
部屋の扉近くで待機しているリタが溜め息を吐く。元気なアイリスを前にその反応はどうなのよ。
「こんな反応にもなりますよ! 山登りも、遺跡を歩き回ったのも、ご命令とあらば構いません! ですが問題はその後……ミリーリア様、浄化結晶の効果を確かめると言って、汚染された水源に立ち寄ったじゃないですか! ミリーリア様のお体に何かあったらと思うと、気が気ではありません!」
ああ、そんなこともあったわね。
リタの言う通り、サルクト山地からの帰路、私は浄化結晶の効き目を確認するために寄り道をした。途中で水源に毒素を含んだ魔物の糞が混ざり、水不足に陥っている村があったので、問題の水源を浄化結晶で清めたのだ。
あれはすごかった。私が浄化結晶を掲げ魔力を流すなり、毒々しい紫色だった水面が一瞬で透き通ったのだから。
さすがは原作におけるチートアイテム。
浄化結晶の効力も確かめられたし、村人は喜んでくれたし、いい寄り道だったわね。
「まあまあ、今のところ何ともないわけだし。それに何かあったらすぐにお医者様に診てもらうから」
「そんなことにならないよう祈ります……あとミリーリア様、今後あのような無茶はお控えくださいませ。私、胃が痛いです」
「もちろんよ。無茶なんてするはずがないでしょう」
「なぜでしょうミリーリア様。私、その笑顔がだんだん信じられなくなってまいりました」
心外な。私は無茶なんてしない。アイリスさえ絡まなければ。
リタと話していると、体を動かすのに満足したらしいアイリスが駆け寄ってきた。
「せんせい、すごいです! どんなにおすくりをのんでも、わたし、げんきになれませんでした。でも、いま、からだがかるいです」
「それはいいことね。……でも、アイリス。あなたの体が本当に治ったわけじゃないのよ。だから、あまり無理はしないようにね」
浄化結晶により、アイリスの苦しみはやわらいだ。
けれど、アイリスを苦しめていた諸悪の根源――悪魔がアイリスの体から出て行ったわけじゃない。見えるわけではないけど、元聖女の感覚が教えてくれる。アイリスの体の中に、まだ異物が残っていることを。
完全にそれを取り除くには、やっぱりアイリス自身の力が必要だ。
アイリスが立派な聖女になれば、浄化結晶による外部からの力と合わせて、呪いを取り除けるかもしれない。
「ごめんなさいね、アイリス。本当はあなたを完璧に元気にしたかったんだけど……」
「せんせい。ちゃんとなおったわけじゃなくても、わたし、すごくうれしいです。ありがとうございます」
「……そう言ってもらえて嬉しいわ」
にっこりと笑うアイリスは、多分私の言葉の意味をきちんと理解している。
そのうえで私に気を遣わせないように、笑顔を浮かべているんだろう。
いい子だ。
やっぱりこの子は私の推し……! 儚くて美しい原作アイリスも素敵だけど、こっちに素直可愛いアイリスも最高ね!
アイリスが呆然と呟いた。
よしっ! と心の中でガッツポーズ。
ここはアイリスの部屋。数日かけてサルクト山地から戻ってきた私は、さっそく浄化結晶の効き目を実感していた。
アイリスの胸元にあるのは、浄化結晶を用いたペンダントだ。
浄化結晶そのものに穴を空けるのは怖いので、全体を囲むようにカプセル状の容れ物を用意し、それを使ってペンダントにした。作成は王都に魔道具職人である。
「せんせい、からだが、くるしくないです! せきも、めまいも、ないです!」
目を輝かせてアイリスが嬉しそうに言う。
「よかったわね、アイリス」
「はい!」
アイリスは健康な体が新鮮なのか、その場でぴょんぴょん跳ねたり、くるくる回ったりしている。可愛い……もう、本当に可愛い……
「遠出した甲斐があったわね!」
「……そうですね、ミリーリア様」
「あら、あなたはどうしてそんなにげっそりしているの、リタ?」
部屋の扉近くで待機しているリタが溜め息を吐く。元気なアイリスを前にその反応はどうなのよ。
「こんな反応にもなりますよ! 山登りも、遺跡を歩き回ったのも、ご命令とあらば構いません! ですが問題はその後……ミリーリア様、浄化結晶の効果を確かめると言って、汚染された水源に立ち寄ったじゃないですか! ミリーリア様のお体に何かあったらと思うと、気が気ではありません!」
ああ、そんなこともあったわね。
リタの言う通り、サルクト山地からの帰路、私は浄化結晶の効き目を確認するために寄り道をした。途中で水源に毒素を含んだ魔物の糞が混ざり、水不足に陥っている村があったので、問題の水源を浄化結晶で清めたのだ。
あれはすごかった。私が浄化結晶を掲げ魔力を流すなり、毒々しい紫色だった水面が一瞬で透き通ったのだから。
さすがは原作におけるチートアイテム。
浄化結晶の効力も確かめられたし、村人は喜んでくれたし、いい寄り道だったわね。
「まあまあ、今のところ何ともないわけだし。それに何かあったらすぐにお医者様に診てもらうから」
「そんなことにならないよう祈ります……あとミリーリア様、今後あのような無茶はお控えくださいませ。私、胃が痛いです」
「もちろんよ。無茶なんてするはずがないでしょう」
「なぜでしょうミリーリア様。私、その笑顔がだんだん信じられなくなってまいりました」
心外な。私は無茶なんてしない。アイリスさえ絡まなければ。
リタと話していると、体を動かすのに満足したらしいアイリスが駆け寄ってきた。
「せんせい、すごいです! どんなにおすくりをのんでも、わたし、げんきになれませんでした。でも、いま、からだがかるいです」
「それはいいことね。……でも、アイリス。あなたの体が本当に治ったわけじゃないのよ。だから、あまり無理はしないようにね」
浄化結晶により、アイリスの苦しみはやわらいだ。
けれど、アイリスを苦しめていた諸悪の根源――悪魔がアイリスの体から出て行ったわけじゃない。見えるわけではないけど、元聖女の感覚が教えてくれる。アイリスの体の中に、まだ異物が残っていることを。
完全にそれを取り除くには、やっぱりアイリス自身の力が必要だ。
アイリスが立派な聖女になれば、浄化結晶による外部からの力と合わせて、呪いを取り除けるかもしれない。
「ごめんなさいね、アイリス。本当はあなたを完璧に元気にしたかったんだけど……」
「せんせい。ちゃんとなおったわけじゃなくても、わたし、すごくうれしいです。ありがとうございます」
「……そう言ってもらえて嬉しいわ」
にっこりと笑うアイリスは、多分私の言葉の意味をきちんと理解している。
そのうえで私に気を遣わせないように、笑顔を浮かべているんだろう。
いい子だ。
やっぱりこの子は私の推し……! 儚くて美しい原作アイリスも素敵だけど、こっちに素直可愛いアイリスも最高ね!
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